聞かれたわけでもないのに嬉しそうに弁明する/高田里惠子

 なぜこういう本を書いたのかと質問されることがある。著者にたいする一種の社交辞令でもあるのは知っているが、根が真面目なわたしは、いつもそれなりに真剣に考えてしまう。もっとも、こんな質問をされるのは、わたしのせいなのだ。わたしの本は、『くじけないで』とか『悩む力』のような、著者のまごころを感じさせるものでもなければ、著者の学問的関心がおのずと伝わってくる学術書でもなく、こんな本は全体何のために書かれたのか、といった疑念を抱かせる本だからである。
 さて、今回のちくま新書だが、やはり、なぜこんな題名の本を、と聞かれるかもしれないと考え、聞かれもしないのに答えてしまうオメデタさを発揮することにした。
 今度の本だけでなく、わたしの数少ない著書はすべて、わたしにとって異性である男性への深い尊敬から生まれている。嘘だと思ったら、まずはちくま文庫の『文学部をめぐる病い』とちくま新書の『グロテスクな教養』を買って読んでいただきたい(図書館で借りてはいけません)。二冊とも男性論であるが、きっと納得していただける……ことはないと思うので、少し補足をしておこう。男性たちがなかなかわたしの尊敬の図におさまってくれない! なぜ、どうして? この悲しい問いをシツコク追っていった果てに出てきたのが、わたしの本なのである。
 この新書も、なぜ尊敬すべき男たちが女ごときに捕まり、結婚してしまうんだ(コノ馬鹿め)という、多くの女性たちがもっているはずの複雑にして凡庸な思いを、さまざまな小説や作家の生き方を参照しながら分析した、言わばジェンダー論兼文学論である。まともな男なら、たいていは責任感とか恥の感覚とかを備えているので女のように身軽には動けない。男は女に、できれば無償の愛をそそいでくれる女に〈選ばれ〉るのをじっと待っている。というふうに、わたしには見えてしまう。
 もう一つの補足説明として、〈選ばれ男子〉という題名のほうが内容よりも先にあったことを言っておきたい。わたしが考えついたのではなく、若い編集者(♂)が提案してくれた。以下、彼の許可も得ず、メールをそのまま引用しよう。


タイトルは(もちろん仮ですが)『選ばれ男子』というべきものにでもなるでしょうか。テーマは「選ばれる性としてのエリート男性」です。ここでいう「選ばれる」という意味は、たいへん広くなってしまうのですが(まず、第一に受験システムを通じて「選抜される」、次にエリート仲間から真に友情を結ぶ相手として「承認される」、異性から配偶者として「高く値ぶみされる」、母親に出世の期待を「託される」などなど)、ともかくも、他者の欲望に誠実に応えながらも、自分の人生を生きようとするエリート男性のお話、ということです。「男の子はつらいよ」です。


 近代社会のなかで自由意志を行使して自分自身をつくりあげていく〈選ぶ性〉と思われている強者男性が実は、受動的な〈選ばれ〉にさらされている性なのではないか。この考えにわたしはつい乗せられてしまった。こうして書きはじめられたエリート男性論がどんどん脇道やら邪道やらに逸れ、ついにむしろ、「女の子いかに生くべきか」という女性論となり、〈選ばれ男子〉が男らしくも潔く副題に退いてくれた次第である。
 で、できあがった変容女子論の最初の読者となった編集者曰く。「しかしまあ、〈選ばれ〉にさらされる過酷さが、結局一周回って、〈選ぶ性〉の可能性を手にいれた女子にも回帰してくるんですよね。〈選ばれたい〉という欲望の切なさっていうのは、この本の通奏低音にもなっていると思います」。
 そう、切ない本。男も女も泣けるよ(これは、さすがに嘘)。
(たかだ・りえこ 桃山学院大学教授)

『女子・結婚・男選び――あるいは〈選ばれ男子〉』 詳細
高田理惠子著

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