松田哲夫の王様のブランチ出版情報ニュース

「王様のブランチ」本コーナー情報の記事一覧です。

「王様のブランチ」本コーナー(2009.6.27)

2009年06月27日

「重松清『かあちゃん』」


<総合ランキング>  (日販オープンネットワークWIN調べ・6/15~6/21)
① 村上春樹『1Q84 BOOK1(4月-6月)』(新潮社)
② 村上春樹『1Q84 BOOK2(7月-9月)』(新潮社)
③ 蛇蔵・海野凪子『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
④ エリカ・アンギャル『世界一の美女になるダイエット』(幻冬舎)
⑤ 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)
⑥ 森田まさのり・濱崎達弥・いずみ吉紘『映画ROOKIES一卒業―』(集英社)
⑦ 小林よしのり『ゴーマニズム宣言SPECIAL天皇論』(小学館)
⑧ 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字 2』(二見書房)
⑨ 吉崎達郎『子育てハッピーアドバイス 知っててよかった小児科の巻』(1万年堂出版)
⑩ 西尾維新『偽物語 下』(講談社)
谷原 『1Q84』、今週も1位、2位ですよ。ぼくは2巻を読み終わったんですが、「これは終わっているのか?」、「どうなっていくのか?」っていう感じですよね。
松田 ものすごく大きな謎が残りますよね。
谷原 そうですよね。
松田 3巻があるんじゃないかって思いますよね。
谷原 思いますよね。
松田 村上春樹さんのインタビューを読むと、チラッとそういう感じがありますよね。
谷原 終わってほしくないですよね、あそこで。
松田 まだ読みたいですよね。
谷原 ですよね。


<特集・重松清『かあちゃん』>
◎重松清『かあちゃん』(講談社)



生まれてきた瞬間、いちばんそばにいてくれるひと。――あなたのおかげで、僕はひとりぼっちではありません。昭和の母から平成の母、強い母から優しい母。連鎖するストーリーとともに登場するかあちゃんたちが、胸と涙腺を揺さぶる。母が子どもに教えてくれたこと、子どもが母に伝えたかったことを重松清が初めて描く、母と子の感動の物語。なぜ母と子の物語を描かれたのか? 母と子をモチーフに今回初めて描いた理由、重松さんとお母さんのとの関係、さらに重松さんと家族との関係などを仕事場でインタビューしました。
谷原 優香ちゃん、『かあちゃん』は号泣したということですが、そのポイントは?
優香 はい。重松さんて、泣かせよう泣かせようとしないんですよね。でも、深く響いてくるんですが、自分で泣けるポイントじゃないなと思っているのに、ホロッとやられてしまうんですね。だから電車で読まない方がいい。わたしはこの中でも、28歳の女性教師が出てくるところがあるんですけども、その女性は、学校では本当にしっかりしている方なんですが、子育てと家事に追われていて、本当はものすごく大変で、それをお母さんに頼むんですけども、それも気が引けたりもするんですが、でも、お母さんと他愛のないことでけんかをしてしまったりとかするんです。わたしは歳も近いし、そういうことがあるので、その人にすごく感情移入して、なんでこんなことでけんかしちゃうんだろう、こんなことを言っちゃうんだろうって思うんですけども、お母さんは、それをわかっていて、許してくれるというか、そういう優しさが……。この『かあちゃん』というタイトルが素晴らしくてね、松田さん。
松田 はい。一言で言いますと、この作品は「重松ワールドのさらなる進化と深化。」(*松田の一言*)です。重松さんはこれまでも、心温まる物語をたくさん書いているんですが、今回も、さらに深い感動をぼくたちに届けてくれたっていう感じですね。いろんな母親が登場してくるんですが、難しい問題を抱えて苦しんでいる子どもたちの姿から決して目を逸らさないんですね。そして、本当に必要な時には、そっと支えてくれるっていう、本当に素敵なお母さんばかりで。本当に、深ーい感動をもらったという感じでしたね。
優香 ジーンと染みわたりますよね。「かあちゃん」て呼びたくなりますよね。
谷原 皆さんも、『かあちゃん』で温かい涙を流してみたらいかがでしょうか。電車の中では気をつけて。

「王様のブランチ」本コーナー(2009.6.20)

2009年06月21日

『きりこについて』と「東村アキコ『ママはテンパリスト』」


<総合ランキング> (有隣堂書店全店調べ・6/7~6/13) 
① 村上春樹『1Q84 BOOK1(4月-6月)』(新潮社)
② 村上春樹『1Q84 BOOK2(7月-9月)』(新潮社)
③ 西尾維新『偽物語 下』(講談社)
④ 小林よしのり『ゴーマニズム宣言SPECIAL天皇論』(小学館)
⑤ エリカ・アンギャル『世界一の美女になるダイエット』(幻冬舎)
⑥ よしたに『ぼく、オタリーマン。 4』(中経出版)
⑦ 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)
⑧ 蛇蔵・海野凪子『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
⑨ 横浜市ふるさと歴史財団:編『横浜 歴史と文化 (開港150周年記念)』(有隣堂)
⑩ 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字 2』(二見書房)


<特集・東村アキコ『ママはテンパリスト』>
◎東村アキコ『ママはテンパリスト』1~2(集英社)



「すいません。育児ナメてました」。「コーラス」(毎月28日発売)で、連載当初から爆発的人気を誇るこの作品は、革命的面白さの新世代育児エッセイコミック。漫画連載を多数かかえる作者は、初の育児に毎日テンパりまくり(=あわてて動揺しっぱなし)。そして、ママは授乳を止めさせる珍妙なゴルゴ作戦をたてるかと思えば、イタズラを叱るママに対して、あまりにも予想外すぎる爆笑リアクションを繰り返す息子ごっちゃん。そのデンジャラスな魅力に夢中になるファンが、年齢・性別問わず続出。育児に役立つ情報が一切ないという漫画なのに、読み始めたらやみつきになること間違いなし。今回、ブランチでは東村さんの仕事場を直撃。彼女の爆笑育児エピソードや執筆環境など、漫画家として母としての日常についてうかがいました。


<今週の松田チョイス>
◎西加奈子『きりこについて』(角川書店)



松田 いつも活きのいい物語を届けてくれる西加奈子さんの最新作『きりこについて』です。
N 「きりこはぶすな女の子」。だけど、両親の愛情をいっぱいに浴びて育ったから、自分がぶすだなんて思ってもみなかった。大好きなこうた君から冷たく言われるまでは。体育館の裏で出会った猫「ラムセス2世」は、そんなきりこに美しさの意味、生きる意味を問いかける。西加奈子が描く、心温まる物語『きりこについて』。>
谷原 松田さん、この本の魅力を一言で言うと?
松田 「元気印のおとぎ話」(松田の一言フリップ)です。風変わりなお話なんですが、読むと元気をもらえる、勇気をもらえる、現代のおとぎ話なんですね。主人公のきりこは、団地に住む女の子なんですが、「お姫様」のような気持ちで日々を暮らしています。でも、ある出来事がきっかけとなって、落ち込んで引きこもってしまうんです。彼女に付き従っているのが、人の言葉のわかる賢い猫「ラムセス2世」なんです。その猫の手助けで、きりこは再び元気を取り戻していくんですね。その間に、深刻な問題が次々に出てくるお話なんですが、とってもチャーミングな登場人物がたくさん出てきますし、語り口がとても不思議な語り口なんで、だんだんと、読んでいるぼくたちが幸せな気分になっていく、元気になっていく。とっても素敵なおとぎ話だなあって思いましたね。
谷原 デミちゃんも読んだんだよね。
出水 そうなんです。主人公のきりこちゃんというのが、ちょっと美的な尺度から言うと、容姿というのがあまり恵まれていないんですけども、それを一時期コンプレックスに思うところはあっても、結局は、そういうところにはとらわれないで、自分の中で確固たる信念をもって力強く生きる様が描かれていて、それが「ラムセス2世」という猫の視点で描かれていて、それがちょっと面白いポイントでもあるんですけども。前向きに生きていく姿勢が、私は共感できましたし、世の中の流れにとらわれすぎて、意外に自由になれない自分がいたりするので、自由になっていいんだなあって力をもらえた一冊でした。
谷原 男が読んでもいい感じですかね。
出水 はい、面白いと思いますね。
松田 猫好きには楽しいと思いますし、ぼくは、それほど猫が得意ではないんですが、この「ラムセス2世」は結構好きになりましたね。
谷原 梅雨の時期に爽やかに気持ちにさせてくれる、この1冊、是非読んでみてはいかがでしょうか。

「王様のブランチ」本コーナー(2009.6.13)

2009年06月14日

「太宰治生誕100年記念・特集」


<総合ランキング>  (リブロ池袋本店調べ・6/1~6/7)
① 村上春樹『1Q84 BOOK1(4月‐6月)』(新潮社)
② 村上春樹『1Q84 BOOK2(7月‐9月)』(新潮社)
③ 『忌野清志郎1951-2009』(ロッキングオン社)
④ エリカ・アンギャル『世界一の美女になるダイエット』(幻冬舎)
⑤ 酒巻久『「会社のアカスリ」で利益10倍―本当は儲かる環境経営』(朝日新聞社)
⑥ 『もっとからだにおいしい野菜の便利帳』(高橋書店)
⑦ 君島十和子『ザ・十和子本-43歳。女のキレイは止まらない』(集英社)
⑧ 蛇蔵・海野凪子『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
⑨ 小林よしのり『ゴーマニズム宣言SPECIAL天皇論』(小学館)
⑩ 山崎豊子『運命の人 (三)』(文藝春秋)


<太宰治生誕100年記念・特集>
◎齋藤孝『若いうちに読みたい太宰治』(筑摩書房)



今年で生誕100年を迎えた太宰治。未だに若い人を中心に多くの読者に読み続けられています。今回は、太宰治のゆかりの地・三鷹にある太宰治文学サロンで、教育学者の齋藤孝さんにお話を伺いました。齋藤さんは、最近『若いうちに読みたい太宰治』(ちくまプリマー新書)を刊行したばかりです。「自意識との葛藤や社会との距離感で心が苛まれる人間の様子を、豊かに表現した太宰治」と語る齋藤さんに、いつまでも輝きを失わない太宰治文学の魅力を紹介していただきました。
<取り上げる作品>
*「新樹の言葉」(生きる元気をもらいたい時に……)
*「ヴィヨンの妻」(恋に悩んだ時に……)
*「トカトントン」(気持ちが萎えそうな時に……)


<今週の松田チョイス・番外編>
◎『ちくま日本文学 太宰治』(筑摩書房)



優香 松田さんから見た太宰さんの魅力は何ですか?
松田 太宰治を一言で言いますと「物語の天才」(松田の一言・フリップ)だと思います。いま、爆発的に売れている村上春樹さんも天才的な物語作家ですが、太宰さんの場合には文章が素晴らしいですね。読みやすく心に響いてくる文章ですし、それに、お話の作り方がものずごく巧みなんですね。僕はいろんな短編が好きなんですが、齋藤さんも取り上げていた「トカトントン」という作品。擬音、金槌の音がタイトルというのもものすごくユニークです。何かに熱中しようとすると、トカトントンという音が聞こえてきてしらけてしまうんです。ある意味では、とことん絶望的なお話なんですが、あっけらかんと明るいんですよね。ついつい笑ってしまうくらいで。「明るい絶望」みたいな物語を楽しく書けちゃうというところが、太宰が天才であるゆえんかなあと思いますね。
優香 木本さんも読まれたんですよね?
木本 思ってた以上に読みやすくて面白かったんですけど。本当に死んじゃいたいと思ったときでもしらけてしまうような絶望的な状況なんですが、これは、手紙が届くという物語なんですよ、作家さんに。太宰治さんに送られてきた手紙という感覚なんですよ。最後に、手紙が終わったところに、その作家さんの感想が「気取った悩みですね」というんですよ。それが清々しくて、そんな戦後の絶望的に時代に、あっ「ルーキーズ」があったらよかったのに、と思いましたね。
松田 本当に素晴らしい短編がたくさんあるんですが、もう一つ、「満願」というたった3ページの作品があるんですが、こんなに短い中に豊かなイメージと味わい深いドラマが盛り込まれているんです。世界中、作家はたくさんいますが、こういう作品を書ける人って滅多にいないと思いますね。
谷原 松田さんのペンもいいですよね。
松田 太宰ペン(と、胸に挿した「太宰治ボールペン」を見せる)。
出水 ちなみに、松田さんオススメの短編は、こちらの『ちくま日本文学 太宰治』に収録されています。皆さんも、是非、この機会に太宰治の世界に触れてみてはいかがでしょうか。

「王様のブランチ」本コーナー(2009.6.6)

2009年06月07日

『1Q84』と「『世界一の美女になるダイエット』」


<総合ランキング> (文教堂書店全店調べ・5/25~5/31)
① 村上春樹『1Q84 1』(新潮社)
② 村上春樹『1Q84 2』(新潮社)
③ 蛇蔵『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
④ 小松成美『YOSHIKI/佳樹』(角川書店)
⑤ 山崎豊子『運命の人 3』(文藝春秋)
⑥ エリカ・アンギャル『世界一の美女になるダイエット』(幻冬舎)
⑦ 齋藤真嗣『体温をあげると健康になる』(サンマーク出版)
⑧ 小宮一慶『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
⑨ 湊かなえ『告白』(双葉社)
⑩ 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)


<特集・『世界一の美女になるダイエット』
◎エリカ・アンギャル『世界一の美女になるダイエット』(幻冬舎)



イネス・リグロンを支え、知花くらら、森理世を内側から美しくしたミス・ユニバース・ジャパン公式栄養コンサルタントがはじめて明かす真実のダイエット法。ダイエットとは、賢く食べること。何を食べて、何を食べないか、美しくなる食べ方を紹介します。1週間スペシャルダイエットプログラムや、美女になる油のとり方も収録。今回、著者であるエリカさんのお宅に訪問。美女になるための食生活を指南して頂くためリポーターの食生活をチェック。さらに、エリカさんの美の秘訣を探るべく自宅をチェック。常備グッズやライフスタイルに迫りました。


<今週の松田チョイス>
◎村上春樹『1Q84』1・2(新潮社)



谷原 お待たせしました。今週の「松チョイ」は、さきほどもちょっと紹介した村上春樹さんの『1Q84』ですよね、松田さん。
松田 はい。ノーベル文学賞に一番近い日本人作家といわれています村上春樹さん。世界が大注目の最新長編小説です。
N 夜の都会から始まる物語『アフターダーク』から5年、村上春樹さんの最新長編は、2巻で1000ページを超える大作。今回、村上さんの希望により、発売まで内容に関する情報は一切伏せられていました。それも読者の期待感を高め、売り切れの書店が続出。純文学にもかかわらず、発売1週間で、なんと96万部。いまや『1Q84』は社会現象に。あなたは読まずにいられますか?>
松田 一言で言いますと、「*松田の一言*スリリングな謎と冒険の物語」ですね。ほんと、めっちゃ面白いですね。1000ページを超える大作ですが、グイグイ引き込まれて最後まで読み終わりました。この物語には二人の主人公がいて、スポーツインストラクターの女性と、小説家志望の予備校教師の男性で、この二人の物語が交互に出てくるんですね。それで、謎が次々と出てきますし、いろんな危機も迫ってきます。謎の美少女も出てくるし、怪しげな人物も次々に出てくるし、本当に冒険でハラハラドキドキするという物語なんです。
木本 ほんまに楽しそうにしゃべってはりますね。
松田 本当はねえ、ここから、具体的に楽しいところを言いたいんですが、まだ読んでいない人のために、ここから先は黙っていようと思うんですが。さすがは世界の村上春樹さんで、スケールのものすごく大きなミステリー&ファンタジーを読ませてもらったという、本当に楽しいです。
谷原 ぼくはまだ1巻しか読んでないんですけども。村上さんは大好きで、ほとんど読んでいるんですが、いままでの村上さんの主人公って、キャラクターの色が希薄で、それだけにその主人公に没入しやすかったんですが、今回、主人公のキャラクターに肉付けがされていて、リアリティがあるんですよ。で、世界観自体も現実的な世界観が続いていて、なんか今までと違うなあと思っていたら、気付いてみたらぼくは、村上さんの異世界というか、現実とちょっと位相がずれた世界というか、そこに没入している自分を見つけたときに、ゾゾッとしましたね。これは、さすがだな、5年間待ってよかったなと本当に思いました。
木本 これは1984年が舞台なんですよね。Qというのは9とかかっているんですね。
松田 そうなんですが、ちょっとズレた違う世界に……。これ以上は言えないですね。
谷原 言えないですね。
松田 なかなか買えない人もいるので。
谷原 来週の初めには、ほとんどの本屋さんに並ぶようになっているらしいので、是非是非皆さん、買ってください。


<BOOKニュース>
◎松田哲夫『「王様のブランチ」のブックガイド200』(小学館)



N 「王様のブランチ」第1回からのレギュラー出演者、松田哲夫さん。13年間にわたって、泣いたり笑ったり、800冊近くの本を紹介してきました。今回、その中から200冊を厳選した本のガイド『「王様のブランチ」のブックガイド200』を刊行。「ブランチ」ブックコーナーの裏側もちょこっと紹介しつつ、松田さんが今まで紹介した本を、「泣いた」「笑った」「怖かった」「ドキドキした」など、9つのジャンルに分け、ベスト10形式で紹介。これから本を読み始めたい方、何を読んだらいいのかわからない方にオススメしたいラインアップになっています。現在、都内の大型書店などで、このガイド本で紹介した本を集めたブックフェアを展開中です。是非、足を運んでみてください。あなたの人生を変える1冊との出会いがあるかもしれません。
優香 さまざまなジャンルがあって、松田さんが紹介していただく本は、本当に面白い本ばかりなんですよ。
松田 ありがとうございます。ぼくも、この番組のおかげで、いろんな本に出会えて幸せだなあと思うんですね。ですから、皆さんが本を読むときのガイドにしてくださればいいなと、こういう本をまとめたので、是非、参考にしていただければと思います。
谷原 言ってみれば、いわば本の世界の、『ミシュランガイド』のようなものですよね。

「王様のブランチ」本コーナー(2009.5.30)

2009年05月31日

『くまちゃん』と「ビートたけし『漫才』」


<総合ランキング>  (有隣堂書店全店調べ・5/17~5/23)
① エリカ・アンギャル『世界一の美女になるダイエット』(幻冬舎)
② 小宮一慶『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
③ 蛇蔵『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
④ 湊かなえ『告白』(双葉社)
⑤ 川島令三『<図説>日本の鉄道東海道ライン第3巻』(講談社)
⑥ 國貞克則『財務3表一体分析法』(朝日新聞出版)
⑦ 山崎豊子『運命の人 1』(文藝春秋)
⑧ 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)
⑨ 宮台真司『日本の難点』(幻冬舎)
⑩ 宮部みゆき『名もなき毒』(光文社)


<特集・ビートたけし『漫才』>
◎ビートたけし『漫才』(新潮社)



ビートたけしさんの最新刊『漫才』。今回は、私(松田哲夫)と出水麻衣アナでビートたけしさんにインタビューしました。本は、結成35年ツービート復活!爆笑・元祖毒ガス漫才、新作完全収録しており、テレビでは絶対放映出来ない内容。「今の漫才しか知らない人にとってはまことに過激に思えるかもしれないし、昔のツービートを知っている人なら懐かしく思うかもしれない」とおっしゃるビートたけしさんに「漫才」の魅力、ツービート時代のたけしさんの衝撃(爆笑)エピソード、今と昔の「漫才」の違いなど、楽しいお話を伺いました。
<特集VTRとその前後に話した私のコメント+α>
松田 いやあ、緊張しましたが、話し始めると、まっすぐに言葉のやりとりをしてくださるので、とっても楽しかったですね。厳しさと優しさ、そしてお茶目なところもある、スケールの大きい人ですね。そういうたけしさんの書いた『漫才』という本は、30数年前のツービートがタイムマシンに乗ってやってきて、今の舞台で、ふんだんに毒舌をまぶした笑いを披露してくれた、そんな感じです。とことん下品で、バカバカしくて、ふんだんに笑える本ですね。


<今週の松田チョイス>
◎角田光代『くまちゃん』(新潮社)



松田 角田光代さんの最新作、面白くてしみじみ考えさせられる恋愛小説『くまちゃん』です。
N お花見の飲み会で苑子はくまちゃんに出会った。食事をし、デートを重ねる日々。それがある日、終わりを告げた。「10人いれば10通りの恋があり、10通りの失恋がある」。角田光代最新作、仕事に、恋に、真っ直ぐ生きるあなたのための恋愛小説。「四回ふられても、私はまた、恋をした」。>
谷原 松田さん、この本の魅力というのは。
松田 一言で言うとこうです。「ふられ話に花が咲く」。この中には、7編の軽妙なタッチの恋物語が描かれているんですが、最初の5編は、前の話で「ふった」人が、次の話で別の人に「ふられる」という、ふってふられて、恋の輪が繋がっていくという構成になっているんですね。そこが絶妙に面白いですね。というのは、同じ人でも、恋する相手によって、性質や生活態度などが微妙に変わっていくんですね。そのへんを絶妙に描き分けているところが角田さんのうまいところだなあと思いました。
優香 私も読みましたけれども、松田さんがおっしゃったように、恋愛って、その時によって違うじゃないですか。前の時は、もっと消極的だったのに、相手によって積極的になってみたりとか、そういうのが面白いですよね。いろんな自分を発見できるというか。なんだか、自分がなくなってしまって、どうしようとか思うんだけど、それがいいんだって思えました。ああ、こんな恋愛でいいんだ、いろんな恋のかたちがあって。
松田 それで、最後の2編で思いがけない展開があって、そこがまた深いんですね。全体に軽妙なタッチなんだけど、実は深い恋愛小説だということが、最後まで読むとわかります。さすがは角田さんですね。
優香 是非、デミちゃんに読んでもらいたいですね。
出水 是非、読みたい。恋をしたい。

「王様のブランチ」本コーナー(2009.5.23)

2009年05月23日

「道尾秀介『龍神の雨』」


<総合ランキング>  (有隣堂書店全店調べ・5/10~5/16)
① エリカ・アンギャル『世界一の美女になるダイエット』(幻冬舎)
② 国分太一・ケンタロウ『太一×ケンタロウ 男子ごはんの本』(M.Co.)
③ 小宮一慶『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
④ 山崎豊子『運命の人 1』(文藝春秋)
⑤ 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)
⑥ 蛇蔵『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
⑦ 山崎豊子『運命の人 2』(文藝春秋)
⑧ 『もっとからだにおいしい野菜の便利帳』(高橋書店)
⑨ 中山美穂『なぜならやさしいまちがあったから』(集英社)
⑩ 湊かなえ『告白』(双葉社)


<特集・道尾秀介『龍神の雨』>
◎道尾秀介『龍神の雨』(新潮社)



降りしきる雨よ、願わくば、僕らの罪を洗い流しておくれ――。人は、意図せずに犯した罪に対し、どこまで償いを負わねばならないのだろう。暗転する事件の果て、二組の子供達がたどり着いた、慟哭と贖罪の真実とは? 現代版『罪と罰』とも言うべき贖罪の物語。今回、独特の世界観をもつ作家として、大きな注目を集めている道尾秀介を特集。道尾さんの仕事場にて、新作『龍神の雨』について、作家・道尾秀介についてインタビューしました。道尾さんの執筆方法や趣味(ギターが仕事場に4本ある)、過去にバンドをやっていたり営業をやっていたりした時の話、作家・道尾秀介が誕生するきっかけ、作家になろうと思った理由などを伺いました。
(道尾秀介 2004年、『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。2006年、『向日葵の咲かない夏』で第6回本格ミステリ大賞候補。同年、『流れ星のつくり方』で第59回日本推理作家協会賞短編部門候補。2007年、『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞受賞。2009年、『カラスの親指』で第140回直木賞候補、第62回日本推理作家協会賞受賞。「このミステリーがすごい!2009年版」作家別投票第1位。)


谷原 松田さん、道尾さんの新作『龍神の雨』の「松田の一言」は……。
松田 こうです。(フリップを出して)「土砂降りの雨・子供たちの哀しみ」。
この物語は、あらゆる場面で烈しい雨が降っているんですね。道尾さんの非常に優れた描写力で描かれているんで、読んでいると、ぼくたちも降り注ぐ雨を浴びているような感じがしてきます。この雨が、実は、子供たちを追い詰めていく、歪んだ家庭環境のようなものを象徴しているんです。そして、お話は最悪の方向に向かっていくんですね。人間の醜い部分まで踏み込んでいくお話なんですけども、終始、どこかに清潔感があるんですね。だからこそ、より一層、子供たちの哀しみが切々とぼくたちの胸に迫ってくるんですね。本当に迫力のある物語ですね。

「王様のブランチ」本コーナー(2009.5.16)

2009年05月17日

『遠くの声に耳を澄ませて』と「茂木健一郎vs竹内一郎」


<総合ランキング>  (三省堂書店全店調べ・5/4~5/10)
① 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)
② 山崎豊子『運命の人 1』(文藝春秋)
③ 東野圭吾『パラドックス13』(毎日新聞社)
④ 湊かなえ『告白』(双葉社)
⑤ 副島隆彦『日米「振り込め詐欺」大恐慌』(徳間書店)
⑥ 山崎豊子『運命の人 2』(文藝春秋)
⑦ 蛇蔵『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
⑧ 国分太一・ケンタロウ『太一×ケンタロウ 男子ごはんの本』(M.Co.)
⑨ 真山仁『レッドゾーン 上』(講談社)
⑩ エリカ・アンギャル『世界一の美女になるダイエット』(幻冬舎)


<特集・茂木健一郎vs竹内一郎 対談>
◎茂木健一郎『化粧する脳』(集英社)



◎竹内一郎『見た目で選ばれる人』(講談社)



今回は、『化粧する脳』(集英社)の著者茂木健一郎さんと『見た目で選ばれる人』(講談社)の著者竹内一郎さんに“見た目の重要性”そして「見た目」でモテる方法について対談をしていただきます。“伝えることよりリアクション”とか“化粧することの隠された意味”とか“見た目を磨くレッスン”など、必見の知識が満載でした。
(茂木健一郎 1962年東京都生れ。脳科学者。『脳とクオリア』、『「脳」整理法』、『ひらめき脳』など著書・訳書が多数あり、軒並みベストセラーになっている。またTV番組などでもお馴染みである。)
(竹内一郎 1956年福岡県生まれ。宝塚造形芸術大学教授。『戯曲 星に願いを』で、文化庁舞台芸術創作奨励賞佳作、『哲也 雀聖と呼ばれた男』で講談社漫画賞を受賞。『人は見た目が9割』がミリオンセラーに。)


<今週の松田チョイス>
◎宮下奈都『遠くの声に耳を澄ませて』(新潮社)



松田 ていねいに物語を紡ぎ出す期待の新人・宮下奈都さんの『遠くの声に耳を澄ませて』です。
N 「ほんの少し心をほどけば、私たちはいつだってどこにだって行ける。」 OL、母親、大学生、看護婦。毎日を頑張って生きる人たちのもとに、突然届く「声」。疎遠になってしまった人たちからのメッセージや思い出。それが、彼女たちの日常に小さな変化をもたらす。少し前に進む勇気をくれる12の物語。>
谷原 松田さん、この本は?
松田 一言で言いますと、こういう本です。「貴女(あなた)の小さな応援団!」です。十二の短編小説が収められているんですが、そのほとんどが女性が主人公なんですね。彼女たちは、気を張って、頑張って生きているんです。でも、なにかのきっかけで、立ち止まってしまうことがあって、そういう時に、どこか「遠く」からの「声」が聞こえてくる。たとえば、地球の裏側のラジオ放送だったり、南の島からの電話だったり、旅先からの絵葉書だったり、身近な人のちょっとした一言だったり……そういうささやくような声が、彼女たちのこわばりとかこだわりを優しく解きほぐしてくれて、そこから新たな一歩を踏み出すためのささやかな勇気をくれるんですね。そういう、いい話がぎっしり詰まっている素敵な一冊ですね。
谷原 そういう音に耳を澄ますということですね。
松田 そうですね。
谷原 えみちゃんも読んだんですか?
はしの はい、読みました。私が一番印象的だった短編はですね、ちょっと人間関係とかで気持ちがモヤモヤしている女性が、ある不思議なお医者さんのところに行って、そのお医者さんが「流しなさい」って言うんですよ。言葉の処方箋みたいなのを出したんですよ。で、私も何かあると、「何でだろう」とかクヨクヨしたり考えちゃったり、堂々巡りしちゃうんですよ。でも、「流す」ってマイナスの響きにも聞こえるけども、そこを潔く流すというのも、何かいい選択肢の一つではあるんだなということを、その短編を読んで思いましたね。
松田 そうですね。何か、ちょっとインチキ臭いお医者なんだけど、その言葉が自分にとって励ましになるというか、勇気を与えてくれるっていう感じなんですね。
谷原 なるほど、みなさんも小さな応援団の声に耳を澄ませてみてはいかがですか。

「王様のブランチ」本コーナー(2009.5.9)

2009年05月09日

『学校で愛するということ』と「西川美和『きのうの神さま』」


<総合ランキング>   (有隣堂書店全店調べ・4/26~5/2)
① 山崎豊子『運命の人 1』(文藝春秋)
② 東野圭吾『パラドックス13』(毎日新聞社)
③ 国分太一・ケンタロウ『太一×ケンタロウ 男子ごはんの本』(M.Co.)
④ 小宮一慶『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
⑤ くるねこ大和『おばさんとトメ』(幻冬舎)
⑥ 副島隆彦『日米「振り込め詐欺」大恐慌』(徳間書店)
⑦ 湊かなえ『告白』(双葉社)
⑧ 北方謙三『楊令伝 9』(集英社)
⑨ 山崎豊子『運命の人 2』(文藝春秋)
⑩ 勝間和代『断る力』(文藝春秋)


<特集・西川美和『きのうの神さま』>
◎西川美和『きのうの神さま』(ポプラ社)



映画監督西川美和さんは、06年公開の映画「ゆれる」で第61回毎日映画コンクール・日本映画大賞をはじめ数々の映画賞を受賞、世界的な評価も獲得しました。また自らが小説化した『ゆれる』が第20回三島由紀夫賞候補になりました。その西川さんが、3年ぶりの書き下ろし小説を発表しました。日常に潜む人間の本性を渾身の筆致であぶりだした短編集です。この作品は、笑福亭鶴瓶、瑛太らが出演、西川さんがメガホンをとった映画「ディア・ドクター」から生まれた、もうひとつの物語です。今回、僻地医療の小説を執筆し映画を製作する際に、西川さんが取材した西伊豆の診療所を訪問し、診療所の先生や看護師さんなどにお話を伺い、往診にも同行させて頂きました。インタビューでは、僻地医療をテーマにした映画と小説のことをお伺いしました。
谷原 松田さんは、西川さんの小説のどんなところに魅力を感じますか?
松田 西川さんて、映画と小説の表現の違いがよく分かってる人なんですね。だから、言葉でしか表現できない心の揺らぎとか気配とか匂いとかを、すごく効果的に使ってまして。ところが、それを読んでいますと、ぼくたちの頭の中に鮮明な映像が浮かんでくるんですよね。すごい才能の人だと思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎中森明夫『学校で愛するということ』(角川書店)



