松田哲夫の王様のブランチ出版情報ニュース

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.4.26)

2008年04月26日

『こうふく あかの』と「特集・矢口敦子『償い』」


<文庫ランキング> (4/14~4/20 日販オープンネットワークWIN調べ)
 1位 佐伯泰英『白桐の夢 居眠り磐音江戸双紙』(双葉社)
 2位 佐伯泰英『上海 交代寄合伊那衆異聞』(講談社)
 3位 北方謙三『水滸伝 十九』(集英社)
 4位 平岩弓枝『小判商人 御宿かわせみ33』(文藝春秋)
 5位 横山秀夫『震度0』(朝日新聞出版)
 6位 矢口敦子『償い』(幻冬舎)
 7位 伊坂幸太郎『死神の精度』(文藝春秋)
 8位 栗本薫『旅立つマリア グイン・サーガ120』(早川書房)
 9位 北方謙三『替天行道 北方水滸伝読本』(集英社)
10位 荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 40』(集英社)
谷原 松田さん、文庫ランキング3位の『水滸伝』なんですが、ぼくもはまっているんですが、読み始めると止まらないですよね。
松田 本当にぼくも止まらないで困っているんですけども。なんで、こんなに面白いのかというと、「水滸伝」という大ロマンを一回解体して、そこに、新しいキャラクターなり、迫力のある合戦場面なりをふんだんに入れて、何倍にも何十倍にして再構築してるんですね。だから、北方さんの並外れた筆力が生み出した一大エンタテインメントなんで、絶対に面白いこと間違いないですね。
谷原 キャラクターが本当に魅力的で、楊志というキャラクターがいて、その男の生き様、死に様が本当にかっこいいんですよ。皆さん、是非読んでいただきたいと思います。あと1位の佐伯さんの作品も面白いです。


<特集・矢口敦子『償い』>
◎矢口敦子『償い』(幻冬舎)



7年前の作品にもかかわらず、新宿の二つの書店(福家書店新宿サブナード店、紀伊國屋書店新宿本店)が、偶然、同時期にPOPを立てて、独自に展開したことから火が付き、いまや45万部のベストセラーになったという、感動の長編ミステリー。主人公は36歳の元医師・日高。彼は、子供の病死と妻の自殺によって絶望し、ホームレスになった。流れ着いた郊外の町で、社会的弱者を狙った連続殺人事件が起き、日高はある刑事の依頼で「探偵」となる。やがて彼は、かつて自分が命を救った15歳の少年が犯人ではないかと疑いはじめるが……。作者の矢口さんは、小学5年生の時に、病気で学校に行けなくなり、大学も通信教育で卒業しました。そういう過去をもっているせいでしょうか、彼女の作品は社会的弱者への優しい眼差しに満ちています。札幌在住の矢口さんを訪ね、この作品に託した思いをうかがいました。また、ヒットのきっかけになった書店も直撃しました。


<今週の松田チョイス>
◎西加奈子『こうふく あかの』(小学館)



松田 活きのいい作品を次々と発表しています西加奈子さんの最新作『こうふく あかの』という作品です。
 先日、『通天閣』で、織田作之助賞を受賞した西加奈子さん。その最新作は、『こうふく あかの』と『こうふく みどりの』という、どこかで繋がっている、まったく別々の物語。『こうふく みどりの』では、中学生緑の日常と淡い初恋が描かれます。そして、『こうふく あかの』では、2007年のサラリーマンの苦悩と2039年のプロレスラーの生き様が交互に語られ、やがて二つの話がリンクしていくのです。>
松田 『こうふく みどりの』と『こうふく あかの』というのは、それぞれ独立した波瀾万丈の物語として楽しめるんです。『こうふく あかの』の方を取り上げてみようと思うんですが、これは、ちょっと自意識過剰なサラリーマンが、奥さんから妊娠を告げられる。だけど、全然心当たりがないので、非常に衝撃を受けるという、深刻なお話が一方であって、そこに突然、未来の、約30年後のプロレスの試合の話が入ってくるんですね。そういう荒唐無稽な話なんですけども、西さんの独特の、活きのいい、コミカルな語り口でグイグイと読まされていくんです。で、あるところまでいくと、この二つの全然違うドラマが、「アントニオ猪木」というキーワードで結びつくっていうことがわかってくるんですね。なかなか不思議な展開になっているんです。最後まで読むと、ハッピーエンドとは言えないんですけども、ああ、こういう終わり方いいんだ、人生ってこういうもんだって思うんです。人生っていうリングの上で、みんな死にものぐるいで戦っている。それもいいじゃないかって、心が温かくなる、元気をもらえるという素敵な物語なんですね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.4.19)