松田 いまや世界でも知られている「おたく」という言葉の生みの親である中森明夫さんが21年ぶりに書いた小説『学校で愛するということ』です。
 ねぇ、君。学校は好きかい? 希望第一高等学校、通称「キボコウ」で月一回の小論文授業が。課題は「学校で愛するということ」。学園祭、部活、生徒会……さまざまな出来事を通して、学校で過ごす日々のことを読者に問いかける。サブカル系のビッグネーム・中森明夫の学園恋愛小説。>
谷原 松田さん、この本の魅力は?
松田 (フリップを出し)一言で言いますと「なつかしの胸キュン感覚!」。
谷原 「胸キュン」懐かしいですねえ。
松田 みんなが青春のひとときを過ごす「学校」なんですけども、やっぱりいろんな意味で、胸をときめかせてくれる場所だったなあっていう気がするんですね。このお話の中では、学校の屋上とか、校庭とか、教室とか、体育館とか……いろんな場所でいろんな出来事が起きて、それがパノラマのようにちりばめられていくんです。そこで、甘い思い出も、楽しい思い出もあるし、苦い思い出も、つらい思い出もあるんです。でも、そういうことも含めて、やっぱり学校って特別な場所だったし、特別な時間だったということが、過ぎ去って、振り返ってみると、しみじみと感じられる。そういうことをこの物語を読んで思い出しましたね。
谷原 思い出すと甘酸っぱい時ってありますよね。
優香 学校って皆さん行くし、それぞれに思い出があると思うんですけど。私は、中高と女子校だったんで、あこがれる先輩が女子だったんですね。私、フェンシング部だったんですけども、高校生の先輩が格好良くて、その先輩のようになりたくて、「書いてください」って透明な下敷きにメッセージを書いてもらったりとか、お手紙のやりとりをやらせてもらったりとか、そういうことを思い出したりとかしましたね。

「王様のブランチ」本コーナー(2009.5.2)

2009年05月04日

『ちはやふる』『とめはねっ!』と「手塚治虫展」


<特集*GWはここへ行こう!>
◎「生誕80周年記念特別展 手塚治虫展」(江戸東京博物館)



手塚治虫さんは、日本における「ストーリーマンガ」のパイオニアとして、また「テレビアニメーション」の創始者として昭和の時代に活躍し、その生涯においてマンガ作品約 700 タイトル(原稿枚数約 15 万枚)、アニメ作品約 70 タイトルという膨大な作品を産み出しました。今回の展覧会には、直筆のマンガ原稿やアニメーションの資料、愛用品などが数多く展示されています。番組では、わたし(松田哲夫)が斉藤慶太さん、森山愛子さんを、手塚ワールドに案内しました。「手塚さんが初めてマンガを描いたのは何歳のとき?」「ペンネームの由来は?」など折々に“手塚治虫クイズ”を出しながら天才の足跡を追いました。


<今週の松田チョイスHYPER*GWはこれを読もう!>
優香 今回は、マッチョイもスペシャル! ということで、GWにオススメのコミックを2作品選んでくれたんですよね?
松田 いま、少女漫画でも青年漫画でも、人気の「文化系熱血コミック」というのがあるんですが、その中から2作品を取り上げさせていただきました。
◎末次由紀『ちはやふる』①~④(講談社)



<先日、「マンガ大賞」を受賞した『ちはやふる』。夢は自分の姉が有名モデルになること、という地味な小学生・千早。そんな彼女が競技かるたのチャンピオン・新と出会い、本当の自分の夢に目覚めていく。かるたでつながった友情を軸に描かれる、鮮烈青春ストーリー。読者も思わず熱くなる、主人公たちと競技カルタを戦っているような臨場感が魅力。実際にカルタの練習場に行き、担当編集者の坪田さんにインタビューをしました。かつては競技かるた・大学2年生の部で全国準優勝したこともあるほどの実力を持つ坪田さん。その実力を見せてくれると共に、競技かるたが、マンガの題材として、いかに面白いかを語ってくれました。>


◎河合克敏『とめはねっ!』①~④(小学館)



<書道に賭ける高校生を描いた『とめはねっ!』。上級生たちに脅されて書道部に入部することになった気弱な帰国子女・大江縁と、やはりだまされて入部した柔道の天才・望月結希。しかし、そこには思いもかけない奥深さと青春を賭ける切磋琢磨があった。でも、なぜいま書道なのか? 作者の河合さんが直筆メッセージをくれました。「ある日、たまたま高校の書道部を取り上げたドキュメンタリー番組をTVで観て、書道に打ち込んでいる女の子たちがカワイイなあと思ったことがキッカケです。」いま、高校部活動の一環として広まり始めた書道パフォーマンス、その要素を取り入れた『とめはねっ!』。思いもかけない面白さに、あなたもヒートアップするはずです。>


松田 両作品に共通するキーワードは二つあります。まずは「スポ根!!!」です。文化系のクラブ活動なのに、「友情・努力・勝利」というスポ根のお得意のテーマが満載されています。それだけじゃなくて、「ラブコメもの」の面白さもあるんですね。そして、二番目の「ウンチク満載!」というのは、書道とか百人一首とか、日本の伝統文化に関わるウンチクが盛りだくさんに入っていて、それも楽しめるんですね。谷原さんは『ちはやふる』をお読みになって……
谷原 はい、出ちゃいました(とフリップ「今年のNO.1!!」を示して)。百人一首とか、小さい頃、家とかでやるじゃないですか、お父さんやお母さんと。でも、『ちはやふる』の中で扱っているやりかたは、原平合戦といって、25枚、25枚で、相手と競っていくんですけども、5人で団体競技でやっていくんですよ。そのキャラクターがとても素晴らしくて、例えば、取ることだけに情熱を燃やしている子もいれば、もともとカルタが好きになったきっかけが、お祖父さんが名人で、そのお祖父さんの影響を受けたりだったり、初めて自分が得意なものを見つけたりだったり、もしくは歌そのものの世界観にひかれて打ち込んでいる子がいたりと、それぞれの切り口の面白さでグイグイ引き込まれていくんですよね、松田さん。
松田 『ちはやふる』も面白いんですが、『とめはねっ!』も書道という地味なものをテーマにしていながら、面白いキャラクターが次々出てくるんですね。コミカルで熱いお話なんで、谷原さんも是非読まれるといいと思いますね。
谷原 そうですね、「NO.1」という前に、読まなきゃいけないですね。 

「王様のブランチ」本コーナー(2009.4.25)

2009年04月26日

『パラドックス13』と「浅田政志『浅田家』」


<総合ランキング>  (三省堂書店全店調べ・4/13~4/19)
① 中村克『最後のパレード』(サンクチュアリ出版)
② 湊かなえ『告白』(双葉社)
③ 『LESPORTSAC 35th Anniversary Special!! Style1 ビューティガール』(宝島社)
④ 東野圭吾『パラドックス13』(毎日新聞社)
⑤ 『LESPORTSAC 35th Anniversary Special!! Style2 キャンディドッツ』(宝島社)
⑥ 『LESPORTSAC 35th Anniversary Special!! Style3 ボヤージュ』(宝島社)
⑦ 海堂尊『極北クレイマー』(朝日新聞出版)
⑧ 蛇蔵『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
⑨ 稲盛和夫『働き方』(三笠書房)
⑩ 梨花『Love myself・梨花』(宝島社)


<特集・浅田政志『浅田家』>
◎浅田政志『浅田家』(赤々舎)



父、母、兄、そして写真家本人の4人家族が、ラーメン屋や消防士や極道などに扮する『浅田家』。すべて、地元の三重県でいろいろな人の協力を得ながら撮影した写真は、「演出」の見事さ以上に、家族のかかわりがもたらす「記念写真」の力にあらためて驚かされる。浅田家の記念写真、それは自ら記念をつくっていく記念写真である。全員の休みを合わせ、場所を借り服を決め、シーンを皆で考え、タイマーのスイッチを押す。待っていてもなかなか来ない記念日を、写真を通じてつくり上げていく。そのとき写真は家族が集まるきっかけであり、記録でもある。この写真集『浅田家』が新人写真家に贈られる第34回木村伊兵衛賞を受賞。今回、写真家・浅田さんの撮影現場に密着しました。


<今週の松田チョイス>
◎東野圭吾『パラドックス13』(毎日新聞社)



松田 東野圭吾さん、ファン待望の最新作『パラドックス13』です。
N 運命の13時13分、突如、世界から人類が消えた。天変地異に襲われ、崩壊する東京。残された13人の中で善悪の価値観が壊れていく。大人気ミステリー作家東野圭吾が描く、究極のサバイバル・ストーリー『パラドックス13』。「世界が変われば、人殺しが善になることもある。」(東野圭吾)>
谷原 松田さん、こちらの作品を読み解くキーワードというのは?
松田 こちらです。(フリップに「サバイバル」「究極の謎解き」)
谷原 「サバイバル」ってどういうことですか。
松田 これまで、東野さんって、人間心理をきめ細かく描いたミステリーが多かったんですが、この作品では、壮大なサバイバル劇が展開されます。東京にとり残された13人。彼らに、想像を絶する天変地異が襲いかかるっていうお話なんです。そういう状況になると、善悪の基準とかですね、これまでの約束事が全部無効になっているということに、彼らは深い衝撃を受けるんです。
谷原 東野さんんというと、仕掛けの妙といいますか、とても筋立てがうまいと思うんですが、その中で「究極の謎解き」というのはすごいですね。
松田 本当に絶体絶命という状況になったときに、なんで、こんな過酷な世界が出現したのかという謎が解けるんですね。そして、驚くべきクライマックス・シーンががやってくる。本当にドキドキしますね。
谷原 一筋縄ではいかないんでしょうね、東野さんは。
優香 はい。なんかアピールがすごいみたいなんですが。
木本(「TKO」の一人。目の前に東野さんの本を積み上げて) ぼくは「東野圭吾依存症」なんです。大好きで、ほとんど全部作品を読んでいるんで。今回のもバッチシ読んでいるんですけども、感想とか求めません? ぼくもキーワードを書いてみました。「13人の共通点」。これはね、この東京に13人だけ生き残るんですよ。小さい子どもとか赤ちゃんとか青年とか、いろんな世代のいろんな人が出てくるんですけども、全部、ある共通点が浮かび上がってくるんですよ。
優香 何の共通点ですか?
木本 ゆうたらおもろないでしょう。そこを読むんやろ。
松田 そこに、謎解きがからむんですよね。
木本 東野さんの作品って90点以上あるんですが、どれも面白いんですが、今回は図抜けています。

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.4.18)

2009年04月18日

『恋文の技術』と「宝島社ブランドムック」


<総合ランキング>  (日販調べ・4/6~4/12)
① 空知英秋・大崎知仁『銀魂 3年Z組銀八先生 4』(集英社)
② 湊かなえ『告白』(双葉社)
③ 中村克『最後のパレード』(サンクチュアリ出版)
④ 浜崎あゆみ『Ayuのデジデジ日記』(講談社)
⑤ 海堂尊『極北クレイマー』(朝日新聞出版)
⑥ 渡辺淳一『欲情の作法』(幻冬舎)
⑦ 菅野和夫『ポケット六法』(有斐閣)
⑧ 梨花『Love myself・梨花』(宝島社)
⑨ 加藤久仁生・平田研也『つみきのいえ』(白泉社)
⑩ 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)


<特集・宝島社ブランドムック>
◎『キャス・キッドソンへようこそ』1~2(宝島社)
◎『Cher 2009 Spring/Summer Collection』(宝島社)
◎『LESPORTSAC 35th Anniversary Special!!』1~3(宝島社)



成熟した消費社会である日本に、特定の“ブランド信仰”はもはやないに等しい。しかし、ブランド好きのDNAは、幅広い年代に受け継がれている。そんな人達の嗜好を巧みに掬い上げているのが、宝島社のブランドムック。国内外のブランドと提携し、デザイナーや新商品などをオールカラーで紹介するムックに、ロゴ付きの雑貨(バッグ、Tシャツなど)をセットした。価格はそのアイテムによって1000円~3000円台の幅があるが、中心は1000円台前半。大人気の理由は、1冊にそのブランドの最新情報やコンセプトが詰め込まれ、しかもアイテムつきで1000円台で入手できるという「お得感」。不況の今、1000円台で好きなブランドアイテムをもつ夢を叶えるブランドムックに、ますます期待が寄せられる。4月中旬発売のバッグブランド「LeSportsac」のブランドムック制作過程に密着。編集者やブランド担当にインタビュー。ブランドムック本の魅力などを伺いました。


<今週の松田チョイス>
◎森見登美彦『恋文の技術』(ポプラ社)



松田 森見登美彦さんの奇想天外な面白小説、『恋文の技術』です。
N 地方に飛ばされた、うだつの上がらない大学院生。退屈を紛らわすために考えたのが「文通武者修業」。かつての仲間たちに手紙を書きまくる。友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れ。でも本当に気持ちを伝えたい人には、思うような手紙が書けなくて。森見節満載、ほろにが可笑しい新・書簡体小説。>
松田 今の時代、携帯やメールが全盛で、「手紙」ってあまり書かなくなっていると思うんですね。こういう時代に、あえて全編「手紙」だけの小説を書くというところが、森見さんの面白いところで。手紙を書く人は一人でも、送る相手によって、文体とか表現とか内容とか変わってきますよね。そのへんの微妙なニュアンスを楽しんでいると、お話は、だんだんあやしげな雰囲気を漂よわせてくるんですね。最後には、アッと驚く仕掛けが待っているんですが。終始、森見さんの愉快なたくらみにのせられながら楽しんでいける、風変わりな恋愛小説でしたね。
谷原 デミちゃんも読んだんだよね。
出水 読ませてもらいました。なかなか、人の手紙って見ることないじゃないですか。だから、人のプライベートな部分を覗いているような、ドキドキするような感じもあるんですけども。やはり、送る相手によって、文体とか言葉の使い方が変わっていくので、人間のもつ多面性のようなものを垣間見ることができるようで。私も、アメリカに住んでいたときに、祖父母に手紙を送っていたんですが、実は、自分の意外な一面を、その手紙を通じて見られちゃったんじゃないかと、いま思い返して、恥ずかしくなっちゃったんですが。お手紙っていいなあ、書きたいなあと思う一冊でした。
谷原 宛てた人以外に読まれると恥ずかしいですね。さあ、皆さんも手紙の魅力、再認識してみたらいかがでしょうか。

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.4.4)

2009年04月04日

『蛇衆』と「春のお出かけ本特集」


<総合ランキング>   (啓文堂書店全店調べ・3/16~24)
① 茅田砂胡『海賊とウェディング・ベル』(中央公論新社)
② 中村克『最後のパレード』(サンクチュアリ出版)
③ 加藤久仁生・平田研也『つみきのいえ』(白泉社)
④ 『CREA due Cat no.2 ネコ萌え!』(文藝春秋)
⑤ 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)
⑥ 小宮一慶『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
⑦ 今尾恵介『日本鉄道旅行地図帳 11号(中国四国)』(新潮社)
⑧ 渡辺淳一『欲情の作法』(幻冬舎)
⑨ 村上龍『無趣味のすすめ』(幻冬舎)
⑩ 内田康夫『砂冥宮』(実業之日本社)


<春のお出かけ本特集>
◎今尾恵介『日本鉄道旅行地図帳』(新潮社)



最新刊がランキング入り。累計120万部を突破した、今売れているおでかけ本。日本の鉄道、全線・全駅・全廃線――その全ての位置を日本地図上に正確に記載した日本初の地図が遂に誕生。さぞかしマニアックな一冊だろうと中を見ると……鉄道ファンならずとも、楽しい鉄道のおでかけが楽しめるシカケがいっぱい。地図が苦手な女性読者にも人気とか。


◎『東京さんぽ』『京都さんぽ』『おでかけさんぽ』(昭文社)



春の行楽シーズン到来。人気のおでかけ本を特集。書店のガイドブックコーナーを見てみると、目立つのは「さんぽ」の文字。異例の売り上げを誇る「ことりっぷ」(昨年2月に創刊、38冊で累計180万部)の最新刊も「さんぽ」がキーワード。アンケートで「じっくりゆっくり旅したい」という声が多く寄せられたことから始まった。


◎K&Bパブリッシャーズ『東京散歩マップ』(成美堂出版)



旅のガイドブックの老舗が制作した“散歩本”。20数年のキャリアを活かし、他社のおでかけ本にはないコース仕立てに特徴がある。その①散歩コース完全指定、その②スタート地点とゴール地点にはある工夫が、その③「コースの高低差」案内もある。


<今週の松田チョイス>
◎矢野隆『蛇衆』(集英社)



松田 スピードと迫真力、時代小説のニューウェーブ、矢野隆さんの『蛇衆』です。
N 室町末期、金のためにだけ戦う屈強な傭兵集団がいた。「蛇衆」。彼らが加勢した軍は絶対に負けない。しかし、侍たちの陰謀と裏切りに仲間を失ったとき、彼らははじめて自分たちのために戦うことを決意する。四百の軍勢対六人。「それでも私は行く」。ジェットコースターのように疾走する超絶時代アクション。>
松田 ぼくは、この矢野さんを、『のぼうの城』の和田さんと一緒に「時代小説のニューウェーブの旗手」という風に呼びたいと思うんです。なんといっても、文章が短いフレーズでたたみ込むように書かれていて、スピード感があって迫力があるんですね。戦闘シーンも圧倒的なすごさがあるんです。この文章の感覚って、やはり若い作家さんなんで、ゲーム世代の感覚だなあっていう気がしましたね。ただ、そういうゲーム感覚だけではなくて、蛇衆六人の不幸な生い立ちが明らかになっていくと、彼らの恋とか友情とか、そういった人間的な部分があらわになっていって、胸を打つんですね。最後には自分たちだけのための戦いに立ち上がるんですけども、そのシーンが圧巻なので、ぜひ読んでもらいたいですね。
谷原 ぼくも読ませてもらったんですが、普通、時代物でしたら、侍であるとか町人であるとか、封建社会の枠の中に注目することが多いと思うんですけども、今回の『蛇衆』は、そういう枠から外れたはぐれ者が主人公じゃないですか。それって、ぼくが大好きな隆慶一郎さんの流れに繋がるといいますか、隆さんの世界を、よりエンタテインメントとしてスピーディかつ大胆に作り替えているという意味で、とても楽しみな新人の作家さんがでてきたなと思います。
松田 そうですね。
谷原 戦国ブームにまだのっていない方、ぜひぜひ、この時代小説から入っていくのもいいかもしれません。

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.3.28)

2009年03月29日

『風の中のマリア』と「佐藤和歌子『悶々ホルモン』」


<マンガ大賞ランキング>
①末次由紀『ちはやふる』(講談社)
②小山宙哉『宇宙兄弟』(講談社)
③羽海野チカ『3月のライオン』(白泉社)
④安倍夜郎『深夜食堂』(小学館)
⑤小林まこと『青春少年マガジン1978~1983』(講談社)
⑥中村光『聖(セイント)☆おにいさん』(講談社)
⑦河合克敏『とめはねっ!鈴里高校書道部』(小学館)
⑧東村アキコ『ママはテンパリスト』(集英社)
⑨島袋光年『トリコ』(集英社)
⑩久保保久『よんでますよ、アザゼルさん。』(講談社)


<特集・佐藤和歌子『悶々ホルモン』>
◎佐藤和歌子『悶々ホルモン』(新潮社)



雑誌「モーニング」で連載され好評を博した、ホルモンが食べられる44軒のガイドブック『悶々ホルモン』。20代にしてひとり焼き肉常連の著者が、究極のホルモン道を開拓したこのエッセイは、女子が、しかも20代がホルモンの旨さを伝えきっていると話題になっている。佐藤さんは、なぜひとりで焼肉屋に通うようになったのか? それは「男に失望し、同時に女としての自分にも失望したから」。そんな佐藤さんと「テナム」(五反田)という焼肉屋で待ち合わせ。ホルモンど素人の渡辺志穂(21)に、本の内容に沿った形でホルモン道を披露してくれる。実際に食べながら、ホルモンの魅力を描ききったエッセイにまつわる話を聞く。


<今週の松田チョイス>
◎百田尚樹『風の中のマリア』(講談社)



松田 去年、『ボックス!』で「ブランチBOOK大賞・新人賞」を受賞した百田尚樹さんの最新作『風の中のマリア』です。
N 百田尚樹の書き下ろし最新作『風の中のマリア』。主人公は、なんとスズメバチのハンター。その名はマリア。彼女の命はたったの30日。恋もせず、母となる喜びを味わうこともなく、ひたすら狩りを続ける、自然界最強のハタラキバチ。短く激しい命が尽きるとき、マリアが見たものとは?>
谷原 松田さん、主人公は「ハチ」ということですが、感情移入できるんですか。
松田 いやあ面白かったですね。なんといっても、オオスズメバチの生態が、驚くべきことばかりなんですね。女王バチを中心に「女だけの帝国」を作り上げていくという、その生き方、戦い方、そして死に方が正確に描かれているんです。そこに、スズメバチの内面に、人間の気持ちを当てはめていくと、そこから、スケールの大きなスペクタクルとか神話的世界が立ち上がってくるんですよね。
優香 わたしも読ませていただきましたけども、ハチの話で250ページですか、こんなに書けるというのはすごいなと思いました。それと、女性って、昆虫って苦手じゃないですか。
はしの 節の感じとか……。
優香 そうなんですよね。ハチというとよけいね、接したこともないですけれども、すごく面白くて。全然知らなかったこともたくさんあって、30日しか生きられないとか。そういうことも勉強できたりとか……。あと、わたしが好きなシーンはですね、マリアとオスバチのラブシーンがあるんですよ。淡い恋なんですけども、触覚同士をチョッとあわせるというキスシーンのような。一生、恋はできないんですけども、そこでちょっと恋心のようなものが……。
松田 本当に、主人公のマリアのけなげな生き方がすごく切なく胸をうつんですね。読み終わると、昆虫の話なのに、もっと大きな「いのち」の物語として、ぼくらに迫ってきて……。
優香 そうですね。
松田 素晴らしい物語だと思いましたね。
優香 かっこいいんですよ、戦士マリアが。
谷原 たしかに知らない世界ですからね。『風の中のマリア』で皆さんも心を刺されてみてはいかがですか。

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.3.21)

2009年03月23日

『エ/ン/ジ/ン』と「室井滋『マーキングブルース』」


<総合ランキング>   (有隣堂書店全店調べ・3/8~3/14)
① 中村克『最後のパレード』(サンクチュアリ出版)
② 加藤久仁生・平田研也『つみきのいえ』(白泉社)
③ 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)
④ 渡辺淳一『欲情の作法』(幻冬舎)
⑤ 勝間和代『断る力』(文藝春秋)
⑥ 堂本剛『堂本剛と頭のなか』(日之出出版)
⑦ 細野真宏『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?』(扶桑社)
⑧ M・シャイモフ『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』(三笠書房)
⑨ 工藤龍矢『グーグル営業!』(インプレスジャパン)
⑩ 飯島奈美『LIFE』(東京糸井重里事務所)
<BOOKニュース>
◎小林麻耶『まや☆日記』(小学館)



TBSアナウンサー小林麻耶の人気ブログ『まや☆日記』が大幅加筆されて待望の書籍化。TBSアナウンサー6年間の軌跡はもちろん、自身が出演した番組の制作の裏側から、お気に入りスポットなども紹介。撮り下ろしプライベートフォトも収録したファン必見の一冊です。


<特集・室井滋『マーキングブルース』>
◎室井滋『マーキングブルース』(メディアファクトリー)



女優のかたわらエッセイなどで天才的な才能をみせ数々のヒット作を書いてきた室井滋さんのはじめての小説。「猫と女」の物語と、物語と重なるテーマの軽妙エッセイとのカップリングで、ただカワイイだけの猫本ではなく、「ノラ猫の誇り高さ、たくましさ、健気さ」と女性の生き方との重ね合わせています。ムロイ氏が街で撮った猫写真付き。猫を6匹飼っているという室井さん、ロケ現場に一匹連れてきてもらい一緒にインタビュー。初めての小説を書くにあたっての気持ちやきっかけ、猫との出会いなどをお伺いしました。


<今週の松田チョイス>
◎中島京子『エ/ン/ジ/ン』(角川書店)



松田 風変わりだけど、なぜか惹きつけられるお話、中島京子さんの『エ/ン/ジ/ン』です。
N 身に覚えのない幼稚園の同窓会の招待状を受け取った、葛見隆一。仕事と恋人を失い、長い人生の休暇にさしかかった隆一は、会場でミライと名乗る女性と出逢う。彼女は、人嫌いだったという父親の行方を捜していた。手がかりは、「厭人」、「ゴリ」の、二つのあだ名だけ。いったい父は何者だったのか?>
松田 これは、中年にさしかかった男女が、自分たちが生まれた時代、1970年代に、父や母は何を考え、どう生きていたのかを、時を超えて探っていくというお話です。主人公たちや、彼らが出逢う人びとが個性的でチャーミングなので、なんだか、彼らのタイムトラベルに同行しているような気分になっていきます。そして、最後には、親の世代から子の世代に、「何か」が脈々と続いている、そういう手応えを感じさせるラストが待っているんです。
谷原 ぼくも読ませてもらったんですが、ぼくは1972年生まれなんです。ぼくたちが子どもの時、自然が残っているところで遊んでいたんですが、その頃のことを思い出しました。そして、ヘンリー・ダーガーのことがでてくるんですが、世田谷美術館の「アウトサイダー展」で絵を見ているので、そこからはグッと身近に感じられましたね。
松田 現実にあったことをちりばめて、そこに物語をからめていくので、不思議なテイストのお話になっていますね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.3.14)

2009年03月14日

『プリンセス・トヨトミ』と「絵本『つみきのいえ』」


<総合ランキング> (啓文堂書店全店調べ・3月2日~3月8日)
① 渡辺淳一『欲情の作法』(幻冬舎)
② 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)
③ 『キャス・キッドソンへようこそ2』(宝島社)
④ 中村克『最後のパレード』(サンクチュアリ出版社)
⑤ 『Cher 2009 Spring/Summre Collection』(宝島社)
⑥ 加藤久仁生・平田研也『つみきのいえ』(白泉社)
⑦ 万城目学『プリンセス・トヨトミ』(文藝春秋)
⑧ 堀江貴文『徹底抗戦』(集英社)
⑨ 天童荒太『悼む人』(文藝春秋)
⑩ M・シャイモフ『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』(三笠書房)


<特集・絵本『つみきのいえ』>
◎加藤久仁生・平田研也『つみきのいえ』(白泉社)



水に囲まれつみきを積んだような部屋で、ひとりの老人が暮らしている。水没している階下にのこぎりを落とした彼は、それを拾うためにもぐり、それぞれの部屋に刻まれた家族の思い出にめぐりあう。――アニメ「つみきのいえ」はアヌシー国際アニメーションフェスティバル最高賞、第81回米国アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞して話題になりました。世界中の子どもと大人が感動したアニメを作者2人が絵本にしました。アカデミー賞受賞が追い風となって、絵本『つみきのいえ』は20万部突破しています。「ブランチ」では、加藤久仁生さんが所属する制作会社ROBOTを訪問し、「ALWAYS三丁目の夕日」等をつくってきた映像制作プロダクションの、アニメーションキャラクターをつくる部署に所属している加藤さんのデスクを拝見して、“Thank you my pencil”鉛筆も発見しました。実際に加藤さんが鉛筆で「つみきのいえ」のおじいさんを描いてもらったり、アニメーションを創る時と、絵本を創る時の絵の違いをコメントしてもらいました。また、「つみきのいえ」のストーリーをつくった㈱ROBOTの先輩・平田研也さんにも創作秘話を伺いました。


<今週の松田チョイス>
◎万城目学『プリンセス・トヨトミ』(文藝春秋)



松田 『鴨川ホルモー』、『鹿男あをによし』と、に面白い作品を次々と発表してきている万城目学さんの最新長編小説『プリンセス・トヨトミ』です。
N 万城目学の最新長編小説『プリンセス・トヨトミ』。それは、五月末日の木曜日午後四時のこと。なんと大阪が全停止。そのきっかけは、会計検査院の三人の調査官だった。彼らの見た「プリンセス・トヨトミ」とは一体? 前代未聞のエンタテイメント始動!>
優香 わたし、万城目さん大好きなんですけども、万城目さんらしく、空想の話を現実かと思わせる、もっていき方がうまいなあと……。今回は、とっても大人っぽいお話だなという印象でしたが。
松田 そうなんですね、そこが「万城目マジック」のすごいところで。個性的なキャラクターが次々出てきて、ユーモラスな話を読んでいると、突然、別世界の扉が開いて、とんでもない世界が見えてくるという、本当に楽しませてくれる作品だと思いますね。
谷原 祥太くんも、万城目さんの映画「鴨川ホルモー」に出るよね。
祥太 はい、ぼくは慶太と双子役、三好兄弟で出るんです。観てください。ぼくも『プリンセス・トヨトミ』読ませていただいたんですけども、登場する三人の調査官のキャラクターが個性的で、いろんなやりとりも細かくて面白いんです。ちょっと『ホルモー』とは違った万城目ワールドというか、すごい面白かったです。
谷原 皆さんも万城目マジックにはまってみたらいかがでしょうか。

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.3.7)

2009年03月07日

『深夜食堂』と「篠山紀信 at 東京ディズニーランド」


<総合ランキング> (文教堂書店全店調べ・2月23日~3月1日)
① 渡辺淳一『欲情の作法』(幻冬舎)
② 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)
③ 松本ぷりっつ『うちの3姉妹特別編 ハワイでおっぺけぺ』(主婦の友社)
④ 天童荒太『悼む人』(文藝春秋)
⑤ M・シャイモフ『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』(三笠書房)
⑥ 『珍獣ハンターイモトの動物図鑑』(日本テレビ放送網)
⑦ 清原和博『男道』(幻冬舎)
⑧ 押切もえ『モデル失格』(小学館)
⑨ 勝間和代『断る力』(文藝春秋)
⑩ 五木寛之『人間の覚悟』(新潮社)


<特集・篠山紀信 at 東京ディズニーランド>
◎篠山紀信『MAGIC』(講談社)



写真集『MAGIC』とは? 誰もいなくなった東京ディズニーランドやディズニーシーでキャラクターたちは一体何をしているのだろうか? 誰も見たことのない秘密の時間。魔法の力を使って、巨匠・篠山紀信が見てしまった。篠山さんは、久々にミッキーたちに会うため、再び、東京ディズニーランドにやってきた。レポーターの英玲奈と出会い、ミッキー&ミニーと再会しました。そして、篠山さんオススメフォトスポットへ移動し、ドナルド、プルート、グーフィーも合流しました。最後に、篠山さんにアドバイスしてもらって、英玲奈が篠山さんとキャラクターたちちを撮影しました。
松田 ぼくは篠山さんに写真を撮ってもらったことが何回かあるんですが、絶妙のトークで、写される人を笑わせて、いつの間にかシャッターを押しているんですね。あの篠山さんの明るさとディズニーランドの楽しさとがあいまって、こんなに素敵な一冊が誕生したんでしょうね。


<今週の松田チョイス>
◎安倍夜郎『深夜食堂』1~3(小学館)



松田 しみじみと味わい深いコミック、安倍夜郎さんの『深夜食堂』です。
N 盛り場の片隅にあるめしや「深夜食堂」。営業時間は夜12時から朝7時まで。メニューは「豚汁定食、ビール、酒、焼酎」だけ。「あとは勝手に注文してくれりゃあ、できるもんなら作るよ」というのが主人の営業方針。このお店に集うわけありのお客さんたちの人生が交錯する人情物語。>
松田 このお店で、お客さんたちが食べるのは、赤いタコウインナー、きのうのカレー、猫まんま、インスタントラーメン、魚肉ソーセージなどなど、料理とかグルメとはほど遠いものばかり。でも、それがとっても美味しそうなんです。それは、それぞれの食べ物に、人びとの大切な思い出や記憶が重なっているからなんですね。そういう人生ドラマが隠し味になっているので、この「深夜食堂」の何気ない食べ物がかけがえのないものだっていう気がしてくる。だから、この漫画を読むと、そこに出てくるものを、今すぐにでも食べたいという気持ちになってしまうんですね。作者の安倍さんは、41歳でデビューしたという遅咲きのコミック作家なんですが、そういう人生経験の豊かさが、この漫画の一つ一つのエピソードに活かされていると思いますね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.2.28)

2009年03月01日

『喋々喃々』と「田淵久美子『女の道は一本道』」


<総合ランキング>  (三省堂書店全店調べ・2/16~2/22)
① 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)
② 渡辺淳一『欲情の作法』(幻冬舎)
③ 勝間和代『断る力』(文藝春秋)
④ 押切もえ『モデル失格』(小学館)
⑤ 宮部みゆき『英雄の書(上・下)』(毎日新聞社)
⑥ M・シャイモフ『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』(三笠書房)
⑦ 酒巻久『「会社のアカスリ」で利益10倍!』(朝日新聞出版)
⑧ バクラ・オバマ、English Expres編集部『オバマ大統領就任演説』(朝日出版社)
⑨ 野村克也『あぁ、監督』(角川書店)
⑩ 平子理沙・中村和孝『E'toile』(講談社)


<特集・田淵久美子『女の道は一本道』>
◎田淵久美子『女の道は一本道』(小学館)



宮崎あおいという国民的ヒロインを生んだNHK大河ドラマ「篤姫」。「波乱万丈の人生だった」と自らの半生を語る同ドラマの脚本家・田淵久美子さんが命を吹き込むようにして作り上げたヒロイン像・篤姫は、「不自由な時代に自由に生きた」姿が多くの女性視聴者の心を掴んだ。本書は、ドラマ「篤姫」生みの親・田淵さんが、自らの半生を振り返りながら現代女性たちに説く、語り下ろしの「篤姫的生きかた指南書」。「篤姫」脚本執筆に際し大きな支えとなり、篤姫の夫で将軍・家定のモデルでもあったという夫・瑞徳さんが撮影終了後に死去した今、責任と覚悟をもって自らの道を選び生き抜く「女の一本道」を語っている。著者の田淵さんにインタビューし、息子さんと娘さんにもコメントを頂きました。


<今週の松田チョイス>
◎小川糸『喋々喃々』(ポプラ社)



松田 皆さん、お待ちかねだったんじゃないかと思います。『食堂かたつむり』で印象的なデビューを飾った小川糸さんの第二作『喋々喃々』です。
N 処女作が大ヒットとなった小川糸、待望の第二作『喋々喃々』。ある日、店に訪れた男性客と、許されざる恋に落ちる。この小説の中に登場する飲食店は、ほとんどが谷中に実在するお店。主人公の恋模様とともに、情緒ある下町の様子がていねいに描かれた、きらめくような物語。>
優香 私も大好きな糸さんなんですけども、谷中はじめとする下町のガイドブックみたいな感じもあるんですね。
松田 そうですね。そういう部分もありますね。一つ一つの場面や描写がすごくていねいに描かれているんで、印象深いんです。東京の下町の情緒とか、町やお店の雰囲気とか、特に、美味しい料理やお菓子が出てくる場面がすごく素敵なんですね。
優香 糸さんらしいですね。『食堂かたつむり』と比べるとどうですか?
松田 「喋々喃々」という言葉は「男女がむつまじく語り合う様子」っていう意味なんですけども、そういうタイトルからもわかるように、ぐっと大人度が増したという感じです。主人公のお店「ひめまつ屋」というのですが、「秘めて」「待つ」恋が静かに静かに成長していくさまを描いているんですね。まあ、許されない愛なんで、読んでて切なくなる部分もあるんです。たぶん、若い女性の方たちが読むと、色んな思いを重ねて読まれて、素敵な恋物語として楽しめるんじゃないかなあっていう気がしますね。
優香 へえ、読みたーい。いいですね、借りていきます。

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.2.21)

2009年02月22日

『廃墟建築士』と「ブーム到来!漢字勉強本」


<総合ランキング>  (文教堂書店全店調べ・2009年2月9日~2月15日)
① 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)
② 清原和博『男道』(幻冬舎)
③ 押切もえ『モデル失格』(小学館)
④ M・シャイモフ『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』(三笠書房)
⑤ 湊かなえ『告白』(双葉社)
⑥ 内田康夫『還らざる道』(祥伝社)
⑦ 野村克也『あぁ、監督』(角川書店)
⑧ 大前研一『さらばアメリカ』(小学館)
⑨ 山本兼一『利休にたずねよ』(PHP研究所)
⑩ 中谷巌『資本主義はなぜ自壊したのか』(集英社インターナショナル)


<特集・ブーム到来!漢字勉強本>
国のトップたるお方が「未曾有」を「みぞゆう」と読み、恥をさらしたあの事件。そこからぐんぐん部数を伸ばしている本が、漢字勉強本。たくさん出版されている漢字勉強本の中から、売れ筋の3冊を紹介。それぞれの著者(編集代表者)などにインタビュー。それぞれの本のウリ、オススメの問題を出題してもらいます。


①出口宗和『読めそうで読めない間違えやすい漢字』(二見書房)



現在87万部の大ベストセラー。著書の出口さんによると、漢字勉強本は去年の“おバカブーム”から徐々に部数を伸ばしていたが、麻生さんがきっかけとなって大ブレイクしたそうです。


②日本語倶楽部『読めないとバカにされる漢字1500』(河出書房新社)



“大人として必須の漢字1500”を集めた漢字勉強本で、現在11万部のベストセラー。民主党石井議員が直々に出版社に電話し、「おもしろかったので麻生さんへの質疑の際に使いたい」と連絡してきた話題の本。


③現代総合研修センター『漢字でゼッタイ恥をかかない本』(ロングセラーズ)



今年2月1日初版にもかかわらず、既に7万部を突破。パソコンや携帯が浸透して、漢字が書けない、漢字の変換ミスが多い現代っ子向けの漢字勉強本。“書けるようになる”、“変換ミスをなくす”にこだわった一冊。


<今週の松田チョイス>
◎三崎亜記『廃墟建築士』(集英社)



松田 架空の物語なのに不思議なリアリティがある短編集、三崎亜記さんの『廃墟建築士』です。
N ちょっと不思議な建物をめぐる奇妙な事件を描いた短編集『廃墟建築士』。犯罪率の高い七階だけを撤去する。魂の安らぐ空間・廃墟を新築する社会。夜のなると本が空を飛ぶ図書館。意識がある蔵の話。ありえないことなど、ありえない。現実と非現実が同居する4編収録の三崎亜記の最新作。>
谷原 実は、ぼくも読ませてもらったんですが、4編が収録されている短編集で、その中で「図書館」という1編があるんですけども、夜になると本たちが自由に飛び回るんですよ。本好きのぼくとしたら、その様を想像するだけでワクワクしちゃって。もしや、家にある本棚の本が飛んだりしたら、見たいような見たくないような、怖いような不思議なものですよね。
松田 「ナイト・ミュージアム」みたいな世界ですね。それぞれに、現実世界とちょっとズレた世界が描かれるんですね。でも、その世界では「あたりまえ」のことだと思われていて。そういうことを、法令とかマニュアルとか歴史記述といった、わりにクールな、客観的な文章で書かれているんですね。特別大げさに、「変なことがあるよ」って言ってないんだけど、そこから、すごく「情」みたいなもの、情感みたいなものがふつふつと湧き起こってくるんです。建物の話なんです、全部、それぞれの建物が、いつの間にか生き物みたいな感じで伝わってくるんですよね。本当に不思議なテーストが味わえる、楽しい作品集ですね。
谷原 不思議なリアリティがありますよね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.2.14)

2009年02月15日

『どこから行っても遠い町』と「村山由佳『ダブル・ファンタジー』」


<総合ランキング>  (三省堂書店全店調べ・2/2~2/8)
① 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)
② バクラ・オバマ、English Expres編集部『オバマ大統領就任演説』(朝日出版社)
③ マーシー・シャイモフ『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』(三笠書房)
④ 押切もえ『モデル失格』(小学館)
⑤ バクラ・オバマ『オバマ大統領演説』(コスモピア)
⑥ 清原和博『男道』(幻冬舎)
⑦ バクラ・オバマ、English Expres編集部『オバマ演説集』(朝日出版社)
⑧ 山本兼一『利休にたずねよ』(PHP研究所)
⑨ 津村記久子『ポトスライムの舟』(講談社)
⑩ 中谷巌『資本主義はなぜ自壊したのか』(集英社インターナショナル)


<特集・村山由佳『ダブル・ファンタジー』>
◎村山由佳『ダブル・ファンタジー』(文藝春秋)



奈津・三十五歳、脚本家。尊敬する男に誘われ、家を飛び出す。“外の世界”に出て初めてわかった男の嘘、夫の支配欲、そして抑圧されていた自らの性欲の強さ。もう後戻りはしない。女としてまだ間に合う間に、この先どれだけ身も心も燃やし尽くせる相手に出会えるだろう。何回、脳みそまで蕩けるセックスができるだろう。そのためなら、そのためだけにでも、誰を裏切ろうが、傷つけようがかまわない。「そのかわり、結果はすべて自分で引き受けてみせる」。売れっ子シナリオライターとして活躍しながらも家庭での夫の支配的な態度に萎縮する日々を送っていた奈津は、年上の敬愛する演出家との情事を機に自らの女としての人生に目覚めていく。週刊文春で連載された村山由佳の衝撃の官能の物語。今回、仕事場で村山さんにインタビュー。「おいしいコーヒーの入れ方」シリーズや直木賞受賞作『星々の舟』とは全く違ったストーリーを書いた理由、発想のきっかけ等をインタビューしました。
谷原 松田さん、『ダブル・ファンタジー』いかがでしたか?
松田 テーマがテーマなので、生々しいシーンもたくさん出てくるんですけども、全体としては、透明感というか清潔感がある作品ですね。恋愛小説をたくさん書いてきて、ストーリーテリングがものすごく上手い人なので、とても楽しめる作品ですね。


<今週の松田チョイス>
◎川上弘美『どこから行っても遠い町』(新潮社)



松田 昨年、ブランチBOOK大賞に選ばれた川上弘美さんの最新作『どこから行っても遠い町』です。
N 川上弘美の『どこから行っても遠い町』。裸足で男のもとへ駆けていった魚屋の死んだ女房、一緒に小料理屋を営む元恋人の二人、不仲な両親のやりとりを傍らでみつめる小学生……。東京にある小さな商店街を行き交う人びとの、あやうさと幸福を描く。短編の名手・川上弘美の真髄を示す連作短編小説集。>
優香 はい、私も読ませていただきました。川上さんの作品って、微妙な気持ちの書き方がとてもリアルなんですよね。
松田 そうですね、この作品も、人と人との関係をしみじみと見つめたラブストーリーだと言えると思うんですよ。この町の人たちの暮らしには、それほど波乱はないんですね。でも、よく見つめていくと、それなりに悲しみや不幸せな部分もあって、それがいろんな物語を生みだしていくっていう感じです。優香ちゃんはどんな感じでした?
優香 私は、「ロマン」というお店をやっているおばあちゃまという人が、とってもセクシーで、口紅をピッタリ真っ赤とか真ピンクのを塗って、写真を撮るときに、マリリン・モンローのように撮るんです。ちょっと口を半開きにして。お茶目な部分があって、ズーッと一人でいるんですけども、でも、とっても寂しい思いをしていたりとか、そのギャップが切なかったりして、私は、このおばあちゃんが好きなんですけども。川上さんって、女性的な方なのかな、と思ったら、男性目線もとてもリアルに描いていて……
松田 子どもとかね……。一人一人の辛さとか悲しみみたいなものを、優しく包み込むように書いているんで、読んでいると、ここに出てくる一人一人がとっても愛おしく感じてくる。読んだ後に、ほのぼのとした気持ちになれる、本当にいい連作短編集ですね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.2.7)

2009年02月07日

『造花の蜜』と「西野亮廣『Dr.インクの星空キネマ』」


<総合ランキング>  (三省堂書店全店調べ・1/26~2/1)
① 出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)
② バクラ・オバマ『オバマ演説集』(朝日出版社)
③ バクラ・オバマ『オバマ大統領就任演説』(朝日出版社)
④ マーシー・シャイモフ『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』(三笠書房)
⑤ 清原和博『男道』(幻冬舎)
⑥ 山本兼一『利休にたずねよ』(PHP研究所)
⑦ 五木寛之『人間の覚悟』(新潮社)
⑧ 塩野七生『ローマの亡き後の地中海世界 下』(新潮社)
⑨ 大前研一『「知の衰退」からいかに脱出するか?』(光文社)
⑩ 湊かなえ『告白』(双葉社)


<特集・西野亮廣『Dr.インクの星空キネマ』>
◎西野亮廣『Dr.インクの星空キネマ』(幻冬舎)



人気お笑い芸人「キングコング」の西野亮廣さんが描いた渾身の力作絵本。フジテレビ「笑っていいとも」の番組中に描いた西野さんの絵を司会のタモリさんが絶賛。本格的に絵本を描くきっかけになったとか。素人とは思えぬ想像力と精緻な画力は、ファンならずとも読んでみたい1冊! どうして星は流れるの? どうして人は夢を見るの? 丘の天文台にひとりで暮らすおじいさん、時代遅れのハシゴ屋さん、村人から恐れられているバケモノ、世界中のみんなのために“夢の脚本”を書き続ける人。それぞれの思いで毎日星空を見上げる孤独な人たちが、小さな幸せを見つける感動のファンタジー。星空を見ることを忘れてしまった大人が泣く、子供が微笑む、優しさが心に沁みる物語。「はねるのトびら」の収録前にブランチをよくみているという西野さんを直撃。絵本を書くきっかけ、絵を描こうと思ったきっかけ、周りの人の反応などをインタビューをしてきました。
松田 素晴らしいですね。夢の世界で思う存分遊びたいという気持ちが緻密な絵から伝わってきます。そういう西野さんの夢の中に、ぼくたちが迷い込んだような奇妙な感覚のある不思議な絵本で、とっても楽しいですね。


<今週の松田チョイス>
◎連城三紀彦『造花の蜜』(角川春樹事務所)



松田 とんでもなく面白いミステリーです、連城三紀彦さんの『造花の蜜』です。
N 幼稚園でひとり息子が誘拐された。しかし、担任は開き直ったように告げる、「だって、私、お母さんに……あなたにちゃんと圭太クン渡したじゃないですか。」事件の不可解な幕開けから渋谷スクランブル交差点での身代金受け渡しまで、どんでん返しの連続にあなたは翻弄され続ける。事件の驚くべき真相とは……。>
松田 読んでみるとわかるんですが、とにかく驚くし、とにかく面白いんです。最初はシーリアスな誘拐劇として物語は始まるんです。緊迫感にあふれた描写の連続に引き込まれていくと、犯人の意外な動きがあって、物語がどんどんどんどん変わっていくんですね。その後に、何度も思いがけないどんでん返しが続いて、最後には、とんでもないところまで読者を連れてってしまうんです。……言えないのがつらいんですが。
谷原 ぼくも、読んだんですが、どんでん返しと言えば、この間「太チョイ」でも紹介したジェフリ・ディーヴァーがすごく有名じゃないですか。でも、それに負けないくらい、筋立てだとか、伏線のうまさみたいなものがあったりして。ただ違うのは、ジェフリ・ディーヴァーはとてもエンタテインメント性が強いとすると、こっちの方は、日本的な情動であったりとか、上質なドラマを観ているような読後感があって。ぼく自身、キャラクターの魅力にひきこまれて……犯人とそれを追う警部のキャラクターに……。
松田 あんまり言うとネタバレになっちゃいますよ。
優香 そうなんだあ。
谷原 すごい、引き込まれました。
小林 読みたーい。
松田 本当にいろんなミステリーの要素がいっぱい入っていて、一冊でミステリー大全集という感じの大傑作ですね、これは。
谷原 一度読み始めたら止まらない、怒濤のエンタテインメントを、皆さんぜひ読んでみてください。 

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.1.31)

2009年02月01日

『猫を抱いて象と泳ぐ』と「美内すずえ『ガラスの仮面』」


<コミックランキング>  (紀伊國屋書店全店調べ・1/20~1/26)
① 美内すずえ『ガラスの仮面』43巻(白泉社)
② 一条ゆかり『プライド』10巻(集英社)
③ 甲斐谷忍『LIAR GAME』8巻(集英社)
④ 大和田秀樹『機動戦士ガンダムさん』よっつめの巻(角川書店)
⑤ 日高万里『V・B・ロ-ズ』13巻(白泉社)
⑥ ツジトモ・綱本将也『GIANT KILLING』9巻(講談社)
⑦ 田辺イエロウ『結界師』23巻(小学館)
⑧ 高屋奈月『星は歌う』4巻(白泉社)
⑨ 畑健二郎『ハヤテのごとく!』18巻(小学館)
⑩ 大和田秀樹『なるほど・ことわざガンダムさん』(角川書店)


<特集・美内すずえ『ガラスの仮面』>
◎美内すずえ『ガラスの仮面』1~43巻(白泉社)



演劇史上不朽の名作と謳われる「紅天女」の試演に向け、自らの天女像を求める北島マヤと姫川亜弓。亜弓の特別稽古が報道され、ライバルが順調に稽古を進めていることを知り、焦るマヤ。しかし速水真澄の「おれに紅天女のリアリティを感じさせてくれ」という言葉に、マヤは演技のヒントを掴んでいく。コミック売り上げ累計5000万部、連載期間33年。少女マンガ界に君臨する『ガラスの仮面』。1月26日、約4年ぶりに最新刊(43巻)が発売になりました。作者の美内すずえさんに、仕事場でインタビューしました。仕事机にあったのは、墨汁、主人公のフィギュア、CDラック、そして44巻に収録されるであろう生原稿など。インタビューの内容は、「デビューのきっかけ」「タイトルの由来、作品誕生秘話」「約9000ページの中で、作者自身が一番好きなシーンは?」「自身の体験が投影されているシーンは?」「33年の連載中に困ったことは? 挫折は? やめたいと思ったことは?」「主人公北島マヤの恋の行方はどうなるのか?」「ラストをどうするのか?」などです。


<今週の松田チョイス>
◎小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』(文藝春秋)



松田 本当に気が早い話だと思われると思いますけども、「今年のベスト1」だと言いたくなる作品に出会ってしまいました。小川洋子さんの長編小説『猫を抱いて象と泳ぐ』です。
N 小川洋子の最新長編小説『猫を抱いて象と泳ぐ』。主人公は伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒン。バスに住む巨漢のマスターに手ほどきを受け、チェスの大海原に乗り出した。彼の棋譜は詩のように美しい。しかし、なぜか彼の姿を見た者はいない。無垢な魂を持つ少年の数奇な人生を、切なくも美しく描いた作品。>
松田 とにかく「素晴らしい!」の一言です。読み始めると、残りのページ数がなくなっていくのが惜しくてたまらないという、そんな感じなんですよね。そして、読み終わると、場面の一つ一つが映像となって頭の中に焼き付いて、繰り返し思い出せるという。チェスの話なんですが、からくり人形とチェスをする人たちとか、肩に白い鳩を載せた記録係の美少女とか、品のいい老婆と主人公がチェスをしていたりとか……。その主人公そのものが姿が見えないところでチェスを打つという、不思議なお話なんですね。
優香 私も読ませていただきまして、最初にタイトルが本当に面白いなあというか……。
松田 何だろうと思いますよね。
優香 はい。引き込まれまして、さっき松田さんがおっしゃっていたように、本当に外国映画のような、絵本のような、物語として、一枚一枚ていねいに読みたくなるような本だなあと思いました。私は、この中で、特に、この少年のことをズーッとズーッと応援してきて、一切否定をしない、暖かく見守るお祖母ちゃんが本当に素敵なんです。お祖母ちゃんもチェスのことは分からないので、なんか私と同じ気持ちでいられるなという感覚があったり。で、後半で、お祖母ちゃんが少年に話す一言があるんですけど、そこでわたしはグッときて……。素敵な、いい家族だなって。
松田 チェスのことは、ぼくらも分からないんですが、チェスの本当に素晴らしい対局を写した棋譜というのは詩のように美しいって書いてあるんですね。この物語自体が、哀しくて、切なくて、本当に美しいんです。まだ書かれたばかりの作品なのに、もう古典作品の風格がある。名作だと思いますね。
谷原 読書の達人、松田さんが選んだ、今年ナンバーワンの作品、ぜひ読んでみてください。

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.1.24)

2009年01月25日

『女神記』と「湊かなえ『告白』」


<小説ランキング>  (丸善日本橋店・1/8~1/14)
① 火坂雅志『天地人(上・中・下)』(日本放送出版協会)
② 村山由佳『ダブル・ファンタジー』(文藝春秋)
③ 湊かなえ『告白』(双葉社)
④ 小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』(文藝春秋)
⑤ 天童荒太『悼む人』(文藝春秋)
⑥ 佐々木譲『警官の紋章』(角川春樹事務所)
⑦ 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
⑧ 飯島和一『出星前夜』(小学館)
⑨ S.ラーソン『ミレニアム(上・下)』(早川書房)
⑩ 柚木裕子『臨床真理』(宝島社)


<特集・湊かなえ『告白』>
◎湊かなえ『告白』(双葉社)



「愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。」
我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。そして、ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。以前、松田チョイスでも取り上げ大反響を呼んだ湊かなえさんの「告白」を特集。ヒットの秘密を①「第一章だけでも読む価値あり」②「色々な人の感情を疑似体験できる。」③「結末は賛否両論」の三つに分け、それぞれについて作者の湊さんにインタビューしています。
松田 『告白』という小説は、全編モノローグで、そのサスペンスがたまらないんです。そして、最後には、大胆なラストシーンがある。繊細さと大胆さとをあわせもっている、本当に力のある作家だと思うので、これからもいい作品を書いていただけるといいなあと思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎桐野夏生『女神記』(角川書店)



松田 桐野夏生さんが日本神話を語り直した意欲的な作品『女神記』です。
N 世界中の作家が、神話を語りなおす壮大なプロジェクト「新・世界の神話シリーズ」。その日本代表が、桐野夏生が描いた『女神記』。海蛇の島に生まれた巫女のナミマは、悲しい運命に翻弄され、16歳という若さで命を落とす。地底で目覚めた彼女の前に現れたのは……。「わたしはイザナミ、黄泉の国の女神です」。死の国へと堕ちたイザナミが語る、夫イザナキのあまりに残酷な仕打ちとは? 人間と神の対立を交えて描く、愛と裏切りのスペクタクルロマン。>
松田 桐野さんが取り上げたのは、日本神話の中で、日本列島を創ったといわれているイザナキ、イザナミという神様の物語なんです。神話そのものをなぞっているんではなくて、その外側に、もう一つ、ドラマチックな物語、巫女のナミマの物語というのをつくって、そこから神話を語っているんですね。桐野さんの活き活きとした文章で、新しい息吹を吹き込まれた神話が、とっても迫力があって、遠い昔のお話っていうよりも、活き活きとしたドラマとしてぼくたちに迫ってきます。
谷原 桐野さんのイメージというと、女性を描くのが上手な作家さんで、でも、それだけではなくて、ひとの表と裏、暗部を描くのが上手な方だと思うんですが、本作はどうなんですか。
松田 そうですね。『OUT』とか『東京島』も、そうでしたけど、そういう暗い部分を取り込みながら、それにあらがっていく女性のたくましい姿みたいなものは、この物語でもあって、桐野ワールドにもう一つの作品が加わったという感じですね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.1.17)

2009年01月19日

「芥川賞・直木賞受賞作発表」と「太田チョイス②」


<速報・第140回芥川賞・直木賞受賞作品発表!>
<VTR>
N おとといの木曜日、第140回芥川賞・直木賞の受賞者3名が決定。「ブランチ」では、受賞決定直後の皆さんをいち早く直撃しました。直木賞を受賞したのは、弱者の立場になって小説を書き続ける、孤高の作家・天童荒太さん。
◎天童荒太『悼む人』(文藝春秋)



英玲奈 直木賞受賞、おめでとうございます。
天童 ありがとうございます。
英玲奈 この受賞を一番伝えたいのは、どなたですか?
天童 えー、「王様のブランチ」の皆さん。
英玲奈 あらあ。ありがとうございます。
天童 ずっと「王様のブランチ」の皆さんには応援していただいて、そのことは、本当にお世辞やおべんちゃらではなく、ありがたく思ってきたし、皆さんの言葉がすごく支えになってきたので。
英玲奈 お待ちになっていたときは、天童さんでもドキドキしましたか?
天童 割と自然体で今回はいられたなという感じですね。というのは、『悼む人』というのは、ぼく自身がすべて出し切った作品だったし、これ以上のものは、少なくともぼくにとっては表現できないところまでは高めることができていたので。それがどう受け止められるかは、お任せするしかないなって。
英玲奈 じゃあ、落ち着いた気持ちで……。
天童 人から見たら、分からないけど。
英玲奈 ちょっといやらしい話なんですが、今回いただいた賞金は、何に使うんだろうって気になったんですが。
天童 うーん、ヒミツ。
英玲奈 ヒミツですか。
天童 「王様のブランチ」をご覧の皆様、本当に支えて下さったり、応援して下さったりして、本当にありがとうございます。これからも、「王様のブランチ」のBOOKコーナーをよろしくお願いします。


N そして、もう一人の直木賞受賞者が時代小説作家・山本兼一さん。
◎山本兼一『利休にたずねよ』(PHP研究所)



英玲奈 直木賞受賞、おめでとうございます。
山本 ありがとうございます。
英玲奈 今のお気持ちはいかがでしょうか?
山本 あの、嬉しいです。けども、だんだん冷めてきました。締め切りが一杯あるんでね。締め切りをどうクリアしていくかが大変です、これから。
英玲奈 締め切りのことが頭の中に一杯になって……。
山本 そうですね。
英玲奈 山本さんならではの、新しい利休像というのが、今回あったと思うんですが。それは、どこから生まれたんでしょうか?
山本 利休っていうと「侘び寂び」って言うじゃないですか。「侘び寂び」って、どういう世界だと思います。
英玲奈 ちょっと地味に、おごそかにというイメージがありますが。
山本 ぼくもそう思っていたんです。ですけども、利休好みの水指(みずさし)というものを見たときに、とっても、そんなに枯れたもんじゃないと、わたしは思ったんです。とっても艶やかで、ある意味エロチックでさえある。これは「恋」の美しさだと、わたしは思ったんです。
英玲奈 恋につながっているんですね。


N 芥川賞を受賞したのは、デビュー4年目の新進作家津村記久子さん。
◎津村記久子『ポトスライムの舟』(群像11月号)
英玲奈 芥川賞受賞、おめでとうございます。
津村 ありがとうございます。
英玲奈 「王様のブランチ」の英玲奈と申します。
津村 よろしくお願いします。やだ、めっちゃ可愛い人がいると思って……。
英玲奈 今回は受賞されて、どんなお気持ちですか。
津村 えーと、いろんな人に伝えはしましたけれども、あとは自分の実感を持つのを待つのみって感じですね。
英玲奈 まだ、実感は湧いてないですか。
津村 ちょっとないですね。
英玲奈 なぜ、会社を辞めずに二足のわらじで働かれているんですか?
津村 そうですね、会社員であることがとても面白いからです。
英玲奈 OLさんとして、お昼休みとか、みんなとご飯食べたりしてるんですよね。
津村 してます、してます。
英玲奈 そういう中で、面白い会話が出てきたりするんですか。
津村 あります、あります、それは。みんなで「いいとも」を見て、誰がテレホンショッキングに出るのとか。今してる話が、「相棒」の次の相棒は誰やねんという話をずっとしてます。
(「視聴者の皆さんに一言」と聞かれて)
津村 面白い小説を書いていきますし、今回の話も面白いと思いますので、どうぞ、お手すきのときに、お読みいただければ、たいへん幸いです。よろしくお願いします。


<スタジオ>
優香 素敵なキャラの方ですね。
谷原 松田さん、天童さん、直木賞受賞しましたね。
松田 嬉しいですね。この本のコーナーでは、10年前の『永遠の仔』以来、折に触れて、天童さんの作品を応援してきたので、本当に、ともに歓びを分かち合いたいという気持ちですね。
優香 天童さん、本当におめでとうございます。
一同 おめでとうございます(拍手)。
谷原 嬉しいですね。そして、もう一人の直木賞受賞者の山本兼一さんですが、ぼくは『千両花嫁』を読んだことがあったので、『利休にたずねよ』もぜひ読んでみたいと思います。優香 そうして、芥川賞は先週の「松チョイ」でやりましたね、津村さんでしたが。松田さんは、はじめから注目されていたとか。
松田 そうですね。4年前のデビュー作から、力のある作家だなあと思っていました。先週も『ミュージック・ブレス・ユー!!』を紹介しましたけれども、若い女性の、ちょっとイケてないんだけど、元気に生きようみたいな作品で、読んでいるとなんとなく元気もらえる、楽しい小説ですね。これからも注目したい作家の一人だと思いますね。
谷原 さきほどのVTRでも、とても人柄が出ていて……。
優香 読みたくなりますよね。
松田 明るい人ですね。


<特集・爆笑問題太田光の「太田チョイス」②>
先週は上記3冊について語った本の虫・太田光さん。今週は、太田さんが5冊チョイスしてくれたうち、先週紹介できなかった2冊を紹介します。


◎オルハン・パムク『雪』(藤原書店)



2006年ノーベル文学賞を受賞したオルハン・パムク。『雪』は、トルコの東北、アルメニアやグルジアとの国境に近く、民族的にも宗教的にも複雑に入り組むカルスという町が舞台。今は貧しく、多くの失業者を抱える灰色の街。そこにやってきた世界的に知られる詩人Kaとイベッキの恋愛に加え、トルコの政治的問題やイスラム教徒の苦悩をも描く大作。太田さん評「ざっくり言うとトルコを舞台にした恋愛小説」「小難しい印象を受けるかもしれないけど、恋愛を織り交ぜて書いてあるので大丈夫」。


◎ジェフリ・ディーヴァー『ウォッチメイカー』(文藝春秋)



“松田チョイス”で紹介された本はたいてい購入しているという太田さんの“BEST OF 松田チョイス”として紹介。「何も考えずに楽しみたいときはコレ!」という太田さんは、以前からジェフリ・ディーヴァーの大ファン。“松田チョイス”でジェフリ・ディーヴァーの新作が出たことをチェックしているらしい。
優香 (太田さんは)さすがに本をすすめするのが上手ですけれど、松田さんと直接対決というのはいかがですか?
松田 いやあ、トークでは太田さんにはかなわないですから……。
優香 いやいや。
松田 ただ、本当に本が好きな方なので、本の話をしたら、楽しいだろうなあと思いますね。機会があったら、ぜひやりたいと思いますね。
谷原 おっ、そうですか。じゃあ、ぼくも参戦しようかな。夢の対決をぜひ。
松田 バトルロワイヤルでね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2009.1.10)

2009年01月12日

『ミュージック・ブレス・ユー!!』と「太田チョイス」(前編)


<BOOKニュース>
◎第140回芥川賞・直木賞候補作決定!