2008年04月20日

「特集・小川糸『食堂かたつむり』」


<小説ランキング>  (4/3~4/9 丸善日本橋店調べ)
 1位 小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)
 2位 伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(新潮社)
 3位 山本一力『菜種晴れ』(中央公論新社)
 4位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 5位 東野圭吾『流星の絆』(講談社)
 6位 川上弘美『風花』(集英社)
 7位 和田竜『のぼうの城』(小学館)
 8位 海堂尊『ジーン・ワルツ』(新潮社)
 9位 緒川怜『霧のソレア』(光文社)
10位 江上剛『愛、弁解せず。』(PHP研究所)


<特集・小川糸『食堂かたつむり』>
◎小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)



<スタジオ>
英玲奈 今週のランキングでも堂々1位を飾り、ただいま、大ブレイク中です。『食堂かたつむり』の作者小川糸さんにお会いしてきました。


<VTR>
優香 久しぶりに号泣しました。もう、溢れて出てくるんですよ。(3月22日O.A.)
はしの 後半、涙をこらえるのが大変。閉じては上向いて(眼をパチパチ)、また開けて、閉じては上向いてというのを繰り返して……。(3月29日O.A.)
N そんな声が広がって、現在12万部突破の大ベストセラーになっているのが『食堂かたつむり』。ある日突然、何もかも失った主人公倫子は、故郷で食堂を始める。一日一組、その客だけに作られたメニューは、人びとを癒し、小さな奇跡を生んでいきます。>
英玲奈 あの方だと思います。
N とても気になる、この本の作者小川糸さんを訪ねました。>
英玲奈 英玲奈です。
小川 はじめまして、小川糸です。
N 新緑に映える黄色いワンピースがお似合いの小川糸さん。とても優しげ。>
英玲奈 小川さんと倫子ちゃんが一致してきました。
小川 いえー、どうなんでしょう。
英玲奈 ホンワカとした雰囲気で。すごく優しそうな方だなあという印象を受けました。
小川 ウフフフフ。わかんないです。
英玲奈 わかんないですか。
小川 わかんないです。……こちらになります。
英玲奈 こちらですか。
N そんな小川さんが案内してくれたのが……。>
小川 私にとっての「食堂かたつむり」なので……。
N 小川さんのお気に入りの場所、お友達の料理研究家が開いたというアトリエで、お話を伺うことにしました。>
英玲奈 『食堂かたつむり』を「王様のブランチ」で紹介した後、すごい反響があったという風に伺ったんですけども。
小川 はい。みなさんから、ああいうコメントいただいて、本当にうれしいと同時に、背筋が伸びるというか。物語を書こうと思ってから、10年経つので、その間に、辛いこととかもあって、それがお腹からにじみ出てくるというか、放送の後は、いろいろ思い出してボロボロ泣いてしまいました。
N これまで小川さんは、fairlifeという音楽集団で、作詞を担当。>
小川 浜田省吾さんがメロディを作って、私が詞を書いて、水谷(公生)がアレンジをして……。
英玲奈 水谷さんとおっしゃる方は?
小川 私のパートナーというか夫です。
英玲奈 旦那さんで。じゃあ、ご結婚もされて……。
小川 はい。
N これまでに3枚のCDを発表して、その中には、ポルノグラフィティの岡野昭仁さんをはじめ、奥田民生さんやゴスペラーズら一流アーティストがゲストとして参加。しかし、小川さんの目標である作家にはなかなかたどり着けず、『食堂かたつむり』が世に出るまでには紆余曲折がありました。実は、この作品、2年前の「ポプラ社小説大賞」で、最終選考にも残らず落選。しかし、光る物を感じた編集者の目にとまり、2年の歳月をかけ、今年、出版がかなったのです。>
小川 私も、これがダメだったら、作家になるっていうことをあきらめようかなって思って出した作品なので……。