蓮見 15日には、平成20年度下半期の芥川賞・直木賞が決定いたします。まずは、芥川賞の候補者の方々を紹介しましょう。ごらんの6名の方々です。(鹿島田真希、津村記久子、墨谷渉、山崎ナオコーラ、田中慎弥、吉原清隆)。鹿島田真希さん、津村記久子さん、山崎ナオコーラさんはノミネート3回目ということですが。松田さん、注目はどなたでしょうか。
松田 そうですね、その他、田中慎弥さんというのが三島賞・川端賞をダブル受賞して話題になりましたし、有力候補が目白押しなんですが、僕は津村記久子さんに注目したいなあと思っています。
蓮見 津村さんについては、後ほど「松田チョイス」でもご紹介します。さあ、続いては直木賞候補者ですけども、こちらです。(恩田陸、葉室麟、北重人、道尾秀介、天童荒太、山本兼一)。恩田陸さん、山本兼一さんという人気作家が揃っています。松田さん、「ブランチ」でも特集した天童さんも候補にあがっていますよ。
松田 そうですね。逆に言うと、「まだ受賞していなかったのか」と思う人もいるでしょうね。やっぱり素晴らしい作品ですし、ぜひこの機会に受賞して、もっと多くの人に読んでもらいたいなって思いますね。


<特別企画・「太田チョイス」(前編)>
「松田チョイスを参考にして本を買っている」(2007年6月23日O.A.)、「太田チョイスをやらせて欲しい!」(2008年11月8日O.A.)と語り、かねてより「太田チョイスをやらせろ」と言っていた太田光さんの夢“太チョイ”がこのたび実現。気合を入れた太田さんはオススメの本と、自分たちの著書について熱く語ってくれました。
太田 「太田チョイス」で本を選んでくれって言われて、実際やらせてくれることになって、困ったんだよ。
田中 何で困ったんだよ!
太田 「松田チョイス」で選んでるから、全部かぶっちゃうんだよ。
田中 「松チョイ」が選んだものを読んで……
太田 松田さん、どーもお世話になってます。参考にしてますよ。


◎谷崎潤一郎『春琴抄』(新潮文庫)



「世界の文学の中でも上位。谷崎潤一郎作品では一番」。「谷崎潤一郎は美しいものが好きで、その谷崎の理想を描いた作品」。「純文学は教科書に載ってるイメージかもしれないけれど、作品が発表された当時も今も大衆の文学であって、漫画のように気軽に楽しめる!」


◎モンゴメリ、西田佳子訳『赤毛のアン』(西村書店)



「想像しだすと止まらない、話しだすと止まらない、そんなアンの気持ちが僕はすごくよく分かる!」「想像力って本当に素晴らしいものなんだ!」と『赤毛のアン』を片手に持ったまま太田さんは熱弁。「大学生の時に何気なく手に取り、読んだ。これは僕の人生の書です」


◎爆笑問題『だから言わんこっちゃない』(小学館)



「週刊ポスト」の連載コラムをまとめた爆笑問題の新刊。歴史、時事問題ネタに二人が漫才形式で語ってゆく内容。「(傑作の後に)こんな本紹介したくない!」と恥ずかしがりながらも、見所を紹介。太田さんのオススメポイントは本の写真を撮影した、梅佳代さん。
N 最後に、太田さんから松田さんに、こんなメッセージ。
太田 松田、お前、俺の本を紹介したことないじゃないか! 松田、コノヤロー!
田中 「松チョイ」は我々の本とかを紹介してくれたことないんですか。
太田 されないんだから。
もりちえみ 松田さんは、なんでチョイスしないんですかね?
太田 嫌われてんのかなあ?
N スタジオにいる松田さん、本当のところはどうなんですか?


松田 別に嫌ってはいないですけども。爆笑問題さんのトークも本も大好きです。これまでも「特集」で何回も取り上げているんですね。だって、僕のへたくそなしゃべりで紹介するよりも、ご本人の見事なトークでしゃべっていただくほうが、番組的にも楽しいと思うので……。
谷原 なるほど。


<今週の松田チョイス>
◎津村記久子『ミュージック・ブレス・ユー!!』(角川書店)



優香 きっと太田さんもチェックしていると思います。今週の「松チョイ」は何でしょうか?
松田 はい、緊張しますね。今週は、芥川賞候補の中で、ぼくが一番注目している津村記久子さんの『ミュージック・ブレス・ユー!!』という作品です。
N 津村記久子の青春小説『ミュージック・ブレス・ユー!!』。主人公は高校3年生のオケタニアザミ。来年からの進路は未定。アザミにとって音楽について考えることは、将来について考えることよりずっと大切。でも、やっぱり何かが不安。そんな10代のイケてない日常とは、振り返ってみれば愛おしい日々。野間文芸新人賞を受賞した新時代の青春小説、ここに誕生。>
松田 主人公のアザミは普通の高校生で、ちょっと風変わりなところがあるっていうぐらいの高校生なんです。自分の好きなパンクロックを聴くことにはとことんこだわっていったり、波長の合う友人とメールしたり喋ったりするのはのすごく好きなんですね。そういう普通の高校生なんですけども、何かの弾みがあると、思いがけない行動にでてしまったりする。だから、不良だと思われたり、「キレやすい若者」と見えたりもするんですけども、そうじゃなくて、普通の高校生が、揺れ動きながら何かを求めている、何を求めているのかわからないんだけど、一生懸命生きているっていう感じが伝わってくるんですね。ぼくなんか、歳も違うし、男と女の違いもあるんですけども、高校生の時ってこうだったよなあっていうのがすごく伝わってきました。意外と、高校生のこういう気持ちというか感性というか、そういうものを描いている作品ってなかった気がします。青春小説の傑作だと思いますね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.12.27)

2008年12月30日

「第7回 輝く!ブランチBOOK大賞」


<第7回 輝く!ブランチBOOK大賞>
小林 今年も、約7万5千点の新刊から、厳選に厳選を重ねて「第7回 輝く!ブランチBOOK大賞」が決定いたしました。もちろん今年も審査委員長はこの方です。松田哲夫さんです。よろしくお願いします。
松田 よろしくお願いします。今年は、昨年よりもたくさん本が売れたそうです。皆さんも本を楽しんでいただいたと思います。ほんとうに、いろいろな本に楽しませてもらったんですが、そのなかで、とっておきの一冊を書いたくださった作家の方たちに賞を差し上げました。


<新人賞>
<VTR>
N1 お一人は、デビュー作『食堂かたつむり』を発表した小川糸さん。作詞家だった小川さんが10年の苦闘の末に書き上げた作品。
◎小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)



優香(3月22日OA) 久しぶりに号泣しました。もう、あふれて出てくるんですよ。
はしの(3月29日OA) 後半、涙をこらえるのが大変。閉じては上を向いて……。
N1 ブランチ女性陣の声も後押しし、現在25万部のベストセラーに。なんと、映画化のプロジェクトも進行中。
N2 ある日突然、すべてを失ってしまった主人公倫子は故郷で食堂を始める。一日一組、その客のためにだけ作られたメニューは人びとを癒し、小さな幸せの奇跡を生んでいきます。そんな優しいファンタジーが、後半一転、人間の生と死の物語に移り変わり、感動のラストを迎えます。
白石みき 「新人賞 小川糸殿」。おめでとうございます。
小川 ありがとうございます。『食堂かたつむり』で賞をいただくというのは始めてなんで、すごく嬉しいです。
N1 作品に登場するメニューの数々は、ほとんど自分で作ったことのあるものばかりというほど料理が好きな小川さん。この日も自家製のジャムを持ってきてくれました。旬の季節に1年分作りためるといういちじくのジャム。
白石 おいしい~。すごく爽やかですね。
小川 ゆずの絞り汁が入っているから、ちょっと酸味がある。
白石 おいしい~。でも、デビュー作がベストセラーになって、周りの方の反響なんか、すごかったんじゃないですか。
小川 そうですね。一時は、お祭り騒ぎみたいで、わたしの普段の生活からすると、経験できないようなこともあったんですけども、あまり浮き足立たずに、普通に生活している感じです。
N1 その言葉通り、小川さんはこの1年、コツコツと2作目を書きためてきました。
白石 その作品には、またこういったお料理とかは……。
小川 そうですね。「食べる」ということも視点になって書いてる面もあります。登場するお店が実在するお店なので、そこに行けば食べられるというものがたくさん出てくると思います。
白石 自分で主人公になったような気分になれますね。
小川 そうですね。


N2 続いて二人目の新人賞は。青春スポーツ小説の作者・百田尚樹さん。
◎百田尚樹『ボックス!』(太田出版)



優香(10月11日OA) ものすごく面白かったです。もう一気に、ほんとうに一気に読んでしまいまして、その日の夜、眠れなくなりました。興奮して!!
N2 口コミでジワジワと人気が広がっているこの作品、舞台は高校のボクシング部。天性のボクシングセンスを持つ鏑矢と元いじめられっ子の友情、栄光、そして挫折。少年たちの成長が無駄のない描写で描かれます。
白石 ボクサーなんですか?
百田 いやあ、私は放送作家です。
N2 百田さんは関西の名物番組「探偵!ナイトスクープ」など、さまざまなバラエティ番組を手がける放送作家。大学時代はボクシング部。その経験が、作品に生きました。
白石 「新人賞 百田尚樹殿」。おめでとうございます。
百田 ありがとうございます。
N2 バラエティ番組を手がけてきた百田さんが、青春スポーツ小説に取り組んだのには、わけがありました。
百田 わたし、息子が高校生で、息子を見ていると、「わあ、ぼくもこんなアホなとこあったなあ」とか、自分の恥ずかしいこととかやんちゃしたこととか、色んなことを思い出して、「ああ、これ楽しいなあ」って思って……。
N2 そして、女性作家の書いたスポーツ小説ブームも刺激になったと言います。
百田 わたしのような男性が読むと、面白いんですけど「違うな」とも思うんですよ。男の子の世界は、こんなんのと違う。こんなベタベタしてないと、こんなにナヨナヨしてないと。ある意味、もっとアホで、もっと強烈な男の子の世界があるんだと。これを書きたかったですね。
N2 百田さんは、この作品を書きながら、見えてきたものがあるそうです。
百田 ボクシングというものは、自分がパンチを打とうと思うときには、絶対に相手のパンチが当たる距離に踏み込まないとだめなんです。それを書いていて、人生ってこんなもんかなあって思いましたね。
N2 小川さん、百田さん、おめでとうございます。


<スタジオ>
谷原 『ボックス!』も『食堂かたつむり』も、優香ちゃんのお気に入り作品ですね。
優香 わたしが大好きな2作なんですけど。この『ボックス!』は、青春、ワクワク、興奮といった、もうテンションがあがる感じですね。大好きでした。で、『食堂かたつむり』の方は、これとは違って、母と娘の物語で、本当に静かなんですけども、涙が、優しい涙が号泣という感じで。ねえ、えみちゃん。
はしの 優香ちゃんにオススメしていただいて読んだんですけども、すごい温かい涙も流れるんですが、わりと衝撃的なシーンもあったりして、自分だったらどうするんだろうとか、どう考えるんだろうとか思いながら読める本でしたね。
谷原 『食堂かたつむり』は、作詞家の方が書いているんで、語感の音の並びというか配列というか、それも素晴らしかったですよね。松田さん、お二人のこれからが、とても楽しみなんですが。
松田 そうですね。小川さんは、非常に大胆なストーリー展開をされる方で、これからも、どんなチャレンジをしてくれるのか楽しみです。百田さんは、もうベテランと言えるぐらいのストーリーテラーなので、次は、どういうワクワクした世界を見せてくれるのか楽しみです。


<話題賞>
◎勝間和代『効率が10倍アップする新・知的生産術』(ダイヤモンド社)    ほか



昨年末に発売された『お金は銀行に預けるな』はじめ、出す本が全てランクインするなどベストセラーを連発。BOOK界だけでなく経済界など様々な分野で一大旋風を巻き起こした、経済評論家にして公認会計士の勝間和代さんが話題賞に決定。
「*話題賞 勝間和代殿* あなたは昨年末から今年にかけて/10冊以上のビジネス本を出版し/いずれも大きな反響を呼び/ベストセラーになるという快挙を達成しました。/格好いいライフスタイルを含めて/一躍 時の人となったあなたに敬意を表し/王様のブランチではBOOK大賞話題賞を贈り/ここに表彰します。」


<BOOK大賞>
優香 2008年、もっとも輝いた作品に贈られる「ブランチBOOK大賞」。大賞の発表は、審査委員長松田さんからお願いします。
松田 それでは発表します。「2008年・第7回 輝く!ブランチBOOK大賞」、大賞は、『風花』を書いた川上弘美さんです。
◎川上弘美『風花』(集英社)



<VTR>
N2 
「2008年ブランチBOOK大賞」は『風花』を書いた川上弘美さん。川上さんは、『センセイの鞄』をはじめ、次々と名作を生み、多くの文学賞に輝いてきました。そんな彼女が、一組の夫婦に焦点を当てた『風花』。33歳、結婚7年目ののゆりに匿名の電話がかかってくる。それは、夫・卓哉の不倫を知らせる電話だった。しかし、のゆりはどうしていいのかわからない。「わたしはいったい、どう、したいんだろう。」しだいにのゆりは、揺らぎながらも、自分を見つめ、向き合っていく。人間の心の淡い変化を川上さんの文章は見事にすくい取ります。
松田 「表彰状 川上弘美殿。BOOK大賞を贈り、ここに表彰致します」。おめでとうございます。
川上 ありがとうございます。第7回なんですよね。ラッキーセブンで、とても嬉しいです。
N2 松田審査委員長が『風花』を大賞に選んだ理由は?
松田 10人いれば10人が、それぞれ違う表現で、この本の感想を書かれている。珍しい本だなあと思いました。
川上 そうですね。
N2 たしかに、それぞれの書評の受け取り方も、「イラッとくる」というものから「癒しを感じる」というものまで、実にさまざま。
優香(5月17日OA) 恋愛小説って、ちょっと苦手な意識があったんですけども、すごく読みやすくて。なぜかって思ったら、恋愛だけじゃなくって、現実的なことが、丁度いい具合に混ざり合っている。
谷原(5月17日OA) 生活のことだったりとか……。正直、怖かったです、この本。女の人は、一見受け身に見えるけれど、決断したらとても現実的なんだなあって感じて。
N2 それは、川上さん自身も感じている思いでもありました。
川上 実は、書いている私自身が、最初のうち、主人公が歯がゆくてならなくて。なんだか頼りなくて、この人大丈夫なのかとズーッと思っていて。で、最後になって、だんだん反対に主人公がすごく変化していって励まされたりしたんですけども。でも、その変化があまりにも大きくて、自分でもアレーって思ってて。そしたら、色んな読み方を皆さんしてくださって、それは面白かったですね。優香さんが言ってくださった、「恋愛をしたりしていても日常がある。それが感じられた」というのが、すごく嬉しかったですね。いつも、私もそう思っているんですね。うっとりして家に帰ってくると、手を洗ったりうがいをしたりするわけですよね。それが大変でもあるし、救いでもありますよね。
N2 素晴らしい作品をありがとうございました。


<スタジオ>
小林 2008年ブランチBOOK大賞は『風花』の川上弘美さんでした。
谷原 松田さん、選考理由を教えてください。
松田 読む人によって感想や反応がこれだけ違う作品というのも珍しいと思うんですね。物語自体を楽しむということもあるんですが、その後に、読んだ人同士で、この番組でも、優香ちゃんや谷原さんと感想を言い合って、もう一つ外側に物語ができるという、そういう意味でも、優れた小説だなあと思いますね。
優香 男の人から見ても、怖いところがある本でしたね。
小林 さあ、来年はどんな本が選ばれるのでしょうか。以上、「第7回 輝く!ブランチBOOK大賞」でした。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.12.20)

2008年12月21日

『森に眠る魚』と「X'masに贈りたい絵本さがし」


<一般書ランキング> (リブロ池袋本店調べ・12/8~12/14)
① マーシー・シャイモフ『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』(三笠書房)
② 奥野宣之『読書は1冊のノートにまとめなさい』(ナナ・コーポレートコミュニケーション)
③ 勝間和代『起きていることはすべて正しい』(ダイヤモンド社)
④ 伊藤理佐『おんな窓 2』(文藝春秋)
⑤ 美香『モデル・美香の女磨きダイアリー』(角川春樹事務所)
⑥ 『このミステリーがすごい!』(宝島社)
⑦ 沢木耕太郎『旅する力』(新潮社)
⑧ 水野敬也『大金星』(小学館)
⑨ 『ミシュランガイド東京2009日本語版』(日本ミシュランタイヤ)
⑩ 天童荒太『悼む人』(文藝春秋)


<BOOKニュース>
◎内澤旬子『おやじがき』(にんげん出版)



こぎれいで健康な、ちょいワルおやじが急増する現代。耳毛上等、臭気充満、世間の目なんて気にしない、そんなおやじは現在絶滅を危惧されています。そんな、絶滅に瀕したおやじの生態に迫った一冊。


<絵本特集・X'masに贈りたい絵本さがし>
◎俵万智『かーかん、はあい』(朝日新聞出版)



クリスマスはプレゼント用に絵本を買う大学生・社会人も増えるシーズン。新聞連載の絵本コラムをまとめた本『かーかん、はあい』を出版した俵万智さんが絵本選びをアドバイスしてくれました。俵さんといえば短歌で有名ですが、現在5歳の息子さんの育児をきっかけに、絵本もかなりくわしくなったとか。「一文が短くて声に出して読んで楽しむという点では、短歌も絵本も同じなんです」と語る彼女。大量の絵本に触れる中で“大人の絵本の楽しみ方”を幾つも発見したという俵さんが都内最大級の在庫を誇るクレヨンハウスで、クリスマスプレゼント用の絵本を選んでくれました。最後に、俵さんからブランチへ素敵なクリスマスプレゼントが! 「クリスマス」と「絵本」を題材に、短歌を一首頂きました。
松田 『かーかん、はあい』っていうのは、とっても素敵な本で、愛らしい本なんですね。お母さんと子どもが絵本を一緒に読みながら語り合うという、本当に微笑ましい姿なんですね。それと、子どもがいろんなことを発見するんですよね。その時の輝きと俵さんの感動みたいなものが、ものすごくストレートに伝わってきます。そして、最後の章でお子さんが、ちょっと一言言うんですけども、それがウルッと来るんですね。最後まで読んでもらえればわかります。とっても素敵な一冊です。是非読んでみてください。


<今週の松田チョイス>
◎角田光代『森に眠る魚』(双葉社)



松田 血も流れませんし、化け物も出てこないんですけども、本当に怖い話です。角田光代さんの『森に眠る魚』です。
N 角田光代の最新作『森に眠る魚』。「お受験」が盛んな、とある町で知り合った5人の母親たちは、互いに心を許しあう「ママ友」。しかし、育児に悩み、「お受験」に翻弄されるうち、5人の関係性はしだいに変容していく。「あの子さえいなければ」。「私さえいなければ」。母親たちの深い孤独と痛み、そして日常生活に潜む恐怖をあぶりだした力作。>
松田 ここに出てくる「ママ友」たちは、本当に親しくなった瞬間、今度は、お互いに頼る気持ちが大きくなっていくので、ちょっとした行き違いから、ねたみや疑いが生まれてきます。ただ、作者は、そういう一人一人に優しく寄り添って、理解してあげようとしているんですね。だから、逆に苦しみみたいなものがつらく伝わってくる。本当に、何とも言えない怖い世界なんですけどもね。
谷原 なるほど。優香ちゃん、読んでみたんですよね。
優香 ものすご~い怖いです。
はしの いま、感想を言う前に顔がすごくなりました。
優香 もう、もう、ものすごく恐ろしいんです。よく、男の人の妄想って、なんかロマンチックだったり、可愛かったりするじゃないですか。女の人って、なんか現実的な妄想っていうか……。女の人の、仲のいいグループがあって、その中で二人が喋っていたりすると、「アレッ、もしかして自分のこと悪く言われてるんじゃないか」とか、そういうことを気にすることが多いじゃないですか、女性の方が。そういう関係性のことなので、人間的な怖さ、そういうものなんです。
松田 そこに、いつも子どもが関わってくるんで、「ママ友」の大変なのは、そういうところで……。そして、彼女たちの辛さが臨界点に達したときに、とんでもないことが起きるんですよ。これは、ちょっと、読んでみないとわからないんですが。
優香 はあい。
松田 ただ、その後に、また日常に帰って行く、それを、ささやかな希望があると読むのか、深い絶望と読むのか、いろんな読み方ができると思うんですけどもね。
谷原 ぼくも読んで、女性の心理を学んでみたいと思います。
優香 はあい。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.12.6)

2008年12月07日

『とんび』と「辻仁成『右岸』&江國香織『左岸』」


<特集・辻仁成『右岸』&江國香織『左岸』>
◎辻仁成『右岸』(集英社)



◎江國香織『左岸』(集英社)



大ベストセラーとなった辻仁成さんと江國香織さんの共作ラブストーリー『冷静と情熱のあいだBlu』『冷静と情熱のあいだRosso』(1999年、角川書店)が刊行されておよそ10年。再びお二人のコラボレーションが実現。
*『右岸』愚直だが真摯に生きる超能力者九は、初恋の人茉莉への叶わぬ想いを抱きながら、旅を続ける。
*『左岸』17歳で東京に駆け落ちし、2年後に別の男性と帰郷。恋も仕事も感性のままに生きる茉莉の物語。
幼馴染の九と茉莉は19歳の時に1度は両思いとなるが、結局うまくいかず……しかしその後も九と茉莉の魂の交歓は続く。1本の川を挟んだ右岸と左岸を歩む2人がお互いの人生を見守り続ける“ライフストーリー”。
*辻さん→江國さん「もっとマメにメール下さい」「パリに来ても僕に連絡くれない。レストランくらい連れていくのに!」「3度目のコラボあると思う!」
*江國さん→辻さん「10年前とくらべフランスで奥さんと子どもさんと住んでいて、帰る場所がある感じ。優しくなった」「時々メールするくらいの距離感が良い」「3度目のコラボは……どうなるかわからない(笑)」
谷原 いかがですか、松田さん、この作品は。
松田 大ヒットした『冷静と情熱のあいだ』の次ということで、たぶんプレッシャーも大きかったと思うんです。前は恋愛が軸になっている話だったんですけども、今度はもっとスケールが大きくて、人生そのものを描いていく作品なんですね。大変なチャレンジをしているんですが、見事に読み応えのある作品になっているなあって思います。二人がすれ違っていくんで、終始ハラハラするんですが、最後には意外なハッピーエンドが待っているという楽しみもあります。


<今週の松田チョイス>
◎重松清『とんび』(角川書店)



松田 絶妙な重松節が心に染みわたってきます。重松清さんの長編小説『とんび』です。
N 重松清、待望の新作長編小説『とんび』。昭和37年、トラック運転手のヤスさんに、待望の息子アキラが誕生。幼い頃、親と離別したヤスさんにとって、妻と息子と過ごす日々は、ようやく手に入れた家族の温もりだった。しかし、その幸福は突然の悲劇によって打ち砕かれてしまう。我が子の幸せだけを考え、悪戦苦闘するヤスさんの、喜びと悲しみを描いた感動長編。>
谷原 松田さん、これは重松さん得意の親子ものですから、すごく期待するんですが。
松田 そうですね。ひたすら一人息子の成長を見守り続けるヤスさんという父親の姿が素敵なんですね。そして、その一人息子をヤスさんが愛していますし、その二人を周りの人たちが愛しているし、登場人物全体を重松さんが愛しているという、本当に幸せな物語なんですね。だから、いろんなところで心打たれて、涙が出てきてしょうがないっていう、そういう作品なんですね。
優香 わたしも重松さん、大好きなんですけども、えみちゃんも読んだんですよね。
はしの 読みました。やられてしまいました。この一冊の中で、四、五回はダアーッて泣いて、二十回ぐらい鼻にツンときて、大変でした。でも、親って自分のこと、こういう風に見てたのかなあって思って読めますし、自分が親になったときに、ああ、子どものことをこういう風に思うのかなあって思いながら読んだり、すごい温かい本で、一気に読みましたね。
松田 本当に不器用で照れ屋のお父さんなんですよね。だから、言葉が足りなかったり、一生懸命に傷つけないようにしていることが裏腹になっちゃったりとか、その辺が、読者にはつらいんですよね。
はしの すごい土臭くて、そこがまたいいというか。
松田 そうですね。もう一つは「昭和の物語」なんですね。息子のアキラというのが重松さんと同じぐらいなんで、重松さんが育ってきた時代をしみじみと描いているという感じで、いいお話ですね。
谷原 優香ちゃんも、重松さん好きだもんね。
優香 大好きです。親子もの、大好きなんです。涙したいです。
はしの ほとんどの方が泣かされちゃうと思います。
谷原 ぼくも、お父さんの言葉には感動しました。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.11.29)

2008年11月30日

「松チョイHYPER・天童荒太『悼む人』」


<総合ランキング>(オリコン調べ・11/17~11/23)
① 『ミシュランガイド東京2009日本語版』(日本ミシュランタイヤ)
② マーシー・シャイモフ『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』(三笠書房)
③ 太田あや『東大合格生のノートはかならず美しい』(文藝春秋)
④ 竹中平蔵『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎)
⑤ 『かんたん年賀状素材集2009年版』(技術評論社)
⑥ 『世界一簡単にできる年賀状2009』(宝島社)
⑦ Vジャンプ編集部『クロノ・トリガーNDS版 PERFECT BIBLE』(集英社)
⑧ 東野圭吾『聖女の救済』(文藝春秋)
⑨ Jamais Jamais『O型自分の説明書』(文芸社)
⑩ 五木寛之『人間の覚悟』(新潮社)
谷原 『ミシュランガイド』、1位に入ってきましたね。
松田 そうですね、やっぱり、東京が世界一のグルメシティだということが、これでまた証明されたような気がしますね。


<松チョイHYPER・天童荒太『悼む人』>
◎天童荒太『悼む人』(文藝春秋)



*スタジオ*
松田 ぼくが21世紀になって読んだ本のナンバーワンです。本当に感動的ですし、いろんなことを考えさせられます。
優香 そうですね。私も読みまして、涙しました。
谷原 涙した。
優香 涙しました。ねえ。
松田 感動が、いろんな意味で、後まで残っていくんですね。
谷原 そんな感動的な作品なんですけども、作者の天童荒太さんに英玲奈ちゃんがインタビューに行ってきました。
英玲奈 はい。昨年の『包帯クラブ』映画化の時以来、1年ぶりにお会いしてきました。今回の作品は、なんと構想7年、その創作ノートを特別に見せていただきました。どうぞ。
*VTR* 
英玲奈 こんにちは。お久しぶりです。
天童 こんにちは。お久しぶりでした。『包帯クラブ』以来ですね。
英玲奈 よろしくお願いします。
天童 こちらこそ、よろしくお願いします。
N 常に傷を受けた側によりそって、心の物語を書き続ける作家・天童荒太。作品を発表するのは数年に一度、しかし、深いテーマを追求する作品は、必ず話題になってきました。そんな天童さんが、7年もの歳月をかけて取り組んだ最新作『悼む人』がついに完成。連日繰り返される事件や事故のニュース。それを伝える新聞などを頼りに、亡くなった人を亡くなった場所で「悼む」ための旅を続ける主人公・坂築静人。一体、彼は何のために人を悼み続けるのか。そこにどんな意味があるのか。彼を巡り、人間不信の雑誌記者、夫を殺した女、末期ガンの母たちのドラマが繰り広げられていく。愛と憎しみ、生と死が交錯する感動巨編です。>
英玲奈 この作品が出来上がったいま、どんな心境でしょうか。
天童 こういう作品を読者と共有できて、幸せだなあと思っているところです。
英玲奈 悔いは何も残っていないんですか。
天童 あるとすれば、ちょっと時間がかかっちゃたかなあという。
英玲奈 7年間ですものね。
天童 それぐらいかな。まあ、ぼくの能力では、これが精一杯だったので、本当のところを言うと悔いはないです。
N 「7年が精一杯だった」、この言葉の裏には、天童さんの凄まじい努力がありました。>
英玲奈 『包帯クラブ』の時にも創作ノートを見せていただいたんですが、今回もお持ちいただいたということで……。
天童 言われたので、一応、持ってきましたけど。これが……。
英玲奈 たくさん。こちら、何冊あるんですか。
天童 えーと、創作ノートが10冊あります。
N 天童さんが持ってきてくれた10冊の創作ノート。中を見てみると、小説を書き始める前の緻密な下準備の後が伺えます。>
天童 いつもぼくは、「その人になる」という書き方をするんで……。
N 主要なキャラクターすべてに自分が同化できたと思えるまで、設定をつきつめるという天童さん。中でも圧巻は、そのプロフィール作り。一人の登場人物のために、何10ページにもわたって、それまでの人生を作り込んでいきます。さらに、持ち前のユーモアと勇気をもって自らの末期ガンと向き合う、主人公の母巡子。彼女については、もっと丹念な取材と作り込みがなされていました。>
英玲奈 なぜ、あそこまで巡子の心境がわかるんだろうと、すごく不思議に思ったんですが……。
天童 ぼくは、いま言ったように、病気になった彼女になるので、日々薬を飲みますよね。その薬の色を知らないわけがない。だから、「薬の色はどんな色ですか」みたいな、ほんとに小さなことから、お医者さんに実際に訊いていくことになるんですよ。
N 膨大な資料をもとに、まずは巡子のカルテを考えたという天童さん。どうしてもわからないことは、実際の医師に細かく聞いていったといいます。>
天童 そこまで細かくやって、ようやく、自分が巡子という病気を得た58歳の女性になっていく、一つの手がかりにしていくというのかな。
N 同じく、静人の悼む旅をリアルにするためには、天童さんは、あらゆることを試みていました。静人が、いつどのあたりを歩けばリアリティがあるのかを計算。そして、毎日何を食べ、いくらぐらい使っているのかまで、細かく設定されています。しかし、それでも天童さんには肝腎な部分が、長い間実感できなかったといいます。>
天童 「悼む」ってどういうことだっていうことを、自分自身でも分からなかったんですね。じゃあ、自分も一回、静人になって、人が亡くなった場所に行ってみようと……。
N 静人は事件や事故の現場に行き、亡くなった人のことを聞いてまわる。そうすることで、その人を唯一無二の存在として心に刻みつけていきます。そんな主人公の悼む気持ちと同化するために、天童さんも、どんな人が、どんな風になくなったのかを読み込んでから、実際の事故現場に行ってみました。そして、静人の気持ちを追体験してみたんだそうです。>
天童 そうすると、すごくつらくて、死んだ人が入ってくるので、もうちょっと耐えられなかったんですよね。で、ああこれは、静人になっていくことが、もっと「悼み」を自分のものにできると思って、「静人日記」というのをつけはじめるんですね。
N その「静人日記」というのがこちら。毎日一人、報道で知った、亡くなった人のことを悼む日記。もし、亡くなった場所に行ったら、何が聞けたのか。静人の気持ちになって想像を巡らせるといいます。>
天童 例えばこの「雨より風の方が苦手です」とか、「野宿の時は強風が怖いです」とかいうのは、実際に自分が静人として、風が強い日だったんでしょうね、強風の方が怖いなあというのが率直に出てきたんだろうなあと思うし。それから、「何も残らないと言われた」という記述もあるのは、そういう風に続けていくことによって出てきたものですね。
英玲奈 批判する方もたくさん出てきましたもんね。
N 小説の中に、静人が用水路に転落して死んだ幼児のことを祈ろうとするシーンがあります。邪険に追い払おうとする男がいる一方、遺族らしき男は不審の目をむけながらも、静人にこう語る。「本当に優しい子だったんだと祈っていて。ママにな、用水路脇に咲いてた花をプレゼントしようとしたんだ。そういう子だったんだよ」>
天童 「悼む人」なんていうものがいたら、無関心あるいは敬遠されるのが一番でしょうけども、一方で、身近な人が死んだときには、真面目な態度で「聞かせてほしい」って言われたら、不審に思いながらもしゃべりたくなることがあるんじゃないかと。そのしゃべることが救いになることもあるだろうということも、やはり日記の中で見出していって、作品にそのままいかす形になっているんですけどね。
N 天童さんは、この「静人日記」を、一日も欠かさず、作品を書き終わった今も続けていると言います。>
英玲奈 何の意味もないと思うような瞬間はなかったですか。
天童 意味がないというのは、常に思っていて。意味がないと人に言われる行為を積み重ねていく行為が一番尊いと、ぼくは思っていて。だから、静人の行為が意味あるものになってはいけないと、むしろ思っていたというのかな。
N 7年もの歳月をかけて書き上げた作品『悼む人』を発表した天童荒太さん。亡くなった人を悼む旅を続ける静人を通して、天童さんが伝えたかったこととは。>
英玲奈 ここ(「創作ノート」の始め)に「いま、世界で最も必要とされる人物の物語」っていう風に書かれていますよね。
天童 今でも、大きな事件が、ここのところ続いていますけども、クローズアップされるのは犯人の方だったりすると思うんですよ。で、犯人の方を社会は、覚えていってしまって、ついつい、本当にどんな大切な人が亡くなったかが忘れられていくというかな。それが今、命の軽さともつながっていると思うので。本当に大事なのは犯人のはずはないんで。懸命に生きていた人が亡くなった。その亡くなった人のことを覚えておくっていう姿勢が、少し社会が変わるだけで、何かが大きく変わるような気がしているんですよ。
N 傷を受けた側の視点に立つ天童さん。そんな彼が生み出す作品に注目です。>
*スタジオ*
松田 この物語が語りかけてくるのは、「あらゆる人間の死を悼めるか」という、非常に重いテーマなんですね。だから、本当に息苦しくなるような場面も沢山あるんですけども、ただ終始、爽やかな風が吹いているような、気持ちよさがある。それは、いまVTRで見たように、天童さんが、本当につらい、身を削るような思いをして書いていって、そこで得た優しさみたいなものをもって物語を書いているからだろうと思うんです。
優香 わたしも読みまして、7年かかった重みっていうのが、この1冊にあるなあっていう風に感じたんですけども。私は、このなかでも、お母さんの話がとてもジーンときて、お母さんが出てくるたびに、毎回毎回、涙しながら読んでいたんですけども。このお母さんがガンという重い病気に罹って、死んでしまうかもしれないというのを抱えているのに、周りに対して感謝の気持ちとか、本当に温かくて大きい心を持っているお母様で、素敵だなあ、こんな風になれたらいいなあと思いながら読みましたね。
谷原 えみちゃんも読み始めたそうですね。
はしの 読み始めて、私は、あんまり読書慣れしていないので、まだ三分の一ぐらいしか読めていないんですけども。静人がなんで「悼む人」になっているのか、それは聖者なのか、それとも偽善者なのか。いま、静人に関わっている人たちがどんどん出てきて、どんでん返しが待っているのか、どうなのかというのがすごく気になりながら読んでます。
松田 そうですね。重い作品なんですけども、ひょうきんで明るい、面白いキャラクターも出てきますし、優香ちゃんが言ったように、お母さんもしょっちゅう冗談をいったり、明るいところがありますし……。
優香 そうですね。
松田 そして、最後までいくと、本当に激しくて美しいラブストーリーになるんですね。本当に圧巻だと思うんですけども。本当にスケールの大きい、読み応えのある作品だと思うんですよね。
谷原 どう翔太、読んでみたくなった。
翔太 もう、読まないとまずいなっていう感じですね。読みたいです。
谷原 みなさんも温かい涙を流して、心の洗濯をしてみたらいかがでしょうか。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.11.22)

2008年11月24日

『恋愛嫌い』と「2009年版カレンダー特集」


<2009年版カレンダー特集>
国内外3000種類のカレンダーを揃える丸善丸の内本店で、売れ筋商品を見て、今年の人気の傾向をチェック。近年、カレンダーの種類は細分化。日付を確認する他に+αの機能を持っている商品が急増しています。この道8年、全国のカレンダーの売れ行きを研究している丸善店員・渡辺さんにコメントしてもらいます。
*空気をキレイにするカレンダー(紙にコーティングした二酸化チタンが、紫外線や蛍光灯の光を受けると、タバコ、ホルムアルデヒド、汗の臭いを分解・消臭する効果を発揮。)
*節約レシピカレンダー(節約術が毎日の生活に取り入れ易いと“節約系”が多数登場。)
*カイくんカレンダー(Softbankお父さん初カレンダーが売上5万部の大ヒット。)
◎男性タレント人気ランキングTOP5(Amazon調べ)
1位 上地雄輔 発行部数約8万部
2位 佐藤健  ※コメントあり
3位 小池徹平
◎女性タレント人気ランキングTOP5(Amazon調べ)
1位 蛯原友里 ※コメントあり 発行部数約5万5千部
2位 堀北真希
3位 皆藤愛子
◎番外編・人気スポーツ選手
*ハニカミ王子・石川遼  ※コメントあり
*テニスの王子様・錦織圭 ※コメントあり


<今週の松田チョイス>
◎平安寿子『恋愛嫌い』(集英社)



松田 恋愛小説の常識を破った、平安寿子さんの『恋愛嫌い』です。
 恋愛に不向きな女たちの姿をリアルに描いた短編集、平安寿子の『恋愛嫌い』。恋愛したいという欲が湧かない喜世美29歳。ペットとブログがあれば彼氏なんていらない翔子26歳。美人なのになぜかモテない鈴枝35歳。恋愛って難しい、面倒くさいし、結局、いつもうまくいかない。それならいっそ、一人で生きちゃ、ダメですか?>
松田 なんと言っても、歯切れのいい、歯に衣着せぬ突っ込みが、読んでいて楽しいんですね。コミカルな語り口なんで、わりにシニカルな部分も出てくるんですが、落語を聞いているような感じで楽しめるお話なんですね。三人の女性の恋愛模様が描かれているんですけども、本物の恋愛になりそうなところで、普通のありがちな方向じゃなくて、違った方向に行ってしまう……。かといって、決してネガティブなわけではないんですね。自分自身に正直でいたい、それを曲げてまで男性に追随したくないっていう、そんな女心がよく描かれている作品なんですね。最後にはホッとする、とっても温かいラストが待っているんで、そんなにシニカルなお話ではない。楽しんでいただければ。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.11.15)

2008年11月16日

『スリーピング・ドール』と「大沢在昌『黒の狩人』」


<総合ランキング>(三省堂書店全店調べ・11/3~11/9)
① 竹中平蔵『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎)
② 東野圭吾『聖女の救済』(文藝春秋)
③ 海藤尊『イノセント・ゲリラの祝祭』(宝島社)
④ 太田あや『東大合格生のノートはかならず美しい』(文藝春秋)
⑤ 姜尚中『悩む力』(集英社)
⑥ 東野圭吾『ガリレオの苦悩』(文藝春秋)
⑦ 神谷秀樹『強欲資本主義ウォール街の自爆』(文藝春秋)
⑧ フィリップ・C・マグロー『史上最強の人生戦略マニュアル』(きこ書房)
⑨ 神田昌典+勝間和代『10年後あなたの本棚に残るビジネス書100』(ダイヤモンド社)
⑩ 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)


<特集・大沢在昌『黒の狩人』>
◎大沢在昌『黒の狩人(上・下)』(幻冬舎)



中国人ばかりを狙った惨殺事件が続けて発生した。手がかりは、頭部と四肢を切断された死体のわきの下に残された「五岳聖山」の刺青だけ。手詰まりとなった捜査に駆り出されたのは、新宿署のアウトロー刑事・佐江と謎の中国人・毛、そして外務省の美女・由紀。中国人殺しは、中国政府による”処刑”なのか。やがて事件は、日中黒社会を巻き込んだ大抗争へと発展した──。裏切りと疑惑の渦の中、無数に散らばる点と点はどこで繋がるのか。誰が誰の敵で、誰の味方なのか。やがて、国家をも揺るがす真実が浮かび上がる。逆転につぐ逆転、予測不能──。現実を凌駕した驚天動地のエンターテインメント巨編、ついに刊行。今回、著者の大沢在昌さんをインタビュー。作品ついてはもちろん、ハードボイルドな作風にも伺える、大沢さんにとっての男性像について伺います。
谷原 松田さん、新作の『黒の狩人』いかがでした。
松田 魅力的で癖のある登場人物が次々と出てきて、場面ごとに迫力あるドラマが展開されていくんですね。だから、かなり複雑な物語なんですけども、ぐいぐい読まされますし、最後まで緊張の糸が途切れないという感じで、さすがに大沢さんだと思いましたね。本当に熱いドラマですね。


<今週の松田チョイス>
◎ジェフリ・ディーヴァー『スリーピング・ドール』(文藝春秋)



松田 リンカーン・ライム・シリーズでおなじみの、ジェフリ・ディーヴァーの新作『スリーピング・ドール』なんですが、新らしいヒロインが誕生しました。
 ドンデン返しの魔術師と呼ばれる人気ミステリー作家ジェフリ・ディーヴァー。彼の最新ミステリーが『スリーピング・ドール』。一家惨殺事件を起こしたカルト指導者ダニエル・ペルが脱獄、逃走した。捜索の指揮をとるのはキャサリン・ダンス。人間のしぐさや表情を読み解く「キネシクス」の名手。嘘を見破るダンスと他人をコントロールする天才ペル。お互いの裏をかく頭脳戦が始まった。>
松田 とにかく面白いです、これは。ヒロインのキャサリン・ダンスがとっても魅力的で……。リンカーン・ライムというのは超人的な探偵だったんですが、ダンスの場合には、人間的な弱さも持っているんですね。家族とのつきあい方なんかも、よく描かれていますし。そういうダンスが摑まえようとしているのが、凶悪犯のペルという男で、これがまた、人間の心を操る天才なんですね。二人の駆け引きが、本当に手に汗握るという感じで……。そして、ジェフリ・ディーヴァーお得意のどんでん返しが、「エーッ」という感じで、何度も来るんですね。
谷原 ぼくも読ませていただいたんですが、本当は、来週紹介するという話が、急に今週になって、夢中になって三日半で読んだんです。『ウォッチメイカー』のサブストーリー的なところがあるじゃないですか。『ウォッチメイカー』の犯人って、自分の定めたルールは絶対に守っていくという、とっても理知的な知能犯なんですが、それと対照的に、今度のペルというのは、同じように人をコントロールする天才なんですけども、時に、自分で自分をコントロールできない、直情的な欲望に身を任せるというか……。
松田 人間的な弱さをもっているんですね。それが、捜査官のダンスの人間的な弱さとちょうどいい感じでハラハラさせるんですよ。
谷原 魅力的なんですよね、キャラクターが。
松田 本当にキャサリン・ダンスがチャーミングで素敵だなあと思いますし、このシリーズ、ずっと続けていってほしいなあって思いますね。
谷原 そうですね。松田さんとぼくをトリコにしたキャサリン・ダンス、皆さんもきっと、その魅力にはまると思います。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.11.8)

2008年11月09日

『茗荷谷の猫』と「話題の勉強本」


<総合ランキング>(有隣堂書店全店調べ・10/26~11/1)
① 東野圭吾『聖女の救済』(文藝春秋)
② 東野圭吾『ガリレオの苦悩』(文藝春秋)
③ 竹中平蔵『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎)
④ 東野圭吾『流星の絆』(講談社)
⑤ 大沢在昌『狼花 新宿鮫 9』(光文社)
⑥ 神谷秀樹『強欲資本主義ウォール街の自爆』(文藝春秋)
⑦ 姜尚中『悩む力』(集英社)
⑧ フィリップ・C・マグロー『史上最強の人生戦略マニュアル』(きこ書房)
⑨ 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
⑩ 太田あや『東大合格生のノートはかならず美しい』(文藝春秋)


<特集・話題の勉強本>
①太田あや『東大合格生のノートはかならず美しい』(文藝春秋)



②竹中平蔵『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎)



①東大合格者の“ノート術”を紹介し、ていねいに解説した、まったく新しい視点の参考書。多数の「東大ノート」を原寸大で公開して、授業ノートを効果的にとる技術を徹底的に解剖しています。ブランチが赤門前で現役東大生を直撃、本当に「東大ノート」は美しいのかを検証します。インタビューでは、本書に登場するノートの持ち主数名と、著者の太田さんに「7つの法則」を教えていただき、リポーターが持参した授業ノートを東大合格生に評価していただきます。さらに、東大合格生対リポーターのノート取り対決も実施しました。
②1の努力で10の成果をあげるという日本一の学習法を初公開。何を勉強したらいいのかわからない人は、座標軸に書いてみると、面白いほど今の自分がわかるのです。将来が見えない、今の仕事がつまらないという、悩める若い女性たちへのアドバイスをいただくとともに、竹中式メモ術の極意を教えていただきました。


<今週の松田チョイス>
◎木内昇『茗荷谷の猫』(平凡社)



松田 なんとも不思議な味わいの連作小説、木内昇さんの『茗荷谷の猫』です。
 『茗荷谷の猫』木内昇。主人公は、幕末の江戸から昭和の東京を生きた市井の人々。江戸の染井で新種の桜作りに心を傾ける植木職人。大正時代、茗荷谷に構えた住まいで売れない絵を描き続ける主婦。つつましく暮らす彼らを襲った怪奇な出来事の正体とは。異なる時代を生きた人々の夢と挫折が、時を超えて交錯する不思議な連作物語集。>
松田 この本の中には九つのお話が入っているんですけども、どれも東京のいろんな「町」を舞台にしてまして、そこで何かの「怪異」とか「不思議なこと」とか、ちょっと恐ろしげなことが起きるんですが、でも、そんなにおどろおどろしいものじゃないんですね。全体に、ふんわりとした幻想みたいなものが漂っている、不思議な味わいの連作集ですよね。
谷原 ぼくも読ませていただいたんですけども、江戸時代から昭和の30年代まで描いているんですが、なんか一つ不思議なものでも、おどろおどろしく見えるものも、それを客観的なところから見たら不思議でも何でもない、ありふれたことだっていうことで、その両方の視点で描いているのが、とても素敵だなと思いました。
松田 そうですね。なんか、一つ一つのお話そのものが幽霊みたいな感じで、摑まえようとするとスルッと逃げていくという感じで……。それでいて、じゃあ、バラバラなお話かというと、その後の話を読むと、前のことがわかったりするという、不思議な構造になっているんですね。だから、いろんな味わい方ができる、ちょっと独特の小説集だなあって思いました。本好き、小説好きの人が読むと、すごく楽しめる作品だと思いますね。
谷原 後半に行けば行くほど、味わいが増していきますからね。不思議です。読まないと、なかなか実感しにくいところがあるんですけども、ぜひ本屋でチェックしてみてください。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.11.1)

2008年11月02日

『聖女の救済』と「蜷川実花『Ninagawa Woman』」


<総合ランキング> (三省堂書店全店調べ・10/20~10/26)
① 東野圭吾『聖女の救済』(文藝春秋)
② 東野圭吾『ガリレオの苦悩』(文藝春秋)
③ 竹中平蔵『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎)
④ フィリップ・C.マグロー『史上最強の人生戦略マニュアル』(きこ書房)
⑤ 東野圭吾『流星の絆』(講談社)
⑥ 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
⑦ 姜尚中『悩む力』(集英社)
⑧ 福岡伸一『できそこないの男たち』(光文社)
⑨ 伊坂幸太郎『モダンタイムス』(講談社)
⑩ 神谷秀樹『強欲資本主義ウォール街の自爆』(文藝春秋)


<特集・蜷川実花『Ninagawa Woman』>
◎蜷川実花『Ninagawa Woman』(講談社)



今、日本で一番写真集が売れるというフォトグラファー蜷川実花(36)。2000年、『Pink Rose Suite』で“写真界の芥川賞”木村伊兵衛賞受賞。現在までに30冊を超す写真集を発表し、『Baby Blue Sky』、『永遠の花』、『蜷川妄想劇場』など数々のヒット作を発表。昨年は、映画「さくらん」で監督デビュー。若手の写真家が演出したにもかかわらず、国内外で高い評価を得た。蜷川作品の共通点は「極彩色」。“ニナガワカラー”と称される色の鮮やかさは、彼女の作品の最大の特徴。カラフルでグラフィカルな作品が目立つが、撮影の時はCG合成も特別な照明を作りこむことも、滅多にしないという。最新写真集『Ninagawa Woman』の撮影中のフォトスタジオにお邪魔して、北乃きいさん撮影の裏側を見学&蜷川さん独占インタビュー。極彩色の背景セットを作る様子、蜷川さんの写真を撮るときのコツやポリシーを伺い、また出産(去年12月11日に長男を出産)は作品づくりに影響を与えたか、などを話してもらいました。
▽最新写真集『Ninagawa Woman』(10月27日発売)
蜷川さんが14年間のキャリアを通して撮影してきた、現在最も活躍している女性100人のポートレイト集。(SHIHO、土屋アンナ、堀北真希、長澤まさみ、引田天功、沢尻エリカ、安室奈美恵、中谷美紀、北乃きい、吉田美和など)
▽蜷川実花展「地上の花、天上の色」東京オペラシティーアートギャラリー(11月1日から)
松田 ちょうど展覧会が今日から始まるんです、オペラシティで。すごく大きい会場なんですけども、その会場のスケールに負けないパワフルな展示なんですね。色が鮮やかですから、色彩のシャワーを浴びてるような感じで、別世界に入っていくようなワクワク気分があって……。人物もいいんですけども、風景とか花とか金魚とか、スケールの大きい写真ですね。


<今週の松田チョイス>
◎東野圭吾『聖女の救済』(文藝春秋)



松田 映画にドラマに大人気の東野圭吾さんの最新ミステリー『聖女の救済』です。
N 東野圭吾のミステリー小説『聖女の救済』。大人気ガリレオシリーズの最新刊。ガリレオこと湯川が迎えた新たな敵は「女」。男が自宅で毒殺された時、容疑者である妻には鉄壁のアリバイがあった。彼女が仕掛けた驚愕のトリックとは。「理論的には考えられるが、現実的にはありえない。……これは完全犯罪だ」。果たして湯川はトリックを証明することができるのか。>
松田 人気の<ガリレオ・シリーズ>が2冊読めるという、東野ファンには楽しみですね。この『聖女の救済』というのは、『容疑者Xの献身』に続いて湯川=ガリレオが活躍する話なんです。『容疑者Xの献身』は、トリックやどんでん返し、人間ドラマといろんな要素があったんですが、この新作ではトリックが想像を絶すると言えば想像を絶する、こういうことがありか、と思わされるぐらい驚かされるんですが、それにからんでいく語り口というか人物像も面白いんで、ついつい引き込まれて読んでしまいますね。それから、テレビドラマや映画のイメージがありますから、福山雅治さんとか柴咲コウさんの姿が立ち上がってきて、それはそれでまた違う楽しみもあるんです。
優香 ありますね。わたしも読みました。やっぱり、飽きさせないなあっていう感じがありました。あと、湯川準教授の人間味のあるところが、今回はたくさん見れるかな。なかなかトリックが解けない模様も、なんかいいなあ、そこが面白いなあって。
松田 おたおたしているところが可愛らしいんですよね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.10.25)

2008年10月26日

『生きる』と「真藤順丈『地図男』」


<総合ランキング> (三省堂書店全店調べ・10/13~10/19)
①水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
②伊坂幸太郎『モダンタイムス』(講談社)
③東野圭吾『流星の絆』(講談社)
④Jamais Jamais『O型自分の説明書』(文芸社)
⑤フィリップ・C.マグロー『史上最強の人生戦略マニュアル』(きこ書房)
⑥瀬尾幸子『もう一軒おつまみ横丁』(池田書店)
⑦竹中平蔵『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎)
⑧姜尚中『悩む力』(集英社)
⑨副島隆彦『恐慌前夜』(祥伝社)
⑩太田あや『東大合格生のノートはかならず美しい』(文藝春秋)


<特集・真藤順丈『地図男』>
◎真藤順丈『地図男』(メディアファクトリー)



仕事中の“俺”は、ある日、大判の関東地域地図帖を小脇に抱えた奇妙な漂浪者に遭遇する。地図帖にはびっしりと、男の紡ぎだした土地ごとの物語が書き込まれていた。千葉県北部を旅する天才幼児の物語。東京二十三区の区章をめぐる蠢動と闘い、奥多摩で悲しい運命に翻弄される少年少女など――地図男が生み出す物語に没入した“俺”は、次第にそこに秘められた謎の真相に迫っていく。今回は、この「地図男」でダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞した真藤さんにインタビューしました。
真藤順丈 /1977年、東京都生まれ。プロの小説家になる前は映画監督の助手をしていた。2008年、『地図男』で、第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞。続いて、『庵堂三兄弟の聖職』で第15回日本ホラー小説大賞を受賞、さらに、『RANK』で第3回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、3つの異なる作品で新人賞を連続受賞した。さらに「東京ヴァンパイア・ファイナンス」でも第15回電撃小説大賞銀賞を受賞。
谷原 松田さん、いかがですか。
松田 真藤さんの作品というのは文体がポップで軽快なんですね、リズム感があって。だから、結構バイオレンスなシーンがあったりグロテスクな描写もあるんですが、だけど、そういうものも爽やかに読ましてくれちゃうんですね。そこに、地図へのこだわりのようなマニアックなものをのせて物語を作っていくんで、これからどういう物語を語りだしてくれるのか、楽しみな新人ですね。


<今週の松田チョイス>
◎谷川俊太郎 with friends 『生きる わたしたちの思い』(角川SSC)



松田 詩人の谷川俊太郎さんがネットの仲間たちと一緒に作りました『生きる わたしたちの思い』です。
N 昨年、ネット上で、ちょっとした『生きる』ムーヴメントが起こりました。詩人谷川俊太郎さんの名作「生きる」(「生きているということ/いま生きているということ/それはのどがかわくということ/木漏れ日がまぶしいということ/ふっと或るメロディを思い出すということ/くしゃみすること/あなたと手をつなぐこと(以下略)」)、この詩のはじめの2行「生きているということ/いま生きているということ」、この後に続く言葉を一般の人々が考え、ネットのコミュニティーに次々に投稿したのでした。半年の間に投稿された詩はおよそ2000件。それらの膨大な投稿が再編集され、1冊の本になりました。あなたにとって「生きる」とは何ですか?>
松田 谷川さんは日本を代表する大詩人なんですが、誰にでもわかるやさしい言葉で、人間とか宇宙とかいった大きくて深いテーマを表現してきた人なんですね。この「生きる」という詩もそういう詩なんです。こういうシンプルな言葉で問いかけてくるので、そこに場所ができるんですね。その場所にみんなが集まってきて、それぞれの言葉で、自分の言葉で表現していく。それがズーッとつながっていって、連詩みたいなかたちで、これ全体が、いろんな人たちの言葉でできている詩集になっているんですね。ぼくが気に入っているのは「クレヨンの先が丸くなること」で、絵を描いていけば丸くなっていくじゃないですか、それと人間の成長みたいなものが、丸くなっていくことがよく出ていますね。それと、わりにドキッとしたのが「ふとした瞬間、わたしって死ぬんだなあって思うこと」で。サラッと言っている分だけ重いなあって思いましたね。そういう風に、普通の言葉でいろんなことを考えさせられる、すごく素敵な一冊でした。
谷原 慶太とか、「生きる、生きていること」という詩を考えると、どう思います。
慶太 ふだんはあまり意識しないんですけども、走って疲れたりなんかすると、「ああ、やっぱり生きてるなあ」っていうのがありますね。
谷原 若いなあ。元気だなあ。翔太は。
翔太 ぼくは、朝起きて、今日一日はじまるときとか、終わったときとか、その区切りに「生きてる」って思いますね。
谷原 日々、そのように思うの。
翔太 日々、思うわけではないんですが。
優香 大人ですねえ。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.10.18)

2008年10月18日

『おばさん未満』と「ハロルド作石『BECK』」


<コミックランキング> (三省堂書店全店調べ・10/6~10/13)
①富樫義博『HUNTER×HUNTER』26巻(集英社)
②久保帯人『BLEACH』35巻(集英社)
③吉田秋生『海街Diary』2巻(真昼の月)(小学館)
④高橋ヒロシ『WORST』21巻(秋田書店)
⑤樋野まつり『ヴァンパイア騎士』8巻(白泉社)
⑥今市子『百鬼夜行抄』17巻(朝日新聞社)
⑦藤崎竜『屍鬼』3巻(集英社)
⑧矢沢あい『NANA』20巻(集英社)
⑨原哲夫『蒼天の拳』19巻(新潮社)
⑩浅田弘幸『テガミバチ』5巻(集英社)
谷原 さて、松田さん。コミック・ランキング3位の『海街Diary』ですが、もう2巻が出たんですね。
松田 でましたね。それと、『海街Diary』に出てくる鎌倉のスポットを紹介するガイドブックも出たんですね。
谷原 もう出たんですか。2巻目で、早いですね。
松田 読んでいると、鎌倉に行ってみたくなるんで、たぶんそういうニーズが盛り上がってきたんでしょう。
谷原 たしかに、「極楽寺に住んでいる」といっても、極楽寺ってどこなんだって思いますよね。実は、もう2巻読んだんですけども、田舎から出てきて異母兄弟と暮らすすずちゃんが、どうなるのか楽しみにしていたんですが、とっても面白かったです。


<特集・ハロルド作石『BECK』>
◎ハロルド作石『BECK』1~34巻(講談社)



誰にでもいつか“目覚め”の刻が来る……。それは、いつまでも変わらないはずだった──。あいつに出会うまでは……。穏やかで退屈な中学生活、平凡な毎日に不安を持っていた、主人公の田中幸雄は謎の人物・南竜介との出会いによって音楽の世界に入り込むことになる。『BECK』は、1999年から2008年まで「月刊少年マガジン」(講談社)に連載された。2002年に第26回講談社漫画賞少年部門を受賞している。『ゴリラーマン』、『ストッパー毒島』で知られる作者が手がける音楽漫画。作者にとって初の少年向け漫画でもある。KCDXサイズで2008年6月現在で33巻まで発売され、累計発行部数は1200万部を突破している。2008年6月に連載が終了し、8月17日に最終巻34巻が発売された。連載を終えたハロルド作石さんにインタビューして、連載を終えた、今の気持ちや連載中のエピソードなどを伺ってきました。
松田 ハロルド作石さんて、『ストッパー毒島』もそうだったんですが、ライブ感がすごいんですね。スポーツの場面もそうだったんですが、ライブ会場の迫真力のある臨場感みたいなものが迫ってくるんです。(VTRを見ていて)こういう風に描いているんだって、なるほどと思いましたね。


<今週の松田チョイス>
◎酒井順子『おばさん未満』(集英社)



松田 歯切れのいいエッセイでおなじみ、酒井順子さんの『おばさん未満』です。
N 『負け犬の遠吠え』で一大ムーブメントを巻き起こした酒井順子さん。最新エッセイ『おばさん未満』で、自らも仲間入りを果たした40代女子の生態を鋭く分析。目出度くも“成長”と思っていたことが、“老化”だったというショッキングな気付きからはじまる内容は、笑うに笑えない老化の実態が満載。でも、読むほどに、歳を重ねるということがだんだん愛しくなっていく不思議な感覚を、ぜひ味わってください。アラサー及びアラフォー女子必読の1冊です。>
はしの 勇気を出して、私が読みました、『おばさん未満』。まあ、「わかるー」というところもあれば、まだちょっと経験してないなっていう部分もあったんですけど、一番私が「わかるー」って思ったのは、酒井さんが30代半ばの時に、お寿司屋さんに行って、好きなだけ食べたら胃もたれを起こしたと。でも、よく考えてみたら、私も、お寿司屋さんに行って、ちょっと贅沢ですけど、「大トロはいいや」と思ったり、焼き肉屋さんに行ってカルビを頼まなくなってるんですよ。
谷原 前は食べてた?
はしの 前はガンガン食べてたんですけど。どうですか。
谷原 ぼくはですね、正直、トロもウニもカルビもまったく受け付けません。光り物の脂すらだめ。いま、白身ばっかり。
優香 タン塩は?
谷原 タン塩はぎりぎりいいんだけど。
はしの 塩が救ってくれてますよね。
谷原 あと、それにネギがついてないときついんです。
松田 食べ物の話もあるんですけども。これ読んでて、オジサン目線で読むと面白かったんです。女性って、今、食のことがありましたが、ファッションやメイクもあるし、人間関係とか言葉遣いとか、細かく年齢によって、また、結婚しているのか、子供がいるか、働いているかとか、いろんなステージがわかれるんですね。で、その辺で、みなさん細かく気を遣っているんだなということがよくわかるし、まあ「女性は大変だな」と思うと同時に、こういう風に気を遣っているから、みなさん輝いていられるんでしょうね。
谷原 若々しく、美しく。
松田 男の方は、ダメだったらあきらめて「オジサンになっちまえ」みたいな……。
谷原 そうですね、そういうところありますね。女性を理解するために、男性諸君、買ってみてはいかがでしょうか。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.10.11)