英玲奈 感謝ですね。
小川 本当に感謝です。
N そんな10年分の思いが詰まった『食堂かたつむり』では……。「リンゴちゃん、こんなカレー、はじめて食ったよ」……近所のオジサンへのお礼のザクロカレー。高校生カップルの恋をかなえるジュテームスープ。倫子の料理が人びとに幸せを運び、物語はファンタジックに進んでいくのですが、突然、倫子の前に重い現実が立ちふさがります。しかし、その現実の中にこそ、生きることの尊さが隠されているのです。>
小川 生きていると、きれいなこととか、いいこととか、楽しいことばっかりじゃなくて、時に、残酷なこともやらなければならなかったり、苦しかったり、辛いこともあるんですけども、そういうのから目をそらさないで、向き合った上で、でも、振り返ってみれば、いいことがたくさんあって、生きていることが愛おしく思えるような、そういう作品を書きたいなあと思って書きました。
N 声も、なにもかも失った倫子は、自分に残された唯一のもの、料理と向き合います。料理をしながら自分を見つめ、料理を通して人とふれあっていくうちに、倫子は生きる喜びを見つけていくのです。>
英玲奈 本当に、この中に出てくる料理が、どれをとっても美味しそうで、食材もいろんなものが出てきましたけれども、実際に小川さんは料理が得意なんですか。
小川 私も好きでよく料理はしてるんですけども。この本を出してから、「全部作ったんですか」って……。
英玲奈 気になりますよね。
N 物語で重要な役割を果たしている料理のメニューは、実際に小川さんが食べて感動したものや、自分でもふだんから作っているものだとか。その中でも英玲奈ちゃんのお気に入りは……。>
英玲奈 この中に出てくる「ジュテームスープ」というスープがありましたが、それは恋がかなうんですよね。
小川 はい。
英玲奈 ちょっ今、力が入ったんですけども。
小川 実際に作っているもので、よく知っているものを入れたいなというのがあって……。
英玲奈 じゃあ、ジュテームスープ、小川さんは作られたことがあるんですか。
小川 ジュテームスープという名前では作ってはいないんですけども……。
英玲奈 お野菜のスープ。
小川 はい。ポタージュはよく作りますね。
N もしかしたら、あなたの恋もかなうかも。春のジュテームスープの作り方を大公開。材料は旬にあわせて、クレソンや空豆など春野菜がいっぱい。まず、スープの味を決める煮汁を用意。豆をグツグツと1時間煮込みます。その間に、具材を下ごしらえ。>
英玲奈 糸さんは、料理するときに、その時の旬というものを大切にするんですか。
小川 そうですね。その時期時期で、八百屋さんに一番安く並んでいるものが旬なので、そういうのをよく使ってます。……(鍋で野菜を炒めながら)火の通りにくい野菜から入れるようにしています。
英玲奈 葉物は入っていませんものね。
小川 葉物はすぐ火が通るので、ギリギリにいれて。
N 野菜に火が通ったところで、煮豆、先ほどの豆の煮汁、ローリエ、タイムを加え、弱火でコトコト1時間。最後に葉物。クレソンとキャベツの葉を入れたら火を消して粗熱をとります。ここで、ローリエとタイムを取り除き、水を加えたら、塩とバターで味を調えます。ハンディミキサーで実を細かくして火が通れば、春をたっぷり詰め込んだ「食堂かたつむりジュテームスープ」のできあがり。>
英玲奈 (ひと匙口に入れて)あっ、美味しい! 辛みのあるクレソンがどうなっているかと思ったら、香りに変化して。
小川 まろやかになって。
英玲奈 これは、いろんな栄養があって、身体に良さそうですね。
小川 お豆のだしが出てて、それで本当に野菜だけなので、バターは入っていますけども、そういうのを入れるだけで、身体にスッとなじむ、美味しいものができると思います。
英玲奈 今後は、どういう作品を書きたいんですか。
小川 1作1作、心を込めて。『食堂かたつむり』もそうなんですけども、広い意味でも実用書のような物語、読んだ人が、読んでよかったなあって思えたり、何か、その人が生きていく上でプラスになれるような、そういう作品を書いていけたらいいなあって思っています。