2008年10月12日

『ボックス!』と「「MEN'S NON-NO」専属新人モデル密着」


<総合ランキング> (有隣堂書店全店調べ・9/28~10/4)
① Jamais Jamais『O型自分の説明書』(文芸社)
② よしたに『理系の人々』(中経出版)
③ 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
④ Jamais Jamais『A型自分の説明書』(文芸社)
⑤ 瀬尾幸子『もう一軒おつまみ横丁』(池田書店)
⑥ 姜尚中『悩む力』(集英社)
⑦ Jamais Jamais『B型自分の説明書』(文芸社)
⑧ 岩崎啓子『早わかり!カロリーナビ』(永岡書店)
⑨ 松本ぷりっつ『うちの3姉妹 8』(主婦の友社)
⑩ 副島隆彦『恐慌前夜』(祥伝社)
                                           
<特集・「MEN'S NON-NO」専属新人モデル密着>
1986年に女性ファッション誌「non-no」の男性版として創刊された男性ファッション誌「MEN'S NON-NO」。阿部寛、田辺誠一、大沢たかお、伊勢谷友介などを輩出し、我らが谷原さんも「MEN'S NON-NO」の出身。そんな「MEN'S NON-NO」の2008年専属モデル2人がオーディションによって決定! 10月10日発売の11月号でデビュー。今回、その新人モデル2人の11月号の掲載予定の写真撮影に密着してきました。前日の衣装合わせから、撮影当日の様子、初めてのヘアメイクにポージングなど何もかもが初めてで緊張気味の2人に密着。もちろんテレビの取材も初めてです。写真撮影を見学させて頂きつつ、インタビューもしてきました。


<今週の松田チョイス>
◎百田尚樹『ボックス!』(太田出版)



松田 素晴らしい感動を与えてくれる、まっすぐな青春スポーツ小説、百田尚樹さんの『ボックス!』です。
N アマチュア・ボクシングの世界を描いた感動の青春小説『ボックス!』。高校ボクシング部で天才と言われる鏑矢と元いじめられっ子の木樽。対照的な二人の友情に結ばれた青春を描く。立ちはだかるライバルたちとの激闘と挫折、そして栄光。さまざまな経験を経て二人が掴み取ったものとは。>
優香 はい。わたし、この『ボックス!』読ませていただきまして、ものすごく面白かったです。もう一気に、本当に一気に読んでしまいました。その日の夜、眠れなくなりました、興奮して。
谷原 一晩で読んだの。
優香 一晩で読みました、一気に。主人公の二人は対照的なんですが、その成長ぶりも、どんどん強くなっていく感じも、とっても面白いです。その周りにいる人たちも、みんな応援したくなる。みんな好きになるという登場人物ばっかりで。男の友情、素晴らしいですよね。
松田 はい。600ページ近くあるんだけど、本当に無駄なところがないんですよ。贅肉を削ぎ落とした、最強のアスリートみたいな小説で、グイグイひきこまれるんですけども。特にこれが面白いのは、ボクシングのことがすごくよくわかるんです。ルールとか練習方法とか、いろんなテクニックとか、だから、だんだん読んでいくと、自分がボクシングをやっているような、リングにのっているような気持ちになっていって。
優香 そう。
松田 この世界の中に入れちゃう。
優香 入っていっちゃいますね。ジャブのやり方とかもちゃんと細かく書いてあるんで、思わずやってしまいました、自分で、読みながら。
松田 本当に、一人一人の熱い思いが重なっていって、恋愛感情もあって、満足できるし、爽快な感動スポーツ小説ですので、是非お読みいただきたいですね。
優香 はい、面白かったです。
谷原 スポーツの秋にふさわしい1冊ということで、皆さんも是非ジャブして下さい。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.10.4)

2008年10月04日

『きのうの世界』と「箭内道彦『サラリーマン合気道』」


<総合ランキング> (三省堂書店全店調べ・9/22~9/28)
① Jamais Jamais『O型自分の説明書』(文芸社)
② 監修:岡田斗司夫『カロリー・書くだけhappyダイエット』(学習研究社)
③ 瀬尾幸子『もう一軒おつまみ横丁』(池田書店)
④ 姜尚中『悩む力』(集英社)
⑤ 茂木健一郎『脳を活かす仕事術』(PHP研究所)
⑥ Jamais Jamais『A型自分の説明書』(文芸社)
⑦ 副島隆彦『恐慌前夜』(祥伝社)
⑧ Jamais Jamais『B型自分の説明書』(文芸社)
⑨ 監修:板木利隆『からだにおいしい野菜の便利帳』(高橋書店)
⑩ 金本知憲『覚悟のすすめ』(角川書店)


<特集・箭内道彦『サラリーマン合気道』>
◎箭内道彦『サラリーマン合気道』(幻冬舎)



アイディアは書き留めない、積極的に緊張する、相手の力を利用すれば実力以上の仕事ができる。気鋭のクリエイティブディレクターが挫折と失敗から編み出した45の仕事術。自分には個性やこだわりがないという人にこそ役立つ、具体的なアドバイス。
箭内道彦 1964年生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒。博報堂を経て、2003年、「風とロック」設立。CFプランニング、グラフィックデザイン、プロモーション等の広告キャンペーンから、ミュージシャンのアートワーク、ショートフィルム、商品企画、空間演出、イベントまでジャンルを超えて幅広く話題のクリエイションを手掛ける。05年、フリーペーパー「月刊風とロック」創刊、08年4月からNHK「トップランナー」のMCを務める。


<今週の松田チョイス>
◎恩田陸『きのうの世界』(講談社)



松田 1作ごとに新しい世界を繰り広げて、僕たちを楽しませてくれている恩田陸さんの最新長編小説『きのうの世界』です。
N 恩田陸の最新長編小説『きのうの世界』。舞台は、塔と水路がある「M町」。その「水無月橋」で見つかった死体。一年前に失踪したはずの男は、なぜここで死亡したのか? そして、その町に隠された大きな「謎」とは? 「世の中には、掘り返さないほうがいい場所、手を触れないほうがいい場所というのがあるのかもしれない」。「これは私の集大成」と作者が語るエンタテインメント大作。>
谷原 実は、ぼくも読ませていただいて、まだ途中なんですが、ぼくは、どちらかというと恩田さんの短編集を読むことが多かったんですけども、今回のは一つのお話になっているんですね。さすがだなあ、と思うのは、恩田さんの独特な世界観というんですか、一見、普通なんですけども、何か現実の世界とは、同じようなコピーが、ずれたものが入れ替わっているといいますかね。それが、読み進んでいくうちに、不思議な世界に巻き込まれていく感じがして……。
松田 そうですね。本当に、キラキラと色鮮やかな覗きからくりを見ているような感じで、リアルなんだけど、ちょっとずれている、不思議な感じがあって。で、だんだん読んでいくと、この「M町」という町には大きな「謎」が隠されているらしい、それから、もう一つ殺人の「謎」があって、その「謎」と「謎」が絡まり合っていくんですね。それを、どんどんどんどん解きほぐしていくと、壮大なクライマックスが待っているんです。なんだか、ものすごくスケールの大きなジグソーパズルをやっているような感じで、最後、ピタッとはまった時に何が起こるか、というのが楽しみなんですね。
谷原 ぼくは、まだ途中なんで、それが楽しみですね。本当に文章力のある方ですよね。
松田 そうですね。一人一人の登場人物、一つ一つの風景がものすごく鮮やかに描かれているんで、小さい部分だけでも、ショートストーリーとして独立して楽しめるという感じですね。
谷原 形式としてはオムニバスとして進めていますよね、バラバラに。
松田 そうですね。
谷原 気になった方は、是非、チェックしてみてください。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.9.27)

2008年09月27日

『センネン画報』と「池上永一『テンペスト』」


<小説ランキング> (リブロ池袋本店調べ・9/15~9/21)
① 池上永一『テンペスト(上・下)』(角川書店)
② 和田竜『のぼうの城』(小学館)
③ 湊かなえ『告白』(双葉社)
④ 宮部みゆき『おそろし』(角川書店)
⑤ 角田光代『三月の招待状』(集英社)
⑥ 恩田陸『きのうの世界』(講談社)
⑦ 東野圭吾『流星の絆』(講談社)
⑧ 柳広司『ジョーカー・ゲーム』(角川書店)
⑨ 池澤夏樹『セーヌの川辺』(集英社)
⑩ 宮城谷昌光『三国志』第7巻(文藝春秋)


<特集・池上永一『テンペスト』>
◎池上永一『テンペスト(上・下)』(角川書店)



「作家の圧倒的博識と筆力にただただ唖然、翻弄された。読み終わっても、映像が次々に浮かんでくる!」(堤幸彦さん)、「こんなに恋を応援したいと思ったのははじめてだ。私も登場人物と共に生きているかのようにワクワクした。」(三浦しをんさん)などなど、いま、本好きの間で話題を独占している小説。それが、19世紀末の琉球王朝を舞台に、男装の美少女が歴史を変えてゆく、王朝ファンタジー『テンペスト』。著者は、前作の『シャングリ・ラ』で幅広い層からの支持を集めた池上永一さん。「見せ場は150回!」と語る本作について、舞台となった沖縄・首里城でインタビューしました。 ひときわ輝く主人公をはじめとする魅力的な登場人物たち、さらに疾風怒濤の展開で読者を魅了するストーリーの秘密に迫りました。
谷原 (白石)みきちゃんも「漫画のように読める」と言ってましたけども。松田さん……。
松田 とにかく、面白いことはうけおいですけども、感じとしては、「ベルサイユのばら」や「チャングムの誓い」みたいな、ものすごく語り口のテンポがいいですし、主人公はとても魅力的ですし、次々と思いがけない事が起こってきて、本当にサービス満点のエンタテインメントという感じですね。


<今週の松田チョイス>
◎今日マチ子『センネン画報』(太田出版)



松田 日常の中のちょっとした瞬間を鮮やかに切り取る1ページ漫画、今日マチ子さんの『センネン画報』です。
N 「たとえば輪ゴム、のびたぶんだけぶつかって、ときどき行方不明」柔らかな線と淡い色彩で、日々の微妙な気持ちの移ろいをリアルに描き出す「叙情マンガ家」今日マチ子さん。ブログで、ほぼ毎日、1ページずつ発表していた「センネン画報」が単行本化されました。文化庁のメディア芸術祭審査委員会推薦作品も2年連続受賞した話題作。>
優香 私も見まして、本当にブルーの色がきれいなのと、風とか動きを常に感じるなという印象でした。私が好きなのは、「三脚」これですね。
松田 可愛いですよね。
優香 可愛いんですよ、すごく。(カメラが)彼女の頭に三脚のように載って。それと、「巻き直し」という、このマフラー。彼と、最初は違う巻き方してたんですけども、隣を見たら、急いで巻き直しちゃうみたいな、可愛い心がわかるわかるみたいな感じですね。
松田 そうですね。女子高校生の日常の中の瞬間、「気配」とか「気分」とかを見事に描き切っているんですね。絵だけで、セリフもないし、文字もほとんどない。それで1ページでおさまっているんで、何となく絵で見る俳句みたいな気もするし、ある意味では、非常にいいスナップショットを集めた写真集みたいな感じで、本当に独特のテイストのある作品ですね。
優香 わかります。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.9.20)

2008年09月21日

『海獣の子供』と「間瀬元朗『イキガミ』」


<コミックランキング> (三省堂書店全店調べ・9/8~9/14)
① 矢沢あい『NANA―ナナ―』20巻(集英社)
② 尾田栄一郎『One piece ワンピース』51巻(集英社)
③ 葉鳥ビスコ『桜蘭高校ホスト部』13巻(白泉社)
④ 北条司『エンジェル・ハート』27巻(新潮社)
⑤ 星野桂『D.Gray―man』16巻(集英社)
                                             
<特集・間瀬元朗『イキガミ』>
◎間瀬元朗『イキガミ』1~5巻(小学館)



この国には、国家繁栄維持法という名の法律がある。そこでは、多くの人間を生かし、国を繁栄させるため、選ばれた若者をあの世へ逝かす紙「逝紙(イキガミ)」が配られている――。突然届けられる死亡予告証「逝紙(イキガミ)」。それを受け取った者に残された時間はわずか24時間。前代未聞の“生きるドラマ”が、いま始まる! 松田翔太さん主演で映画化され、9月27日に公開される、今、一番泣ける物語です。今回、映画化を記念して著者の間瀬元朗さんにインタビューします。「イキガミ」というシステムをどこから発想したのか、物語の今後の展開や映画化されることなどについてお伺いしました。
松田 「イキガミ」が来るという恐怖ですね。それと、「イキガミ」という制度を作る権力に対する恐怖、二重の恐怖がギリギリと迫ってくるんで、本当に、誰でも読むと、「自分に『イキガミ』が来たらどうするんだろう」って、考えさせられますよね。


<今週の松田チョイス>
◎五十嵐大介『海獣の子供』1~3巻(小学館)



松田 壮大なスケールの海洋冒険ファンタジー・コミック、五十嵐大介さんの『海獣の子供』です。
N 自然の描写に定評のある五十嵐大介が描くファンタジー『海獣の子供』。ある夏休み――少女・琉花が出会ったのは、ジュゴンに育てられたという少年「海」。大きな流れ星、光となって消える魚……彼に出会ってから次々と起こる不思議な出来事。一方、世界各地でも海洋にまつわる異変が相次いで起こる……。港町と水族館を舞台に繰り広げられる、五感をふるわす少年少女海洋冒険コミック。>
小林 はい、こちらをご覧下さい。今回はですね、『海獣の子供』の原画の複製をお借りしてきました。
優香 すごーい。細かいですよね。美しい。
翔太 引き込まれますね。
松田 とにかく絵が素晴らしいんですね。自然の絵が素晴らしくて、海原の広がりとか海流のうねりとか、水しぶきとかの繊細なきらめきとか、本当に絵だけでも見とれてしまうような。本当に、大自然が主役だなっていう気がするコミックですね。
谷原 そうですね。人間って、一番高い山は登れていても、一番深い海って潜れていないんですよね。地球の三分の二は海で、まだまだ未開の地が海の中にはある。ぼくも波乗りが好きで海によく行ったりするんですけども、海の中には何が潜んでいるのかわからないという恐怖があったりして。
松田 そういう大自然を背景にして、登場人物たちが個性的で、静かなんだけど大自然と絡み合いながら、謎に迫っていくんですね。本当にスケールの大きいファンタジーで、これからどうなっていくんだろうって、ワクワクしますよね。
谷原 ファンタジーなんだけどリアリティがあるのは、海のもつ不思議さみたいなものが一役買っているのかなと思います。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.9.13)

2008年09月14日

『告白』と「「料理本」特集第2弾!」


<総合ランキング> (有隣堂書店全店調べ・8/31~9/6)
① Jamais Jamais『O型自分の説明書』(文芸社)
② 『ARASHI IS ALIVE!嵐5大ドームツアー写真集』(集英社)
③ 宮崎駿『崖の上のポニョ』(徳間書店)
④ 西尾維新『偽物語(上)』(講談社)
⑤ Jamais Jamais『A型自分の説明書』(文芸社)
⑥ 姜尚中『悩む力』(集英社)
⑦ Jamais Jamais『B型自分の説明書』(文芸社)
⑧ 編集工房桃庵『おつまみ横丁』(池田書店)
⑨ 森博嗣『目薬αで殺菌します』(講談社)
⑩ 細野真宏『細野真宏の数学嫌いでも「数学的思考力」が飛躍的に身につく本』(小学館)
                                        
<「料理本」特集第2弾!>
現在35万部突破の『おつまみ横丁』に始まり、いま本の世界で熱いのが「料理本」。ブランチでも7月に特集し大反響でした。その後、さらに新たな人気本が続々登場しているんです。今回は、今最も売れている本から、これから発売予定の注目作まで、特徴ある3冊をご紹介します!


◎編集工房桃庵『もう一軒 おつまみ横丁』(池田書店) 9月18日発売予定
この本をきっかけで厨房に入るようになったお父さん多数。そんな料理経験の少ない男性陣を中心に人気の本の第2弾は、大阪・東京の人気居酒屋を精力的に取材。300以上のレシピの中から美味しいものを厳選! 怒涛の185品が紹介されています。


◎板木利隆『からだにおいしい野菜の便利帳』(高橋書店)



料理本の中でも今ブームなのが「野菜本」! その中で最も売れているのが、現在19万部突破の『野菜の便利帳』。そこには、たっぷりの野菜を上手に食べるコツが満載されています。野菜の栄養価・旬・おいしい食べ方・正しい選び方・安全性など。一見すると、野菜の辞典のようです。


◎SHIORI『作ってあげたい 彼ごはん3』(宝島社)



テレビ・雑誌で活躍するフードコーディネーターSHIORIさん。アメブロ・料理ジャンルでダントツの人気を誇るブログとして注目を集め、シリーズ1、2だけで33万部を突破している人気シリーズ! SHIORIさんから「小さなキッチン、少ない道具で、パパッと作れてカレも喜ぶこと間違いなしの一品」を教えていただきました。


<今週の松田チョイス>
◎湊かなえ『告白』(双葉社)



松田 新人のデビュー作とは思えない、うまくて怖いサイコ・ミステリー、湊かなえさんの『告白』です。
 「愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。」……我が子を学校で亡くした女性教師の告白。教師がHRで明らかにした犯人とは。その真相は、「クラスメート」「犯人」「犯人の家族」らがモノローグ形式で語るうちに明らかになっていくのだが。高い評価を得て、小説推理新人賞に選ばれた話題作。>
谷原 優香ちゃん、はまったそうですが。
優香 はまりました。すごく面白かったです。語り口も面白いですし、会話があるわけじゃないですけども、会話しているような。全部、一人がしゃべるというか、圧倒的な文章力ですね。
松田 基本的にモノローグ、いろんな人の告白で綴られている。だから、その人が耳元でささやいてくれているような、真実を語りかけてくるような感じなんですけども。モノローグって、人間って、自分の都合のいいように歪めているじゃないですか。いろんな人の証言を重ね合わせていくと、みんなの歪みがどんどん見えてくるんですよ。
優香 そうなんですよ。本当に。
松田 だから、怖いんですよ。
優香 一つのものを、いろんな方向から見るので。普通、一人の気持ちしか解らないじゃないですか。こっち側からもわかるので、すごいですよね。
松田 そうですね。
谷原 ぼくは、ちょうど読み始めたところで、ちょうど第一章が終わったところなんですが。最初は女教師の独白から始まって、その教師であろうとする姿と、母親という姿と、女という姿が見えて、これはどうなるんだろうと、すごい楽しみで。でも、ミステリーだから、どんでん返しとかなんかあるんですか。
松田 ええ、途中までは、一つの事件をいろんな方から光を当てて深めていくんですね。ところが、最後にとんでもない大胆なラストが待っていましてね。怖いと言えば怖いです。
優香 怖いですね。はまります。
谷原 早く読みたいです。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.9.6)

2008年09月06日

『さよなら渓谷』と「特集・姜尚中『悩む力』」


<夏の文庫フェア・ランキング>
夏の文庫フェアを行っている集英社・新潮社・角川書店の文庫売上げTOP5を紹介!
*新潮社*
①梨木香歩『西の魔女が死んだ』
②小林多喜二『蟹工船』
③重松清『きみの友だち』
④夏目漱石『こころ』
⑤太宰治『人間失格』
*角川書店*
①恩田陸『ユージニア』
②東野圭吾『さまよう刃』
③重松清『みぞれ』
④太宰治『人間失格』
⑤有川浩『空の中』
*集英社*
①村山由佳『夢のあとさき』
②下川香苗『花より男子ファイナル』
③石田衣良『愛がいない部屋』
④太宰治『人間失格』
⑤東野圭吾『黒笑小説』


谷原 松田さん、いま『人間失格』が売れている理由というのは?
松田 今年、三社ともカバーをリニューアルして、松山ケンイチさんとか、『Death Note』の小畑健さんとか、それが話題になって売れ始めているんです。それにしても、60年経った作品がこんなに売れるというのは、太宰の時代よりも、他人との関係がうまくいかないと思っている若い人たちがふえているんだろうという気がするんですね。太宰は、今年が没後60年で、来年が生誕100年で、いろんな意味で注目されているんですけども、『人間失格』以外にもおもしろい作品がたくさんあるんで、是非、もっともっと読んでほしいなと思いますね。


<特集・姜尚中『悩む力』>
◎姜尚中『悩む力』(集英社)



情報ネットワークや市場経済圏の拡大にともなう猛烈な変化に対して、多くの人々がストレスを感じている。格差は広がり、自殺者も増加の一途を辿る中、自己肯定もできず、楽観的にもなれず、スピリチュアルな世界にも逃げ込めない人たちは、どう生きれば良いのだろうか? 本書では、こうした苦しみを百年前に直視した夏目漱石とマックス・ウェーバーをヒントに、最後まで「悩み」を手放すことなく真の強さを掴み取る生き方を提唱する。現代を代表する政治学者の学識と経験が生んだ珠玉の一冊。今回、姜尚中さんの仕事場・東大の研究室でインタビューします。


<今週の松田チョイス>
◎吉田修一『さよなら渓谷』(新潮社)



松田 昨年、『悪人』で大きな文学賞を連続受賞した吉田修一さんのクライム・ストーリー『さよなら渓谷』です。
N 吉田修一が描く、犯罪者と被害者のドラマ『さよなら渓谷』。きっかけは隣の家で起こった幼児殺人事件だった。その偶然が、どこにでもいそうな若夫婦が抱えるとてつもない秘密を暴き出す。 15年もの長い歳月を経て、事件の“被害者”と“加害者”が夫婦を演じざるをえなくなった残酷すぎる理由とは――。「どこまでも不幸になるために、私たちは一緒にいなくちゃいけない……」。人の心に潜む「業」に迫った長編小説。>
松田 『悪人』もそうだったんですが、冒頭から、小説を読んでいるというよりも、現実の事件現場を目撃しているような、異様な緊迫感に包まれているお話なんですね。そして、そういうなかから、最初にスポットが当たっていた事件ではなくて、その隣の家の男と女にどうも謎があるということがだんだんわかってきて、ぐいぐいひきこまれるんですけども。その男女の驚くべき過去と現在がどんどんわかってくる。それで、ある犯罪にからんでいるんですけども、犯罪というものが、法律とか心情的な善悪判断だけでは割り切れないものが残るし、犯罪に関わった人たちは、被害者も加害者も、重い傷を抱えて生きていかなければいけないということも切々と伝わってくるんですよね。
優香 わたしも読みました。本当にすぐ読めるぐらいな薄さなんですけども、読み終わった後に、その何倍もの厚さがあったんじゃないかというぐらいの重さを感じて、ズシーッと重いものが心に乗っかりましてけども。あの、ラストまで行った時に、私が感じたものと松田さんが感じたものがずいぶん違うという……。
松田 本当に重くて暗い話なんですけども、ラストには、闇の底からひとすじの光が見えてきたっていう感じがしました。だから、犯罪小説というよりも、究極のラブストーリーだという気がしたんですね。
優香 そうですね、うんうん。男女で見方が違うと思いますよ。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.8.30)

2008年09月01日

『夏から夏へ』と「追悼・赤塚不二夫特集」


<今週の松田チョイス>
◎佐藤多佳子『夏から夏へ』(集英社)



谷原 まず今日は、松田さんもイチオシという、一冊の話題の本から紹介します。北京オリンピックで悲願のメダルを獲得したあの選手たちの珠玉のノンフィクションです!
N 北京オリンピック陸上男子、4×100リレー決勝。オリンピックにおいて、トラック競技で男子のメダルは未だかつてない。ついに悲願のメダル獲得。この日本代表リレー・チームを追いかけている作家がいた。小説『一瞬の風になれ』で本屋大賞を受賞した佐藤多佳子さん。自身初のノンフィクション『夏から夏へ』。個人ではメダルに届かなかった4人のランナーが力をあわせてリレーで世界に挑む。去年夏の大阪世界陸上から、今年夏の北京へ。研究と努力を重ね、4人が心を一つにしていく舞台裏が克明に描かれる。>
松田 これは、北京オリンピックの感動シーンが鮮やかに残っている間に、是非読んでほしい作品です。本当に歴史的な偉業を成し遂げた塚原、末續、高平、朝原という4人のアスリートの姿が活き活きと立ち上がってくるんです。あの日の感動が何倍にもふくらんで感じられる、そういう作品なんですね。
谷原 結果は知っているじゃないですか、ぼくたち、銅メダルという。その裏側にはすごいストーリーが隠されていると思うんですよね。
松田 4人は当然ですけども、周辺のコーチとか控えの選手とかに、ていねいな取材をしているんですね。だから、4人の個性が一人一人わかりますし、それに4人の信頼関係がなければできないレースですし、それから、バトンミスがこわい競技ですから、バトンパスの練習をものすごくやるんですね。実は、日本の選手は一人一人はそれほど速くないのに、なんであれだけ速く走れるかというと、その辺に秘密がある。
谷原 技術が。
松田 技術があるんですね。だから、佐藤さんが4人と一緒に北京オリンピックに向かって走ったという感じの、すごく爽快感のある素晴らしい作品なんですよね。
谷原 そう、いまのうちに読まないとね。
優香 『一瞬の風になれ』の時も、佐藤さん、本当に空気感が伝わってくるんです。風が吹いている感じが。だから、今回楽しみですね。
松田 そうですね、4人のメンバーも、佐藤さんの『一瞬の風になれ』を読んでいるんで、だから、佐藤さんならということで、ほかの人には語らないことを語ってくれたりするんですね。本当に、今読むべき本だと思いますね。


<追悼・赤塚不二夫特集>
◎赤塚不二夫『天才バカボン』(竹書房文庫)ほか
◎赤塚不二夫『おそ松くん』(竹書房文庫)ほか

ギャグ漫画の巨匠・赤塚不二夫さんが今月2日、亡くなりました。『天才バカボン』、『おそ松くん』、『ひみつのアッコちゃん』などのギャグ漫画の大傑作を生み出した漫画家・赤塚不二夫とは一体どんな人物だったのでしょうか。手塚治虫に影響を受けた新人時代、藤子不二雄、石ノ森章太郎などと切磋琢磨したトキワ荘時代、そして大ヒット作を連発させ、漫画界に止まらず、その多才振りを発揮した晩年まで、赤塚さんの作品や交友関係を通して、その漫画家人生を振り返ります。トキワ荘時代を知っている鈴木伸一さんが、赤塚さんの人と作品について語ってくれました。
谷原 ぼくなんか、TVアニメで見ている世代なんですが、その前に原作で読んでいる世代なんですね、松田さんなんかは。
松田 そうですね。毎週、週刊誌二誌に強烈な連載が載っているという時代で、毎週毎週驚かされるんですよね。さっきも(VTRで)少女漫画のようなのがあったけど、全編セリフが漢字だけの回があったり、一つもセリフのない回があったり、ものすごく前衛的なんですよ。それまでの漫画をぶちこわしていく、アナーキーなんですけども、陽気で楽しいんですよ。それがたまらなく面白くて。たぶん、タモリさんなんかは赤塚さんがいなければ誕生していなかったですし、お笑いにしても、映画にしても、アートにしても、いろんなものにものすごく大きい影響を与えている人なんですね。
谷原 いろんな素晴らしい作品を生み、そして、いろんな人も発掘した……。
松田 本当に偉大な人だと思いますね。
谷原 これでいいのだ!

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.8.23)

2008年08月23日

『おそろし』と「特集・山本文緒『アカペラ』」


<総合ランキング> (有隣堂書店全店調べ・8/10~8/16)
① Jamais Jamais『A型自分の説明書』(文芸社)
② Jamais Jamais『B型自分の説明書』(文芸社)
③ J.K.ローリング『ハリーポッターと死の秘宝』(静山社)
④ Jamais Jamais『AB型自分の説明書』(文芸社)
⑤ 上地雄輔『上地雄輔物語』(ワニブックス)
⑥ 有川浩『別冊図書館戦争Ⅱ』(アスキー・メディアワークス)
⑦ 姜尚中『悩む力』(集英社)
⑧ つるの剛士『つるっつるの脳みそ』(ランダムハウス講談社)
⑨ 編集工房桃庵『おつまみ横丁』(池田書店)
⑩ 宮部みゆき『おそろし』(角川書店)


<特集・山本文緒『アカペラ』>
◎山本文緒『アカペラ』(新潮社)



『プラナリア』で直木賞を受賞、再婚し、すべてを手に入れたかに思えた時、重度の抑鬱状態に陥った山本文緒さん。望んだ再婚生活なのに、心と身体がついてゆけず、家族、友人、仕事のはざまで苦しみ抜いた日々。そこから再生を果たし、6年ぶりに新作が発売されました。病弱な弟と暮す50歳独身の姉。20年ぶりに実家に帰省したダメ男。じっちゃんと二人で生きる健気な中学生。人生がキラキラしないように、明日に期待し過ぎないように、静かにそーっと生きている彼らの人生を描き、温かな気持ちと深い共感を呼び起こす感動の物語。新作『アカペラ』の思い出の地である三浦半島でインタビュー。病気になる前後で、小説に対する思い、書き方などがどう変わったのかなどについて伺いました。


谷原 松田さん。6年ぶりの新作ということで、『アカペラ』どんな印象でした。
松田 そうですね。山本さんというのは、もともと小説の名手なんですけども、今度の作品を読んでいて、登場人物の人間描写とか物語とか、ひときわ彫りが深くなったような気がするんですね。やっぱり、ああいう経験が生きてきていると思います。癖のある、だけど愛すべき人物たちの演じるドラマから目が離せないですし、読み終わった後に、ホッコリと温かいものが残るという素敵な作品集なんです。これからもいい作品を読ませていただきたいなと思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎宮部みゆき『おそろし』(角川書店)



松田 時代小説、ホラー、ファンタジー、宮部みゆきワールド全開の最新作『おそろし』です。
N 宮部みゆきさん待望の最新時代小説『おそろし』。ある事件を境に、他人に心を閉ざした17歳のおちかは、神田三島町に叔父夫婦に預けられた。そこへ訪ねてくる人びとが語る不思議な怪談の数々によって、おちかの心のわだかまりが少しずつ溶けていく。生きながら心を閉ざす者、心を残し命を落とした者。そして、心の闇に巣くう人外のもの。それは、長い長い「百物語」の始まりだった。>
松田 まず、主人公の「おちか」のたたずまいが素敵なんですね。彼女は、自分の身近に起こった悲惨な事件をきっかけにして心を閉ざしてしまって、それを、叔父さんが、何か心を開くきっかけになるんじゃないかっていうんで、人びとの怪談話を聞くように、怪談セラピーみたいなことを始めるんですね。人びとの血生臭い話を聞いていくうちに、犯罪だったら犯罪に関わる被害者も加害者も、みんな心に闇を抱えているんだということに気がつくんです。それで、「おちか」は自分の「弱さ」を「強さ」にかえて、心の隙間に忍び込んでくる邪悪なものに対して、毅然と戦いを挑んでいくんですね。その姿は素敵ですし、美しいし、「おちか」がかっこよく見えてくるんですよね。
谷原 ぼくも読ませていただいたんですけども、その「百物語」をしてくる人たちのなかに、「おたかさん」という人がいるんですね。その「おたかさん」は家族である家に住んだら百両あげるよ、という言葉にのせられて行くんですよ。で、「おたかさん」が身の上話をしていって、「でも、その家に住んで、何にもなかったのよ、百両貰って。とってもよかったの。あら、おちかさん、あなたもそこの家に似合うわよ、一緒に行かない」って誘うんですね。ところが、おたかが語っていたことは全部嘘で、本当は、おたかじゃなくて、一緒に住んでいる清太郎というのが来るはずだったんです。何か用事があって来れない隙に、おたかが抜け出して、勝手に語りに来ていたんですよ。で、清太郎はおたかを連れ去り、実は、どんなことがあったかというと、そこに住んで、1年経って、全員亡くなってしまっていて、最後生き残っていたのはおたか一人で、彼女はもう天涯孤独の身で、生ける屍になってしまった、というんです。そこを読んだときに、ぼくはゾクッとして……。おちかさんのたたずまいが素敵だって、松田さんがおっしゃったんですが、これは静かな心の冒険活劇だなと思いましたね。本当に面白いです。是非読んでいただきたいです。宮部みゆきさんファンに関わらず、ぜひ、ぜひ読んで下さい。

『風花』と「特集・2008年上半期BOOKムーブメント総まとめ」

2008年08月17日

<特集・2008年上半期BOOKムーブメント総まとめ>


*文学界に続々シンデレラ誕生!
★川上未映子『乳と卵』(文藝春秋)



・第138回芥川賞作家。(インタビューVTRあり)


★小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)



・ブランチ絶賛本。(インタビューVTRあり)


★和田竜『のぼうの城』(小学館)



・ブランチ絶賛本。(インタビューVTRあり)


*ビジネス本の二大ヒットメーカー!
★勝間和代『効率が10倍アップする新・知的生産術』(ダイヤモンド社)
  『お金は銀行に預けるな』(光文社)ほか
・(インタビューVTRあり)
★水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
・上半期ベストセラー第1位 。(インタビューVTRあり)


*超簡単!3ステップレシピ本ブーム
★西健一郎『日本のおかず』(幻冬舎)
★編集工房桃庵『おつまみ横丁』(池田書店)


*驚異のリバイバル「蟹工船」大ヒット!
★小林多喜二『蟹工船』(新潮文庫)


*タレントの赤裸々自伝本がバカ売れ!
★田村裕(麒麟)『ホームレス中学生』(ワニブックス)

・222万部突破。コミック&ドラマ&映画化もされました。
★大島美幸『ブスの瞳が恋されて』(マガジンハウス)
・8万部突破
★上地雄輔『上地雄輔物語』(ワニブックス)
・初のフォト&エッセイ集。発売3日で28万部突破!(インタビューVTRあり)


谷原 松田さん、タレント本は本当に盛り上がりましたが、上半期、文芸書のメガヒットというのがなかったじゃないですか。
松田 そうですね。ただ、そのかわり、次々と魅力的な作品を書く新人作家が登場したんで、これからメガヒットになる作品を書いてくれるんじゃないかと期待したいですね。


<今週の松田チョイス>
松田 ぼくが上半期に読んで一番面白かった本を取り上げてみました。
◎川上弘美『風花』(集英社)



N ある日突然、匿名の電話で夫の不倫を知らされた主人公のゆり。「自分はいったいどうしたらいいのか」。途方に暮れ、そしてのゆりは夫婦の意味、自分の人生を問い直し始める。女性心理をきめ細かい筆致で描いた恋愛小説の傑作。「登場する夫婦を通して、川上さんが伝えたかったこと」、そんな質問への答えは?
川上 たぶんね、小説書いてて、伝えたいことって、私はないかもしれない。私が書いた通りのそのものを、「ああ、そうですか」って受け取って、その通りのものっていうことじゃなくて、一行があったら、その一行で自分のことを考えたり、今までのことを思い出したり、それで全然違うことを考えたり。とにかく、読んでいただいて、読んだ方が何かを感じてくだされば嬉しい。>
谷原 本当に、いまでも覚えていますよ、この本。二人、優香ちゃんとぼくで読んで、意見がそれぞれ違ってたじゃないですか。
優香 読む人によって、全然違っていて。特別大きいことがあるわけじゃないんだけれど、日常がすごくリアルなんですよね。女性目線が上手だなあというのを覚えています。
松田 そうですね。読む人によって、というのは、何となく、ぼくなんかもそうなんですけども、トリコにされるというか、いつの間にか主人公の気持ちになっているみたいな。やはり、川上さん独自の日本語の力だと思いますね。すごく、しなやかで、柔らかい、本当にきれいな日本語なんですよね。その言葉に乗せられて、いつの間にか女性の気持ちになって体験をしていく。だから、ものすごく苦しいこともあるし、楽しいこともあるっていう。で、それをズーッと体験していると、あっ、人間って不思議な動物、生き物だなあって、人間のことをすごく考えさせられる、単なる恋愛小説というレベルを超えた小説だなあっていう気がしますね。
谷原 あらためて、女性は本当にこわいです。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.8.2)

2008年08月03日

『ひゃくはち』と「特集・話題の芥川賞&直木賞作家」


<特集・話題の芥川賞&直木賞作家>


<芥川賞> 楊逸『時が滲む朝』(文藝春秋)



『時が滲む朝』で中国人として初めて芥川賞を受賞した楊逸(ヤン・イー)さん。日本語を全く話せなかった楊さんが大学生の時、何を思いたって日本に来たのか。そして、なぜ日本語で小説を書くようになったのかに迫ります。お話を伺うのは中華街。楊さんは大学生の時、日本に来たいと思ったキッカケが、実は、中華街でお店を経営する叔父からの一通の手紙に挟まれていた一枚の写真。そこに、叔父の家族が裕福そうに、そしてアカ抜けた姿で写っていたのに衝撃を受けたのだそうです。楊さんの半生をインタビューで明らかにするとともに、楊さんの感じる日本人と中国人、日本語と中国語の違いについて語っていただきました。


<直木賞> 井上荒野『切羽へ』(新潮社)



夫以外の男に惹かれることはないと思っていた。彼が島にやってくるまでは……。静かな島で、夫と穏やかで幸福な日々を送るセイの前に、ある日、一人の男が現れる。夫を深く愛していながら、どうしようもなく惹かれてゆくセイ。やがて二人は、これ以上は進めない場所へと向かってゆく。「切羽」とはそれ以上先へは進めない場所。宿命の出会いに揺れる女と男を、緻密な筆で描ききった哀感あふれる恋愛小説。今回、荒野さんのよく通うという喫茶店でインタビュー。愛人に入り浸り、家に帰ってこなかったという、作家であるお父さんのこと、1作目から13年間のスランプ、そして、受賞作を書くことになったきっかけなどを伺いました。


谷原 対照的なお二人でしたが、作品の方はどうなんですか。
松田 そうですね、作品も対極的ですね。楊さんは、骨太のドラマチックな物語の底に哀しみが滲み出ているような作品です。井上さんの方は、本当に「何も起こらない」小説なんです。でも、その下に激しい感情のうねりのようなものが描かれています。どちらも、人間の強さとか弱さ、喜びとか哀しみを本当に見事にとらえている作家さんだと思いますね。これからも期待したいですね。


<今週の松田チョイス>
◎早見和真『ひゃくはち』(集英社)



松田 野球小説としても、青春小説としても新しい1ページを刻んだ傑作、早見和真さんの『ひゃくはち』という作品です。
N 甲子園行きてぇ、でも遊びてぇ。レギュラー入りを目指してあの手この手、でも女の子にも興味津々。「ひゃくはち」=108とはボールの縫い目と煩悩の数を表しています。主人公は強豪校の補欠部員。煩悩を全開にして夢にすがり、破れ、大事なものに気付いていく高校球児の姿が描かれます。8月9日には映画も公開。>
松田 主人公たちは、甲子園という夢に向かってまっしぐらに突き進んでいく球児たちなんですね。特に主人公は、「補欠」なので、懸命に努力を重ねていくんですけども、監督との関係とか、チームメイトとのつきあいとか、試合での駆け引きとか、野球をめぐるドラマは手に汗を握るし、とっても面白いんですよ。ただ、それだけでは終わらない、「純粋無垢」な高校球児だけでは終わらないところが、この小説のミソなんですけども。そこから、家族や友情をめぐる新しいドラマがからんでくるんです。若い新人作家のデビュー作なんですが、すごく読ませる力がある傑作だなと思いましたね。
優香 わたしも読みました。野球青春小説って、もっと熱いのかなって思ったんですけども、そういう「甲子園に行きたい」という思いを表に出さずに、心の中でふつふつと「行きたい」っていうのは今っぽいのかな、新しいなって思いました。それから父親との関係がとても素敵で、「もっと頑張りなさい」「こうしなさい」という感じじゃなく、ちょっとひいた感じで応援しているお父さん……。
松田 いいお父さんですよね。
優香 お父さんからもらう手紙が素敵で。
松田 それが支えになるんですよね。
谷原 映画も面白いです。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.7.26)

2008年07月27日

『もやしもん』と「特集・『上地雄輔物語』」


<BOOKニュース>
◎小林武史+AP BANG!『環境と欲望』(ポプラ社)



今年3月、小林武史の呼びかけによって集まったクリエイターやアーティストたちによって催されたイベント「AP BANG! 東京環境会議 TOKYO CREATORS MEETING」。ここから、昨今の環境問題のキーワードが見えてくる1冊の本が生まれました。SHIHO、茂木健一郎ほかのインタビュー、井上陽水と小泉今日子の対談などを収録しています。


<特集・初フォト&エッセイ『上地雄輔物語』>
◎上地雄輔『上地雄輔物語』(ワニブックス)



「ホントに俺が書きましたっ!」と強調するかのように、執筆のみならず、企画、構成、デザイン案まで手がけたという自信作。なんと、15日に締め切られた予約だけで6万部突破! 発売前からベストセラー間違いなしといわれる本書は、やんちゃだった少年時代、松坂選手(現レッドソックス)らとともに野球に明け暮れた青春時代、そしてブレイクした現在までを綴ったエッセイ。それに、故郷・横須賀をはじめ、思い出の地を巡るオール撮り下ろし写真を収録しました。このフォト&エッセイ集の発売直前、多忙きわめる上地さんへの独占インタビューにブランチだけが成功しました。少年時代のこと、青春をかけた野球のこと、偉大なる後輩・松坂のこと、本には書かなかった恋愛観などを伺いました。さらには、本に込めた熱い思いについても、惜しむことなく語った素顔満載のインタビューをお送りしました。


<今週の松田チョイス>
◎石川雅之『もやしもん』1~6(講談社)



松田 かなり風変わりだけど面白いコミック、石川雅之さんの『もやしもん』です。
 今年、二つの漫画賞(第12回手塚治虫文化賞マンガ大賞、第32回講談社漫画賞・一般部門)を受賞したことで話題が高まっているコミック、石川雅之『もやしもん』。「かもすぞー」。キャラクター化された菌たちが空中を飛び交い、しゃべる、世にも奇妙な菌漫画。タイトルの「もやし」とは酒造りなどに使う種麹のこと。主人公は「某農業大学」に入学した沢木惣右衛門直保。もやし屋の跡取りである彼は、菌が見え、さらに会話までできるという特殊能力をもっていた。直保は風変わりな教授やくせのある仲間たちと出会い、さまざまな騒動に巻き込まれていく。>
松田 これは、農業大学を舞台にした、ある種の学園ドラマ、青春ドラマなんです。いろんな奇妙な行事があったり、変な酒屋の謎を追求したり、そうかと思うと、突然、ブルゴーニュに飛んで、ワインのことを研究したりとか、不思議な話なんです。実は、読んでいくと、本当の主役は何かということがわかって来るんですね。菌やウィルスなんですね。発酵菌とか乳酸菌とかばい菌とか、そういう菌たちが発酵とか腐敗のメカニズムを説明してくれるんですね。すごく可愛いキャラクターなんですよ。最初は、「なんだか説明の多い漫画だな」と思うのですが、それが、だんだん楽しみになってきて、実は、この世の中っていうものは、フラフラしている人間たちが支えているんじゃなくて、しっかり働いている菌たちが支えているんだっていうことがよくわかるっていう面白い漫画です。
谷原 はい。世界は菌に満ちている。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.7.19)

2008年07月19日

『聖域』と「特集・茂木健一郎『脳を活かす勉強法』」


<BOOKニュース>
15日、第139回芥川賞・直木賞が決定しました。芥川賞は楊逸(ヤン・イー)さんの『時が滲む朝』、直木賞は井上荒野さんの『切羽へ』でした。
◎楊逸『時が滲む朝』(文藝春秋)



◎井上荒野『切羽へ』(新潮社)



谷原 松田さん、楊さんが中国人として初の芥川賞受賞で話題になっていますけども、直木賞の井上さんはどんな方なんですか。
松田 微妙な女性心理の揺らぎを繊細に描いていることで定評がある作家なんですね。これからも、成熟した女性の恋愛小説をいろいろ読ませてもらえるんじゃないかと思って、楽しみな作家ですね。


<特集・茂木健一郎『脳を活かす勉強法』>
◎茂木健一郎『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)



脳と心の繋がりをわかりやすく解説して、現在65万部を突破した『脳を活かす勉強法』。その内容をより多くの学生に理解してもらおうと、都内の中学校で実践授業が開催されました。そこでは著者の脳科学者・茂木健一郎さんが壇上に立ち、脳の血流の流れる様子のグラフィックをリアルタイムでモニターで見られる装置を生徒に装着し、その状態で問題を出して、負荷を掛けたときの脳の状態を解説していました。今回は、その装置をレポーターのちえみちゃんにも体験させて頂きます。簡単な計算問題を解く際、時間の制限がない場合とある場合でどのように脳の状態が変化するのかをチェック。ゲーム感覚で進んでいく授業……。茂木さんの狙いはそこにありました。実は茂木さんもはじめから勉強ができたわけではないと言うことです。あることがきっかけになって、勉強を楽しいと思うようになり、それで脳内物質のドーパミンが分泌され、意欲を引き出していったんだとか。夏休みを機会に色々なことを体験し、楽しいと思うことを発見してほしいと語っていただきました。


<今週の松田チョイス>
◎大倉崇裕『聖域』(東京創元社)



松田 フレッシュな山岳ミステリーの傑作、大倉崇裕(たかひろ)さんの『聖域』です。
 安西おまえはなぜ死んだ? マッキンリーを極めたほどの男が、なぜ難易度の低い塩尻岳で滑落したのか。事故か、自殺か、それとも――。好敵手であり親友だった安西の死の謎を解き明かすため、山に背を向けていた草庭は、再び山と向き合うことを決意する。気鋭のミステリー作家が満を持して挑戦する山岳ミステリーの大傑作。>
松田 この作品は、グイグイと読まされる力とか、大自然や人物たちがクッキリと立ち上がってくるとか、本当に骨太な、読み応えのある力作なんですね。特に自然描写が素晴らしくて、特に山の描写が。たぶん、山に行ったことがある人も、ない人も、雪山の厳しいけれども美しい情景には惹きつけられると思うんですよね。そういう自然の中で育まれていく山の仲間たちのものすごく篤い友情と、それがそのままいかないように俗世間のいろんなことがからんでいって、事件が起きるんですけども。で、謎解きも意外性がありますし、最後には感動的なラストシーンが待っているという。今の暑さを吹き飛ばすよな、爽快なミステリーという感じがしましたね。
谷原 松田さんがおっしゃったように、ぼくも1日半でグイグイと引き込まれて読んでしまったんです。山の小説ということで、ぼく自身、山に登ったことはないんですけども、なんか、ぼくも山に登ったことがあるんじゃないだろうか、と知ったような気持ちになすなるような、「山もの」の読み物としての楽しみもありますし、あと、ミステリーとしても、事件の発端は山で起きるんですけども、どんどん展開していくのは街の中なんですね。現在進行形で謎が進んでいって、最後がまた山に行くんですね。だから、「山もの」としての楽しみもあるし、ミステリーとしての楽しみも二つあるんですね。みなさん、山に登りながら、夏休み、読んでみて下さい。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.7.12)

2008年07月13日

「芥川賞・直木賞の予想」と「特集・この夏のオススメのガイドブック」


<特集・ブランチ厳選 この夏のオススメのガイドブック>


夏休みまであとわずか。旅行に行く人、まだ計画が決まってない人、長い休みが取れない人、それぞれにぴったりの旅本を紹介します。


◎「ことりっぷ」シリーズ(昭文社)



仲のいい女友達と2泊3日のショートトリップ。働く女性が週末に行く小さな旅を提案。女性に嬉しい気配りたっぷりのレストランやホテルをセレクトし、実際の旅に即したモデルコースを提案。


◎「旅行読売 臨時増刊号 思いたったらひとり旅」(旅行読売出版社)



日本全国の一人泊歓迎の宿、オススメスポットなど133選を紹介します。また、昔町、ローカル線、温泉、グルメ、神社、花など目的別にも観光スポットを紹介しています。


◎おののいも『てくてく北京』(ワニブックス)



今年の海外旅行先で、注目なのは、オリンピックも開催される北京。この町を著者が歩きつくします。写真ではなく詳細で楽しいイラストで、著者がひとり旅で見たもの食べたものの全てを紹介してくれます。


◎『島田紳助のすべらない沖縄旅行ガイドブック』(幻冬舎)



今、一番売れているガイドブック(アマゾン調べ)。芸能界一の沖縄通による最強ガイドブック。沖縄渡航80回以上の紳助さんが独断と偏見で沖縄のいいところをピックアップし、楽しみ方を提案します。(紳助さんのインタビューあり)


<今週の松田チョイス>


小林 今週の<松田チョイス>は特別編です。来週15日に発表となります、第139回芥川賞・直木賞の予想を松田さんに言っていただきます。
松田 はい。
小林 まず、芥川賞からまいります。候補になったのは、こちらの7作品です。この中で、松田さんが注目するのは、楊逸(ヤンイー)さんの『時が滲む朝』です。


◎楊逸『時が滲む朝』(文藝春秋)



松田 前回も受賞直前まで言った楊さんなんですけども、今度の作品は、1989年の、中国の民主化運動が天安門事件で挫折するんですね。それに参加した若者たちが、その後、不遇な人生を送っていくという話なんです。彼らが、尾崎豊の歌にすごく共感する。挫折の重さみたいなものが切なく迫ってくるんですね。ちょうど、北京オリンピック開幕直前で、中国のことにいろいろ関心をもたれていると思うので、今、是非読んでもらうといい作品だと思います。受賞してもらうと、中国人作家で初の受賞ということですから、ちょっと期待したいなと思います。
小林 さて、続いて参りましょう。注目の直木賞です。候補になったのは、こちらの6作品です。この中で、松田さんが「本命」としたのは、この作品です。


◎山本兼一『千両花嫁 とびきり屋見立て帖』(文藝春秋)



N 直木賞候補2回目となる山本兼一さんの『千両花嫁 とびきり屋見立て帖』。時は幕末、京都の茶道具屋の娘ゆずと店の奉公人だった真之介。二人は、駆け落ちして道具屋を構えたばかり。見立てと度胸と夫婦愛で、いわくつきの道具を捌き、勝海舟に坂本龍馬、新撰組とも渡り合う。夫婦の成長を軸に、商人の心意気を描く連作小説。>
松田 まず、キャラクターがとっても魅力的なんですね。道具屋の若夫婦と奉公人たちも素敵ですし、それに実在の坂本龍馬とか近藤勇とか高杉晋作なんかがからんでくる。だから、歴史的な事実とフィクションが見事に融合してて、本当にワクワク楽しませてくれます。それに、道具屋だけに、道具の「目利き」、道具話がまた、すごく楽しめるんですね。本当に、いぶし銀のような、味のある作品で、直木賞は新人賞なんですが、もうベテランの域に達している筆致だなあという気がしました。
谷原 ぼくも時代小説マニアなもので、チェックさせていただいたんですけども。いま、松田さんが「キャラクターが素晴らしい」とおっしゃったんですが、若夫婦の真之介とゆずさんの相性がすごくいいんですよね。道具の目利きを旦那さんがちゃんとやるんですけども、ゆずさんの方が、もともと道具屋のお嬢さんなんで、こちらの方が目利きのランクが上なんですよ。で、旦那さんは道具の目利きをするんですけども、幕末の志士たちの人物の目利きもするじゃないですか。町人と武士、志士たちというと、志士側で描かれている幕末物って多いんですけども、町人側から見た話なんですごく面白かったです。
松田 そうですね。町人が強くなってきた時代でもあるんですね。でも、主人公の夫婦がいいので、真之介は是非、谷原さんに演じてもらいたいし、ゆずさんは蒼井優さんかなあとか思ったりして。
谷原 いやあ、是非、やらせていただきたいですね。最後に若旦那の面目躍如のところもありますので、皆さん是非読んでいただきたいです。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.7.5)

2008年07月06日

『体育座りで、空を見上げて』と「特集・『島耕作』」


<文庫ランキング>  (6/23~6/29 三省堂書店全店調べ)
① 東野圭吾『さまよう刃』(角川書店)
② 梨木果歩『西の魔女が死んだ』(新潮社)
③ 小林多喜二『蟹工船』(新潮社)
④ 中山真敬『たった3秒のパソコン術』(三笠書房)
⑤ 村山由佳『夢のあとさき』(集英社)
⑥ 石田衣良『愛がいない部屋』(集英社)
⑦ 雫井脩介『クローズド・ノート』(角川書店)
⑧ 堂場瞬一『久遠(上)』(中央公論新社)
⑨ 有川浩『空の中』角川書店
⑩ 横山秀夫『クライマーズ・ハイ』(文藝春秋)


<特集・「島耕作」>
◎弘兼憲史『課長島耕作』(小学館)



◎弘兼憲史『部長島耕作』(小学館)
◎弘兼憲史『取締役島耕作』(小学館)



1983年から連載が始まった「島耕作」シリーズ。「課長編」、「部長編」、「取締役編」と着実に出世を重ね、現在も雑誌「モーニング」にて連載中だが、ついに社長に就任! まさに他に類を見ない「サラリーマン漫画の金字塔」として、存在感を放ち続けています。この社長就任を記念して「島耕作」を徹底特集しました。「島耕作」シリーズの大・大・大ファンである中川翔子さんに島耕作の魅力を語ってもらいました。さらに、しょこたんによる島耕作モテポイントBEST3を発表しました。(3位・博識、2位・冷静で聞き上手、1位・仕事への姿勢)


<今週の松田チョイス>
◎椰月美智子『体育座りで、空を見上げて』(幻冬舎)



松田 中学生という微妙な年頃の心の揺らぎを見事に描き出した、椰月美智子さんの『体育座りで、空を見上げて』です。
N 『しずかな日々』で野間児童文芸賞、坪田譲治賞を受賞した椰月美智子さんの新作『体育座りで、空を見上げて』。主人公の妙子は、ごくごくフツーの中学生。そんな彼女の中学3年間がきめ細かく描かれます。友人との関係、教師や親への反発、部活、試験、受験。揺らぐ思春期の心を綴った青春グラフィティです。>
松田 この小説では、ちょっとした波乱や軋轢はあるけれども、とりわけ大きな事件が起こるわけじゃないんですね。でも、だからこそ、少女の内面でブツブツと沸き上がってくるような不安とか不満とか、そういった感情の揺らぎみたいなものが、本当に切々と迫ってくるように伝わってくる作品なんです。こういう心の内面なんかも含めて、中学生という微妙な年代のかけがえのない輝きみたいなものを、本当に見事にとらえられていて、いま中学生の人も、かつて中学生だったあらゆる人も、是非読んでほしい青春のグラフィティだと思うんですね。
谷原 ぼくも読ませていただいたんですけども、主人公は女性なんですけども、思春期って、男とか女とか関係ないんですよね。多少、違う部分があっても、子どもから大人に変わり始める第一歩っていうのは、感じていることっていうのは、みんな一緒だと思うんですよ。読んでみて思ったのは、最後の方で、すごく「大人はわかってくれない」って言ってるんですけど、ぼくも同じように思っていたんですけども、結局、いま振り返ってみると、あのときは、ぼくもわかろうとしていなかったな、大人のことを。だから、わかろうとしなかったら、わかってもくれなかったんだよなって思いましたね。
松田 そういう余裕がないということもあるんですね。
優香 わたしも読みまして、中学生の時って、思春期の時期に誰もが思う、独特の気持ちってあるじゃないですか。特に何が起きたわけじゃないんだけど、なにか苛立ったり、どうしていいかわからない。これから高校になって大人になるんだけど、子どもでいたいとか。その狭間で、どうしても身近にいる家族に当たってしまうという。でも、当たったときに、自分で悪いことしたなって思うんだけど、すぐに謝れず、それもどうしていいかわからないというモヤモヤ感が、すごくよく、上手に出てて共感しましたね。
松田 大人にみられたいけども、子供でいたいみたいな、矛盾していますよね。
優香 そうですね。
谷原 皆さんも、この作品で青春時代を思い出してみて下さい。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.6.28)

2008年06月28日

「特集・伊集院静『羊の目』」


<総合ランキング>  (6/15~6/21 有隣堂全店調べ)
 1位 Jamais Jamis『AB型自分の説明書』(文芸社)
 2位 Jamais Jamis『B型自分の説明書』(文芸社)
 3位 Jamais Jamis『A型自分の説明書』(文芸社)
 4位 勝間和代『勝間和代のビジネス頭を創る7つのフレームワーク力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
 5位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 6位 編集工房桃庵編『おつまみ横丁 すぐにおいしい酒の肴185』(池田書店)
 7位 中村俊輔『察知力』(幻冬舎)
 8位 前田敬子・岡優太郎『まこという名の不思議顔の猫 続』(マーブルトロン)
 9位 姜尚中『悩む力』(集英社)
10位 五木寛之・香山リカ『鬱の力』(幻冬舎)
谷原 松田さん、今週のランキングですが、『鬱の力』、『悩む力』、『察知力』、『フレームワーク力』と、タイトルに「力」という文字を使った本が人気を集めているようですが。
松田 結構、流行りみたいですね。注目したいのは、「鬱」とか「悩む」とか、どっちかというと「力」とは反対の、ネガティブなイメージの言葉を組み合わせるというのも多いんですね。『老人力』や『鈍感力』もそうだったんですが、わりと大ヒットに繋がるんですが、そのミスマッチが逆にインパクトになっているんですね。
谷原 ネガティブなものに力を付けることでポジティブに変えていくという。
松田 逆にひっくり返すということですね。


<特集・伊集院静『羊の目』>
◎伊集院静『羊の目』(文藝春秋)



1992年、『受け月』で直木賞、1994年、『機関車先生』で柴田錬三郎賞を受賞し、人と人の絆を温かく、時に優しく描いてきた伊集院静さん。彼は作詞家として近藤真彦に提供した『愚か者』で、1987年に日本レコード大賞を受賞、その他『ギンギラギンにさりげなく』などのヒット曲も生み出しています。そんな伊集院さんの最新作『羊の目』は今までの作品とは一線を画しています。初めてエンターテイメント性を意識したというストーリー展開。実はその裏には以前かわした高倉健さんとの約束があったということです。読後に浮かび上がってくる「家族」や「死」などのキーワードを伊集院さんはどう考えるているのか、伊集院さん自身の怒涛のような人生と小説の内容をリンクさせながら紹介します。小説の舞台でもある浅草・隅田川のほとりに佇む日本家屋でインタビューし、最後に達筆の伊集院さんに「美は強い」と描いていただいた書を拝見。その言葉に託する思いを伺います。
<あらすじ>
昭和8年、ある捨て子が武美と名付けられ戦前の浅草で育つ。 「裏切る事は卑怯なこと」という「任侠の掟」を教えられ、武美は自分を拾ってくれた辰三のために、命ぜられるまま殺しを重ねていく。しかし東京進出を図る四宮組の親分の命を狙うも失敗。武美はロサンゼルスへ逃れるが、その地でも追ってきた四宮組の刺客との死闘を演じる。その後、武美はある人の手引きで安全な場所、すなわち刑務所で25年過ごす。出所後に舞い戻った東京で、任侠として、武美の最後の戦いが繰り広げられる。


谷原 松田さん、『羊の目』ですが、いかがでした。
松田 とてつもないスケールのエンタテインメントで、終始圧倒されるんですけどもね。主人公の少年が「男」になっていく、育っていく姿がすごく印象的ですし、それと同時に、
彼が信奉しているピュアでタフなアウトローの美学みたいなものがものすごい迫力で迫ってくるんですね。今の時代、いろんな意味で指針を揺れているというか、見失いつつある時代なんで、こういう一途な男の生き方というものが語りかけてくるものは、ものすごく大きいなっていう気がしますね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.6.21)

2008年06月21日

『田村はまだか』と「特集・槇村さとる『Real Clothes』」


先週(6月14日)は、9時前に発生した岩手・宮城内陸地震の影響で、「王様のブランチ」が中止になりました。そのために、先週の予定だった「特集」「松チョイ」が今週に繰り越しになりました。


<コミック・ランキング> (有隣堂アトレ恵比寿店 6/9~6/15)
 1位 尾田栄一郎『ONE PIECE』50(集英社)
 2位 浅野いにお『おやすみプンプン』3(小学館)
 3位 矢沢あい『Nana』19(集英社)
 4位 西村しのぶ『ライン』4(講談社)
 5位 瀧波ユカリ『臨死!!江古田ちゃん』3(講談社)
 6位 星野桂『D.Gray-man』15(集英社)
 7位 天野明『家庭教師ヒットマンreborn!』20(集英社)
 8位 黒丸・夏原武『クロサギ』19(小学館)
 9位 すえのぶけいこ『ライフ』18(講談社)
10位 井上雄彦・吉川英治『バガボンド』28(講談社)


<特集・槇村さとる『Real Clothes』>
◎槇村さとる『Real Clothes』1~4(集英社)