<スタジオ>
優香 うーん。ジュテームスープ、美味しそうでしたね。私も、この本、大好きなんですけども。なんか、そのままだなっていうか、ホンワカした雰囲気が、とてもピッタリだなって思ったんですが、えみちゃんどうでした。
はしの 私も、イメージ通りの感じで、本当に食堂とか作ってもらいたいですよね。
優香 ねえ、食べたいですよね。
はしの 優しいお料理を作ってくれそうな雰囲気の方ですよね。
優香 松田さん、いかがでしたか。
松田 ロケにおつきあいしたんですけども、本当に素敵な人で。あと、創作ノートを見せていただいたんですね。すると、想像力を刺激するような単語やフレーズが並んでて、あ、こういう言葉を繋げていって、ああいう物語ができるんだなあっていうことが面白かったですけどね。それと、「小川糸」ってペンネームですけども、糸って、それだけだと柔らかいですよね。でも、それを針に通して縫っていく、そうすると柔らかい縫い物ができる。だから、針があるんだ、要するに、堅いもの、鋭いものが優しさの中にあるんだというメッセージ、まさに『食堂かたつむり』のテーマだなあって思ったんですけどね。
谷原 ぼくも、実は、昨日の夜読んだんですけども。女性に受けているということで、読んでみたら、文体がとても簡潔で、男性にも決して読みづらい本ではなくて。光と影とか、喜びと悲しみとか、対照的なものがギュッと入って、さっきのジュテームスープみたいにグシャグシャグシャってなってる感じで……。ぼく、読み終わったのが1時ぐらいだったんですけども、一人でビールを飲みたくなって。何か、食べたり飲んだりしたくなるような……。
松田 ジュテームスープがあればよかったですね。美味しかったですよ、すごく。
谷原 次回作も期待したいと思います。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.4.12)

2008年04月12日

『流星の絆』と「特集・大宮エリー『生きるコント』」


<BOOKニュース*「本屋大賞2008」発表!>
◎伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(新潮社)



4月8日、全国の書店員1000人が、「いま、一番売りたい本」を選ぶ「本屋大賞2008」の発表がありました。その表彰式の模様をお送りしました。受賞者の伊坂さんの挨拶から、以下の言葉が紹介されました。
伊坂 後になって、あんな奴選ばなきゃよかったなあとか言われないように、とりあえず、もう少し頑張りたいと思います。>
谷原 今年、伊坂さんが本屋大賞を受賞した一番の理由といえば。
松田 本屋大賞は今回で5回なんですが、5回ともノミネートされたのは伊坂さんだけなんですね。毎回、ベスト5に入っていて、今回初めて受賞ということになったんですね。書店員さんからも「伊坂作品の中では最高傑作だ」という熱いメッセージを贈られていますし、これまでの受賞作よりも部数をどれだけ伸ばしていくか期待したいですね。
谷原 ぼくは映画は観たことあるんですが、本はまだなので、是非読んでみたいですね。
松田 はい。面白いですよ。


<特集・大宮エリー『生きるコント』>
◎大宮エリー『生きるコント』(文藝春秋)



大宮エリーさん。1975年大阪生まれ。映画監督・脚本家・放送作家。東京大学薬学部卒業後、電通に入社。06年、退社してフリーに。NHK「サラリーマンNEO」「エル・ポポラッチがゆく!!」、映画「海でのはなし。」など、話題作を次々と手がけ、多数のヒットCMを生み出す傍ら、スピッツ、山崎まさよしのMVも手がける。5月には「GOD DOCTOR」で舞台初演出に挑戦。幅広い分野にわたる活躍で、いま注目されている彼女の「週刊文春」連載エッセイが刊行されました。毎日、真面目に生きているつもりなのに、なぜか、すべてがコントになってしまう人生。吉本芸人もびっくり、天然系笑いの女王エリーさんにインタビューしました。彼女には、芸能人のお友達もいっぱい。お友達を代表してオスギさんと小泉今日子さんにもコメントをいただきました。


<今週の松田チョイス>
◎東野圭吾『流星の絆』(講談社)



松田 東野圭吾さんの最新ミステリー『流星の絆』です。
N 東野圭吾の感動のミステリー『流星の絆』。幼くして、両親を惨殺された功一、泰輔、静奈の三兄妹。14年後、偶然出会ったある人物を真犯人と確信。緻密な復讐計画を着実に実行に移していく。しかし、そこに起こった大きな誤算。妹の静奈が仇の息子に恋をしてしまったのだ。しだいに崩れていく、彼らの計画の行方とは。>
松田 東野さんのミステリー作品というのは、謎解きの面白さもあるんですが、人間心理のきめ細かく描いていて、それがキリキリと読者の胸に迫ってくるんですね。家族だったり、夫婦だったり、恋人だったり、相手を思いやる気持ちが、すごく切々と迫ってくるという作品なんです。この作品でも、親を惨殺された三兄妹が復讐の計画を立てて、着実に進めていくんですけども、妹が仇と思われる男の息子に恋してしまう。その二つの葛藤が、ものすごいサスペンスになっていく。しかし、ラストのクライマックスは、さすがに東野さんだなという見事な終わり方なんですね。それともう一つ、おまけに面白いのは、ハヤシライスが、すごくおいしそうに出てくるので。ハヤシライスがキーになっているんですけども、読んでいると、やたらハヤシライスが食べたくなるという、そういうミステリーでもあります。
谷原 食べたいですよね。ぼくも読んだんですけども、ぼくにとってミステリーの面白さって、道具立てだったり、伏線を読んでいって、どういうオチにもっていくのかっていうのを自分の中で想像しながら読んでいくんですが、それが、この本は、すべてぼくの想像を超えていて、やられたなあという思いが、読み終わった後ありましたね。そして、いっぱいの優しさが詰まった本で、お兄ちゃんの妹への愛とか、いろんな優しさが詰まっています。この中に、ぼく、すっごくやりたい役があります。この役やりたいという。
松田 あの役ですね。
谷原 あの役です。
松田 谷原さんがピッタリだと思います。
谷原 皆さん、是非読んで確かめてみて下さい。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.4.5)

2008年04月06日

「特集・阿川佐和子『婚約のあとで』」


 <総合ランキング>  (3/24~3/31 有隣堂書店アトレ恵比寿店調べ)
 1位 小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)
 2位 小栗左多里、トニー・ラズロ『ダーリンは外国人 with BABY』(メディアファクトリー)
 3位 小宮一慶『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
 4位 福田健『女性は「話し方」で9割変わる』(経済界)
 5位 Jamais Jamis『B型自分の説明書』(文芸社)
 6位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 7位 大庭史榔『1分骨盤ダイエット』(三笠書房)
 8位 勝間和代『勝間和代のインディペンデントな生き方 実践編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
 9位 『はたらきたい ほぼ日の就職論』(東京糸井重事務所)
10位 中野明海『大人の赤ちゃん肌メイク Make-up book』(扶桑社)
優香 哲夫さん、『食堂かたつむり』1位ですね。
松田 やりましたね。小川糸さんに登場していただいて、特集を組むことになっていますので、是非楽しみにしてください。
優香 楽しみです。


<特集・阿川佐和子『婚約のあとで』>
◎阿川佐和子『婚約のあとで』(新潮社)



<VTR>
金田美香 今回、私が阿川さんにお会いするためにやってきたのは軽井沢です。こちらに阿川さんの別荘があるということなので、うかがってみまーす。
N 冬の名残をとどめる軽井沢。明治大正の頃から作家・文豪に愛され、多くの名作がここから生まれました。>
金田 こんにちわー。
阿川 まあ、ようこそ。はるばるいらっしゃいました。
金田 はじめまして。
N 鮮やかな春の装いで阿川佐和子さんのご登場。>
金田 目の前に浅間山が見えるんですね。
阿川 いいでしょう。借景でね。
金田 いい景色です。
阿川 ちょうど正面に見えるというのが気に入ったみたいで、父が、この土地を買って小屋を建てたのが40年前ぐらいなんですけどね。
N 作家である阿川弘之さんが愛した、この別荘は、佐和子さんも子どもの頃、よく訪れていたのだとか。今では、お父様から引き継ぎ、大事に使っているこの場は、大切な執筆場所でもあります。>
金田 こちらで執筆されたりもするんですか。
阿川 そうですね。いまや、私の持ち物でございますから。東京だと、いろんな雑事なんかで気が散ると、「よし、この1週間は山に籠もる」なんていうときには、こっちに来て……。小説を書く時って、2~3日かかるんですよね。「よし書ける」っていう風に思うまで。
N そんな阿川さんの新作が『婚約のあとで』。主人公の波は、29歳にして、心に決めた人との婚約を発表。ところが、飛行機で偶然隣に居合わせた老人から思いがけない言葉を告げられる。「もったいないよ、急いで結婚するのは」。そこから、決めたはずの波の心に波紋が広がっていく。本当にこの人でいいのか、どこがよくて婚約したのか。周りを見れば、許されぬ恋に走る妹、男を踏み台にのし上がる「都合のいい女」、7年前の夫の浮気を心に刻み続ける主婦。この作品は、性格も、生きる世界も違う7人の女性達が入れ替わり登場し、それぞれに違う恋愛のかたちが描かれる。>
金田 私も読ませていただいたんですけども、私には、共感というよりは、信じたくないようなという部分もあり。まだ夢を見ていることが大きいので。
阿川 どうなりたいの?
金田 常にラブラブで……。
阿川 ラブラブのままで結婚して、結婚後もラブラブのまま生きていきたい。
金田 という夢はあります。
阿川 わたしも若い頃は、そう思っていましたね。
N 「堂々と公表できない関係なんて、今幸せだったとしても、いずれつらくなるだけ」「好きな男のそばにいたいなら、その人に合わせて生きていく」。この物語では、人によって違う恋愛との向き合い方が描かれます。>
金田 「恋愛感情のない結婚はしたくない」というのは、うんうんと思いました。
阿川 それはそうだったのよ。それが失敗で結婚できなかったから、そこそこ妥協した方がいいかもしれないわね。
金田 これだけ、いろいろな、7人もの恋愛のパターンというか、全部違うじゃないですか。やっぱり、恋多き女性しか、こんなことは書けないのかなあと。
阿川 やっぱ、そう思う。だれもそう思ってくれないんですよ。かつて渡辺淳一さんはね、「恋愛小説はすべて経験しなければ書けないものなんだ」って。「へえー」って言ったことがあるけど、そうはいきませんよ。だから、いろんな友だちとのお喋りなんかの場面で、ちょっと印象に残る話や、つらい悩み事の告白も、頭の中に残っている、ちょっとひっかかったエピソードを集合させて、「全部出てこい」っていって、これをこの話にいれてみようかなとか、そういう風にかき集めて作ったんですね。
N 登場する女性達が、自分の人生を歩もうとする反面、男性達は、どこか頼りないタイプばかり。>
阿川 意外に、ダメ男好きなのね、わたくし。ちょっと欠陥商品みたいな男だけども、憎めないっていう人は傾向としては好きですね。
金田 阿川さんが思う、いい男の見分け方というか……。
阿川 そんなものできたら、この歳まで一人でいませんよ。でもね、いま「この人素敵な人だなあ」って思う人に、もし20代の頃に会ってたら、素敵と思っただろうかというと、全然思わなかっただろうっていう人なのね。私にとっては、人間関係を大事に思う人、それから、相手が誰であろうと、地位とかで人を見ない人は大事だなあって思ったり、後は、つらかったり、くらーい空気になったときに、ちょこっとユーモラスな部分をもって余裕が持てる人って偉いなあって。すると、顔じゃないわよ。
金田 そうですかね。お父様の阿川弘之さんも、ユーモアは大事だと。
阿川 ねえ、父は口ばっかりなんですよ。
金田 佐和子さんの本も読まれているとおっしゃっていたんですが。
阿川 なんか、読んだらしいですよ。
金田 なんておっしゃっていたんですか。
阿川 言いたくないですよ。やっぱりね、父親が娘の恋愛小説を読むっていうのは、相当照れがあると思うんですよ。第一声が「まあ、よくこんな長いものを書いたもんだ」と言って、「どこまで経験した話か知らないが」って。だって、小説家なんだから、そんなこと……。「これはお前の経験か」という質問自体がおかしいと思うのに、どっか疑ってんのね。
N 「女性ってのはね、今が大事だから。(中略)未来の夢を語るより、現在を満足させればその方が安定する」……思わず、なるほどと肯いてしまう一節が小説の随所に。その背景には、数々のインタビューをこなしてきた阿川さんならではの出会いに秘密がありました。>
阿川 例えば、1章で波のお父さんに「人生は、二者択一の繰り返しだ」と言わせたんですが、あれはね、中国のチャン・イーモウ監督、「初恋の来た道」という映画を作った監督にインタビューに行った時に、監督がおっしゃった言葉なんですね。チャン・イーモウ監督は中国で貧しい、すごく限られた社会に閉じこめられてて、大学を卒業していれば、なにかの職にありつけるだろう、という動機で、映画大学に入り、たまたま映画監督になり、世界的な映画監督として認められるようになったっていうんです。で、監督は「人生ってそんなものじゃないかと思うんです」、つまり、自分の目の前に突きつけられた二股の道のどっちを行くか、ということを一つずつ、例えば、右に行くと怖いイヌがいそうだからやめておこうとか、左に行けば可愛い女の子がいるから行ってみようとか、そういう不純な動機も含めて、一所懸命に考えて、どっちかの道を選ぶことを繰り返し繰り返し積み重ねていって、最終的に、自分の思ってもないところにたどり着いたとしても、それもまた自分が選んできた人生だと思うんです、って。私自身も、本当はお嫁さんに行くはずだったのに、なんだかちっとも決められないまま、何になりたいか決められない人間はダメな人間か、というコンプレックスをもってたんです。でも、目の前のことをちゃんと誠意を持って選んでいれば、いつか道は開けるという考え方で、なんか救われた気がして。あっ、高邁な目標とか夢とかをもたなくっても、いいんじゃないかなって思った、その時の気持ちを、波のお父さんに託してみたんですけどね。
N 最新作『婚約のあとで』が話題になっている阿川佐和子さん。この作品に託したのは、今を懸命に生きる女性へのエールでした。>
阿川 私は、どの道を選んだ女性が偉くて、どの道を選んだ人がちょっとマイナスだなんていうことはないと思うんですよ。専業主婦だろうとバリバリと仕事をやろうと、年取って新しい恋人が出来ようと、全部それぞれの不満も抱え、悩みも抱え、幸せももってると思うから、みんなそれぞれなんだっていうことを最終的には思ってはいますね。なんか、ささやかな喜びで明日も元気に生きていけるって、みんなちょこちょこっと思ってるっていうこと。かろうじて伝えたかったと言えば、そういうことかしらね。


<スタジオ>
谷原 松田さん、この阿川さんの新作『婚約のあとで』の感想を一言で言うと?
松田 面白くて奥が深い、最高の恋愛小説だと思いますね。まずね、構成が面白いんですよ。オムニバスなんですけども、主人公の視点で書かれているかと思うと、次には、ほんの脇役の視点だったりして、いろんな角度から恋愛に光を当てていくんで、恋愛をめぐる人間関係とか心理がきめ細かく、複雑に描かれているという面白い構成になっているんですね。
優香 奥が深いんですね。
松田 単に恋のときめきとか喜びだけじゃなくて、嫉妬とか裏切りとかも描いているんですけども、そういうビターテイストも含めて、すごく美味しい味わいになっているという、本当に最高の恋愛小説なんだと思いましたね。
谷原 阿川さんのような素敵な大人を目指したいですね。

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