働いている女性の仕事や恋に対する等身大の悩みをリアルに描き、今、普段マンガを読まない20~30代の女性たちの間で、じわじわと人気となっているのが、槇村さとる『Real Clothes』(5/19・4巻発売・累計42万部)。主人公は、大手百貨店「越前屋」のふとん売り場勤務の天野絹恵(27)。「服なんてどうでもいい。表皮一枚のことじゃない」と思っていたのに、突然、エリート中のエリートが集まる婦人服第3部に異動……!? その手腕で4時間で1000万円を売り上げる部長・神保美姫や、その部下でやり手のバイヤーの田淵など、くせものぞろいの現場で、絹恵の人生が大きく動き始める……。35年にわたってマンガ界の第一線で活躍。作品には自分の働き方も反映していると語る槇村さん。今回はその仕事場での様子を紹介しつつ、読者から「力をもらえるセリフ」と評判の槇村流セリフ作り術など、作品作りの秘密について伺いました。


<今週の松田チョイス>
◎朝倉かすみ『田村はまだか』(光文社)



松田 久しぶりに、とっても気持ちのいい感動を与えてくれた長編小説、朝倉かすみさんの『田村はまだか』です。
N 札幌ススキノにあるとあるバーで、小学校の同窓会を終えた40歳の男女五人が「田村」を待っていた。大雪で列車が遅れ、クラス会に間に合わなかった「田村」。それぞれがある人との思い出を語り始めるが、「田村」はまだ来ない。人生にあきらめを覚え始めた世代が語り過ごした一夜は、怒涛の感動とともに幕を閉じる。>
松田 この作品は、絶妙な語り口のお話なんですね。クラス会で流れてきて、バーでグダグダ飲んでいる5人の男女という話なんですけども。なんとなく、名優揃いの舞台劇を観ているみたいな感じで、なんだか、バーのカウンターのこっち側にいて、彼らの話を盗み聞きしているみたいな臨場感があるんですよね。
優香 はい、そうなんです。私も読みました。本当におっしゃるとおりで、バーの空間がとっても良くて、みんなが「田村はまだか」って言うんですけども、そのセリフを言いたくなるように、田村さんを待っちゃうんですよね。
松田 そうですね。それで田村はなかなか来ないんですね。
優香 全然、来ないんですよ。
松田 その間に、ちょうど40歳の5人のそれぞれの人生が語られていくんですけども、いろいろ屈折していて、ちょっと人生を諦めかかっている人もいたりして。話を聞いていくと、なんで田村に会いたいと思っているかということがわかってくるんですね。それで、でも、田村はやってこないんですよ。ただ、最後には、人生っていろいろあるけどいいんだなあって、ある種深い感動のようなものが残る、不思議なテイストのお話ですよね。
谷原 田村は来るのか来ないのか、是非松チョイしてみてください。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.6.7)

2008年06月08日

『東京島』と「特集・和田竜」


<総合ランキング>  (5/26~6/1 文教堂書店全店調べ)
 1位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 2位 Jamais Jamis『B型自分の説明書』(文芸社)
 3位 Jamais Jamis『A型自分の説明書』(文芸社)
 4位 松本ぷりっつ『うちの三姉妹 7』(主婦の友社)
 5位 『ファイナルファンタジー11電撃の旅団編ヴァナ・ディール公式ワールドガイド アルタナの神兵編』(アスキー・メディアワークス)
 6位 桐野夏生『東京島』(新潮社)
 7位 編集工房桃庵編『おつまみ横丁 すぐにおいしい酒の肴185』(池田書店)
 8位 氷川きよし『氷川きよしフォトエッセイ KIYOSEAON』(主婦と生活社)
 9位 奥野宜之『情報は1冊のノートにまとめなさい』(ナナコーポレートコミュニケーション)
10位 宮部みゆき『孤宿の人 上』(新人物往来社)


<特集・和田竜>
◎和田竜『のぼうの城』(小学館)



◎和田竜『忍びの国』(新潮社)



時は乱世、天下統一を目指す秀吉の軍勢が唯一落とせない城があった。それは、周囲を湖に囲まれ「浮城」と呼ばれていた武州・忍城。城主・成田長親は何があっても泰然としていて、領民から「のぼう様」と呼ばれ、誰も及ばぬ人気があった。この忍城とその城主の物語『のぼうの城』は、3月15日放送の「松田チョイス」で取り上げ、谷原さんが大絶賛。今回、この小説に登場するお城のゆかりの土地・埼玉県行田市を和田さんが案内してくれ、創作秘話を聞かせてくれました。また、あわせて新作『忍びの国』についても語っていただきました。この新作は、戦国大名不在の国、伊賀の国に織田軍一万余が攻め込み、そこで繰り広げられた壮絶な戦いを描く。自らの欲のみに生き、他人を平気で踏みにじる、人でなしの集団である伊賀の忍びの者たちの人間離れした術と、この戦いの陰に咲いた純愛など、個性的なキャラクターが次々に登場し、息を継がせない戦いの場面が連続する戦国エンタテインメント大作。
谷原 松田さん、新作の『忍びの国』、いかがでした。
松田 『のぼうの城』も引き込まれるように読みましたが、新作『忍びの国』は伊賀の話なんですが、なんだか伊賀の忍者に首根っこを掴まれて、戦国の戦乱の中に投げ込まれたような、本当に、ハリウッド映画のような臨場感があって……。力のある若手の時代小説作家がうまれて、これから楽しみだなと思いますね。
谷原 やはり、『のぼうの城』に続くエンタテインメント時代劇なんですね。
松田 そうですね。とっても映像的ですからね、これも是非、映画にしてほしいと思いましたね。


<今週の松田チョイス>
◎桐野夏生『東京島』(新潮社)



松田 いつも強烈な作品でぼくたちの心を揺さぶる桐野夏生さんの最新長編小説『東京島』です。
 桐野夏生の問題作『東京島』。「あたしは必ず、脱出してみせる」。32人が流れ着いた無人島に、女は清子ひとりだけ。いつまで待っても助けは来ず、いつしか若者達は島をトウキョウ島と呼ぶようになる。果たして、ここは地獄か楽園か? 欲望をむき出しにして生きていく人間たちの姿を容赦なく描いて、読む者の手を止めさせない問題作、ここに誕生!>
松田 桐野さんは、これまでも極限状況に置かれた人間の、ギリギリと苛むようなシチュエーションを書いてきたんですけども、今回も凄まじい。31人の男と1人の女が無人島に漂着して、人間同士の対立とか嫉妬とか、人間のいやらしい部分がさんざんあって、それに直面せざるをえないような状況があって。だけども、読み進んでいくと、意外なことが次々と起こっていって、この人たちの運命が一変してしまうんですね。なかなか、読まないとわからないんですけども……。で、最後まで読むと、人間って結構強いんだなあ、たくましいんだなあという希望みたいなものが見えてくる、不思議なテイストの作品なんですね。なんか、優香ちゃんも読もうと思って……。
優香 本屋さんで、気になって買ってはいたんですけども……。きょう、紹介聞いて、やっぱり読もうと思いました。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.5.31)

2008年06月01日

『菜種晴れ』と「特集・石田衣良“恋愛の極意”」


 <総合ランキング>  (5/19~5/25 三省堂全店調べ)
 1位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 2位 Jamais Jamis『B型自分の説明書』(文芸社)
 3位 奥野宜之『情報は1冊のノートにまとめなさい』(ナナコーポレートコミュニケーション)
 4位 Jamais Jamis『A型自分の説明書』(文芸社)
 5位 編集工房桃庵編『おつまみ横丁 すぐにおいしい酒の肴185』(池田書店)
 6位 鈴木貴博『カーライル』(ダイヤモンド社)
 7位 築山節『脳と気持ちの整理術』(日本放送出版協会)
 8位 今尾恵介『日本鉄道旅行地図帳』(新潮社)
 9位 野口嘉則『3つの真実』(ビジネス社)
10位 中日新聞社『ドアラ・チック』(PHP研究所)


<特集・石田衣良“恋愛の極意”>
◎石田衣良『傷つきやすくなった世界で』(日本経済新聞出版)



◎石田衣良ほか『恋のトビラ』(集英社)



1997年、『池袋ウェストゲートパーク』でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビュー。2003年には、『4TEEN』で第129回直木賞を受賞。現在、連載小説を9本、エッセイを4本抱えている、超人気作家・石田衣良さん。これまで、小説やエッセイを通して、若い世代を見つめ、メッセージを送り続けてきた石田さん。この10年で、人びとは余裕を失い、傷つきやすくなってしまったという。それは、「恋愛」についてもいえるのだそうです。今回は、、この5月の刊行された最新エッセイ集『傷つきやすくなった世界で』とアンソロジー小説集『恋のトビラ』のお話を糸口に、リポーター・白石と恋愛談義に花を咲かせました。これを受けて、スタジオでも恋愛談義になりました。谷原さんは、ぼくのもそのネタで振ってきましたが、受けにくいのでかわしてしまいました。
松田 恋愛論も含めて、ああいう風に発言する作家の人って珍しいんですね。みんな作品だけ書いている人が多くて。だから、ああいう人って先輩としては貴重だと思うんですよね。アドバイスしてくれる作家として、知識人として。


<今週の松田チョイス>
◎山本一力『菜種晴れ』(中央公論新社)



松田 女性の心にも響く人情時代小説、山本一力さんの『菜種晴れ』です。
 江戸末期、地方の菜種農家に生まれた二三(ふみ)は、わずか五歳で江戸深川の油問屋の養女となる。泣くのは一人の時だけ、過酷な試練にさらされながらも、気丈に新しい生活を受け入れ、力強く生き抜いていく。なぜなら、二三は人びとをうならせる絶品の天ぷらを作ることができたから。幕末の江戸、困難に立ち向かい、前へ前へと歩んだ一人の少女の波瀾万丈の半生を描く長編時代小説。>
松田 なんと言っても、主人公の女性のキリッとした姿が目に浮かぶようで、それがとても素敵なんです。この魅力的なヒロインを取り囲んでいる、周りの人たちも情が厚い人たちばかりで、とても素敵なんです。こんな素敵な人たちに、実は、過酷な運命が襲いかかる、だから読んでいて、胸を締め付けられるような辛い気持ちになります。でも、主人公は、どんな状況になっても、けなげに真っ直ぐに生きていくんですね。本当に素晴らしい感動的な時代小説だなあって思いましたね。
谷原 ぼくも読ませていただいたんですけども、二三は田舎の農家から江戸にもらわれていって、環境の変化というか、試練とかがいっぱいあるじゃないですか。でもそういうものに負けないで成長していく、そういう一人の成長物語として、一代記としていいなと思いました。あとそれから、今の日本人がなくしてしまったものが、ここにあるような気がします。
松田 そうですね。江戸町人の品格のようなものが、すごく伝わってきますね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.5.24)

2008年05月25日

『ブランケット・キャッツ』と「特集・『日本のおかず』&『おつまみ横丁』」


 <総合ランキング>  (5/11~5/17 有隣堂全店調べ)
 1位 Jamais Jamis『B型自分の説明書』(文芸社)
 2位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 3位 Jamais Jamis『A型自分の説明書』(文芸社)
 4位 西尾維新『傷物語』(講談社)
 5位 編集工房桃庵編『おつまみ横丁 すぐにおいしい酒の肴185』(池田書店)
 6位 茂木健一郎『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)
 7位 岩本薫『YEBISUセレブリティーズ6』(リブレ出版)
 8位 勝間和代『勝間和代のインディペンデントな生き方 実践編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
 9位 奥野宜之『情報は1冊のノートにまとめなさい』(ナナコーポレートコミュニケーション)
10位 福田健『女性は「話し方」で9割変わる』(経済界)


<特集・『日本のおかず』&『おつまみ横丁』>
◎西健一郎『日本のおかず』(幻冬舎)



各界有名人が愛してやまない、当代最高の割烹「京味」の主人による、待望の「家庭料理」のバイブル。牛肉ごぼう、ぶり大根、にしん茄子、豆あじの南蛮漬け、たらちり鍋、親子丼……なによりのごちそうは、旬の素材をいかした「おかず」です。10年経っても、20年経っても古くならない「家庭料理」の教科書として後世に残したい1冊です。「京味」の常連である阿川佐和子さんにインタビューしました。


◎編集工房桃庵編『おつまみ横丁 すぐにおいしい酒の肴185』(池田書店)



横丁酒場で味わえるような、素朴で飽きない、うまい定番おつまみを185品取り揃えました。少ない素材で、3ステップという少ない行程で、呑みながらでも作れる、簡単なおつまみを厳選。今日の一杯、明日の一杯を楽しくするだけではなく、ずーっと使い続けてもらいたい酒の肴集。編集者と料理研究家の瀬尾幸子さんにインタビューし、本の中から1品つくってもらいました。


<今週の松田チョイス>
◎重松清『ブランケット・キャッツ』(朝日新聞出版)



松田 いつも、ぼくたちを感動させてくれる重松清さんの連作小説『ブランケット・キャッツ』です。
N ブランケット・キャッツ、それは、馴染んだ毛布とともに二泊三日でレンタルされる猫たちのこと。「わたしね……泥棒しちゃった……」。猫を借りる人びとには、それぞれ深い事情があった。定年間際に横領してしまった女性、子どもに恵まれない夫婦、リストラされて家を売る一家。今を生きる人々の孤独と幸せを見つめる、感動の連作短編。>
松田 「借りてきた猫」という言葉がありますが、これは文字通り、レンタルされた猫を借りた家族の話なんですね。猫は別に話すわけではないですし、クールなものですから、特別なことをするわけじゃないんです。ただ、猫がひとときある家族にいることで、その家族のゆがみとか問題とか、そこにいる人々の孤独みたいなものがあぶりだされていくんです。いろんなドラマが、そこに生じる。本当にうまいつくりになっているなあって思うんですけども。ぼく自身は、いかにも重松さんらしいなあと思う、リストラされた一家の主が思い出を作ろうとして猫を借りてくるんだけど、家族はそれどころじゃない。「お父さん、なに舞い上がってんのよ」みたいにどんどんバラバラになっていく。だけど、あることをきっかけにして家族がまたきゅっと繋がっていくという。最後はホロリと感動させられる素敵な物語集でしたね。
優香 私も読みまして、本当に重松さんて、なんでこんなすごいんだろうというか、短編で短いんですけども、ギュギュッと詰まっていて。こんなにも違うお話をたくさん書けるって、やっぱすばらしいなあって思いました。それと、私は、この中で唯一、猫目線のお話があって、子どもたち二人が出てくる……。
松田 家出するんですよね。
優香 はい。「旅に出たブランケット・キャット」というんですけども。小さい頃って、動物に守られたいっていう願望ってなかったですか? 空想で妄想でそういうことを考えていたんですけども、まさにそういう感じで、猫が助けてくれたり、守ってくれたり、それがまた、ホンワカ、ジーンとして、とても温かいお話で、本当に気持ちいいですよね。
松田 そうですよね。気ままに生きているような猫なんだけど、それが逆に癒しになるという、すごくいいお話ですよね。
優香 猫の気持ち、よく分かっているな重松さんという感じですね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.5.17)

2008年05月17日

「特集・川上弘美『風花』」


<総合ランキング>  (5/5~5/11 オリコン調べ)
 1位 Jamais Jamis『B型自分の説明書』(文芸社)
 2位 Jamais Jamis『A型自分の説明書』(文芸社)
 3位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 4位 茂木健一郎『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)
 5位 『ヘキサゴンドリルⅡ』(扶桑社)
 6位 西尾維新『傷物語』(講談社)
 7位 TBSイブニングファイブ『余命1ヶ月の花嫁』(マガジンハウス)
 8位 編集工房桃庵編『おつまみ横丁 すぐにおいしい酒の肴185』(池田書店)
 9位 小栗左多里、トニー・ラズロ『ダーリンは外国人 with BABY』(メディアファクトリー)
10位 『ポケモンぜんこく全キャラ大事典』(小学館)


谷原 松田さん、最近のランキングだと実用書が目立つんですが、小説はどうなんですか?
松田 総合ランキングだとどうしてもノンフィクションが強くなっちゃうんですが、小説の方で言うと、本屋大賞の『ゴールデンスランバー』が山本周五郎賞も受賞して話題になっています。これから、ベテラン、新人、いろいろ話題作が目白押しなので楽しみだと思います。


<特集・川上弘美『風花』>
◎川上弘美『風花』(集英社)



『センセイの鞄』、『夜の公園』、『真鶴』など、恋愛小説の名作を次々と生み出してきた川上弘美さんが、一組の夫婦にフォーカスを絞って書く、初めての小説『風花』を発表しました。主人公は結婚7年目の「のゆり」。彼女は、ある日、匿名の電話によって、夫の卓哉に恋人がいることを知らされます。離婚をほのめかす夫、夫婦の間にたちこめる、微妙なざわめき。途方に暮れながら、揺れ動きながら、自分と向き合い、少しずつ前に進むようになった「のゆり」、33歳の物語。何気ない日常のささやかな描写を織り交ぜながら、自分の人生と夫との距離を見つめ直す女性の心理をきめ細かく描いた恋愛小説の傑作。この作品が、どのように誕生したのか、川上さんが考える「夫婦」とは、「結婚」とは。2年前の「ブランチ」登場以来のTV出演となる川上さんが、気軽にインタビューに答えてくれました。(レポーター:金田美香)


<VTR>
私(松田)もロケに同行して、川上さんの話を聞かせていただきました。VTRでも出てきましたが、特に印象に残った言葉を二つ再録してみます。
*主人公の「のゆり」が「結婚」についてゆるやかに問うていく。そういう描写を通して描きたかったものは?
川上「私の年代っていうのは、仕事を続けるにしても、辞めるにしても、結婚はするもんだという、そういう風に、なんとなく思っていた最後の年代のような気がするんですけれども。いまの20代、30代の女の人たちは(男の人も同じだと思うんですけど)、こうあるべきだということがなくて自由と言えば自由、でも、じゃあ自分たちはどうしたらいいのか、いろいろな選択肢があるだけに、きちんと考えようとすればするほど迷っちゃうんじゃないかなって思うんです。……でも、それはものすごく幸せなことだと思うんですよね。……自分で選んで、どんなに拙く見えても、どんなに幼く見えても、一歩一歩自分で何かを掴んでいってほしいなあって思って書いていったような気がします。」
*川上さんは、この作品を書くことで何を伝えたかったのか?
金田「のゆりと卓哉を通して川上さんが伝えたかったことというのは?」
川上「それ、難しい質問なんですよ。たぶんね、小説を書いてて、伝えたいことって、私はないかもしれない。それよりも、とにかく読んでいただいて、その読んだ方が、何かを感じてくだされば嬉しい。その触媒、きっかけになれば嬉しいなあ。私が書いた通りのそのものを、『あ、そうですか』と受け取って、その通りのままっていうんじゃなくて、一行があったら、その一行で自分のことを考えたり、今までのことを思い出したり、それで、全然違うことを考えたり、それが、もしかすると一番嬉しいかもしれない。」


<スタジオ>
優香 私も、この『風花』読みましたけれども、恋愛小説って、ちょっと苦手な意識があったんですけども、すごく読みやすくて。なぜかと思ったら、恋愛だけじゃなくって、現実的なことが、ちょうどいい具合に混ざり合っているんで、すべてがリアルというか。白黒ハッキリつけたいし、だけどグレーな部分も、あっ、やっぱあるよなあって思って。そのグレーの部分がリアルなんですよ。
谷原 ぼくも読んだんですけども、正直言って、怖かったです、この本、男の立場からすると。女性が主体にして描かれているんで。男って理屈っぽいけども、実は夢見がちで、女の人は一見受け身に見えるけども、決断したらとっても現実的なんだなって感じて。
優香 最終的に思ったのは、女の人は強いなっていうこと。優柔不断だけど、最後にはね。谷原 とっても芯が強いですよね。この本読んでいて、途中から、ある女優さんをイメージしていたんですけども、和久井映見さんの顔が、すっと浮かんできたんですよね。松田さん、川上さんの物語は面白さに加えて文章のうまさも言われていますね。
松田 そうですね。いま言われたような感想をもたれるというのは、このしなやかでなめらかな文章なんですね。こういう文章だからこそ、非常に深い心理的なものをえぐり出すこともできるんですね。この小説は、夫婦の危機の物語ですね。激しい修羅場はひとつもないんですよね。静かに静かに二人の関係が壊れていく、だけど、その中で、新しい感情が少しずつ少しずつ育っていくんです。読む人によっては、それを「怖い」と思うかも知れませんし、ある種の「優しさ」というかな、大事なものを大切にしたいという意味での優しさもあると思うんですよね。だから、川上さんが最後に言ってましたが、読む人によって、感じ取り方が全然違う。もしかすると、読んでいる人の心理が写る鏡みたいな作品なんじゃないかなっていう気がしましたね。
優香 これも、読んだ後に、みんなで話し合える本ですよね。
松田 男の人も女の人も、年配の人も若い人も、それぞれの読み方をすると思いますね。
谷原 美香ちゃん、お目にかかって、とても雰囲気のある方でしたね。
金田 そうなんですよ。まるで、小説の主人公の方のような存在感があるんですよね。でも話すと、優しくて包み込んでくれるような、お母さんのような印象も受けますし。女性の魅力がたっぷりで、憧れですね。
谷原 世の男性にも是非読んでいただきたい恋愛小説です。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.5.10)

2008年05月10日

「特集・劇団ひとり&立川談春」


<総合ランキング>  (4/28~5/4 オリコン調べ)
 1位 Jamais Jamis『B型自分の説明書』(文芸社)
 2位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 3位 Jamais Jamis『A型自分の説明書』(文芸社)
 4位 『ヘキサゴンドリルⅡ』(扶桑社)
 5位 西健一郎『日本のおかず』(幻冬舎)
 6位 茂木健一郎『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)
 7位 編集工房桃庵編『おつまみ横丁 すぐにおいしい酒の肴185』(池田書店)
 8位 小栗左多里、トニー・ラズロ『ダーリンは外国人 with BABY』(メディアファクトリー)
 9位 『無双OROCHI魔王再臨 コンプリートガイド』(光栄)
10位 『CINEMA SQUARE Vol.18』(日之出出版)


<特集・劇団ひとり&立川談春>
◎劇団ひとり『そのノブは心の扉』(文藝春秋)



お笑い芸人としては、総勢十数名のキャラクターを演じ分け、俳優としては映画「嫌われ松子の一生」、TVドラマ「電車男」「純情きらり」で好演し、作家としては小説『陰日向に咲く』がベストセラーになり、映画化もされた。今、ノリにノっている男「劇団ひとり」の初のエッセイ集が刊行されました。“ひとりで遊び、ひとりで悩み、ひとりで書いた”この本。めくるめく「ひとりワールド」が全開です。劇団ひとりさんにインタビューしました。


◎立川談春『赤めだか』(扶桑社)



17歳で天才・立川談志に入門。「修業とは矛盾に耐えることだ」と言われ、理不尽に怒ったり、思わぬところで優しかったりする師匠に翻弄される苦闘と苦笑の日々。「上の者が白いと言えば黒いもんでも白い」という前座生活の苦労と二つ目になることができた喜び。笑わせて、泣かせて、しっかり心に残る修業物語。落語家達の奇妙な生活を活き活きと描き、落語の面白さを教えてくれる一冊。高座前の談春さんを直撃しました。


谷原 松田さん、この2作品の魅力は?
松田 劇団ひとりさんは、本当に文章がうまい人で、このエッセイ集でも、奇矯な行動を、わりに淡々と報告するんですね。面白おかしくしようとしない。だから逆に、読んでいると面白さが増していくという文章芸がある人ですね。立川談春さんも、笑いをとろうとしないで、淡々と奇妙な世界を書いていくんですが、読み進めるにしたがって、ふつふつと笑いがこみ上げてきます。だから、二人とも笑いのコツみたいなものをちゃんと掴んでいる人だなあって思います。また、立川談志さんというキャラクターがメチャクチャ面白いので、それを読んでいくのも楽しみですね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.5.3)

2008年05月04日

『さようなら窓』と「特集・森田まさのり『べしゃり暮らし』」


<総合ランキング>  (4/21~4/27 文教堂書店全店調べ)
 1位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 2位 Jamais Jamis『B型自分の説明書』(文芸社)
 3位 Jamais Jamis『A型自分の説明書』(文芸社)
 4位 『あいのり10 Fate~めぐり逢い~』(学研)
 5位 北方謙三『楊令伝5 猩紅の章』(集英社)
 6位 小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)
 7位 小栗左多里、トニー・ラズロ『ダーリンは外国人 with BABY』(メディアファクトリー)
 8位 高橋克徳他『不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できない』(講談社)
 9位 大庭史榔『1分骨盤ダイエット』(三笠書房)
10位 伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(新潮社)


<特集・森田まさのり『べしゃり暮らし』>
◎森田まさのり『べしゃり暮らし』1~5(集英社)



累計5000万部を超える大ヒット作となった『ろくでなしBLUES』で連載デビューし、現在放送中のドラマ「ROOKIES」の原作者でもある森田まさのりさんの最新作『べしゃり暮らし』を特集しました。ウケるためなら命がけ!? 吉竹高校3年の吾妻圭祐は自称「学園の爆笑王」。その才能を昼の放送で遺憾なく発揮していた。ある日、大阪から転校してきた元芸人・辻本潤と出会い、コンビを結成。紆余曲折しながらもプロのお笑い芸人を目指す青春ストーリー。森田さんの作品の特徴は、超リアルで写実的な絵。その秘密は、森田さん自らによるカメラ取材にありました。今回は、お笑いライブの舞台裏取材に同行し、その綿密な取材ぶりを目の当たりにします。また、仕事場では、森田さんが、最も神経を使うという、人物の表情を描く瞬間も披露してくれました。また、作品への熱い思いも語っていただきました。


<今週の松田チョイス>
◎東直子『さようなら窓』(マガジンハウス)



松田 歌人の東直子さんが書いた最新長編小説『さようなら窓』です。
N この家はあたしの家じゃない。ゆうちゃんの家。繊細な感受性から複雑な家庭に疲れてしまったきいちゃん(築)。そんな彼女が安らかに眠れるように、彼氏のゆうちゃん(佑亮)は夜ごとお話を聞かせてくれる。それはどこかはかなく哀しい人たちのお話だった。きいちゃんが優しいゆうちゃんにさよならするまでが綴られる、切なくも温かい恋物語。>
松田 主人公のきいちゃんに、本当に心優しいゆうちゃんが夜ごとに話をしてくれるんですね。そのお話に包まれて、幸せな時を過ごしているんです。言ってみれば「現代版・千夜一夜物語」といったテーストのお話なんですね。そのお話に出てくる登場人物は、どこかはかなげで、哀しみを抱えていて、だけど、一話一話、とってもしみじみ温かさを感じさせられるお話なんですね。繊細なきいちゃんなんですけども、縁の薄かった実の父親の最期を看取ることになって、そのことがきっかけになって、自分の足で歩きだす。自分の哀しみみたいなものを抱えながら、歩き出そうとして、それで、優しいゆうちゃんと別れる、「さようなら」する。だけど、悲しい別れじゃなくて、自分がもっと成長していくための別れなんで、きいちゃんに「また逢おうね」って言いたくなるような優しいラストなんですね。
小林 本当にゆうちゃんが優しくて、こんな優しい男性がいるのは、きいちゃん幸せ者だなあって思いながら読んでいたんですけども。東さんの独特の表現で、ゆうちゃんがきいちゃんにお話してくれるお話の登場人物とかが、すごく不思議なんだけど、また愛すべきキャラクターで、なんかあったかくなるような。私は、こういう恋愛もあるんだなと最後に思いました。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.4.26)

2008年04月26日

『こうふく あかの』と「特集・矢口敦子『償い』」


<文庫ランキング> (4/14~4/20 日販オープンネットワークWIN調べ)
 1位 佐伯泰英『白桐の夢 居眠り磐音江戸双紙』(双葉社)
 2位 佐伯泰英『上海 交代寄合伊那衆異聞』(講談社)
 3位 北方謙三『水滸伝 十九』(集英社)
 4位 平岩弓枝『小判商人 御宿かわせみ33』(文藝春秋)
 5位 横山秀夫『震度0』(朝日新聞出版)
 6位 矢口敦子『償い』(幻冬舎)
 7位 伊坂幸太郎『死神の精度』(文藝春秋)
 8位 栗本薫『旅立つマリア グイン・サーガ120』(早川書房)
 9位 北方謙三『替天行道 北方水滸伝読本』(集英社)
10位 荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 40』(集英社)
谷原 松田さん、文庫ランキング3位の『水滸伝』なんですが、ぼくもはまっているんですが、読み始めると止まらないですよね。
松田 本当にぼくも止まらないで困っているんですけども。なんで、こんなに面白いのかというと、「水滸伝」という大ロマンを一回解体して、そこに、新しいキャラクターなり、迫力のある合戦場面なりをふんだんに入れて、何倍にも何十倍にして再構築してるんですね。だから、北方さんの並外れた筆力が生み出した一大エンタテインメントなんで、絶対に面白いこと間違いないですね。
谷原 キャラクターが本当に魅力的で、楊志というキャラクターがいて、その男の生き様、死に様が本当にかっこいいんですよ。皆さん、是非読んでいただきたいと思います。あと1位の佐伯さんの作品も面白いです。


<特集・矢口敦子『償い』>
◎矢口敦子『償い』(幻冬舎)



7年前の作品にもかかわらず、新宿の二つの書店(福家書店新宿サブナード店、紀伊國屋書店新宿本店)が、偶然、同時期にPOPを立てて、独自に展開したことから火が付き、いまや45万部のベストセラーになったという、感動の長編ミステリー。主人公は36歳の元医師・日高。彼は、子供の病死と妻の自殺によって絶望し、ホームレスになった。流れ着いた郊外の町で、社会的弱者を狙った連続殺人事件が起き、日高はある刑事の依頼で「探偵」となる。やがて彼は、かつて自分が命を救った15歳の少年が犯人ではないかと疑いはじめるが……。作者の矢口さんは、小学5年生の時に、病気で学校に行けなくなり、大学も通信教育で卒業しました。そういう過去をもっているせいでしょうか、彼女の作品は社会的弱者への優しい眼差しに満ちています。札幌在住の矢口さんを訪ね、この作品に託した思いをうかがいました。また、ヒットのきっかけになった書店も直撃しました。


<今週の松田チョイス>
◎西加奈子『こうふく あかの』(小学館)



松田 活きのいい作品を次々と発表しています西加奈子さんの最新作『こうふく あかの』という作品です。
 先日、『通天閣』で、織田作之助賞を受賞した西加奈子さん。その最新作は、『こうふく あかの』と『こうふく みどりの』という、どこかで繋がっている、まったく別々の物語。『こうふく みどりの』では、中学生緑の日常と淡い初恋が描かれます。そして、『こうふく あかの』では、2007年のサラリーマンの苦悩と2039年のプロレスラーの生き様が交互に語られ、やがて二つの話がリンクしていくのです。>
松田 『こうふく みどりの』と『こうふく あかの』というのは、それぞれ独立した波瀾万丈の物語として楽しめるんです。『こうふく あかの』の方を取り上げてみようと思うんですが、これは、ちょっと自意識過剰なサラリーマンが、奥さんから妊娠を告げられる。だけど、全然心当たりがないので、非常に衝撃を受けるという、深刻なお話が一方であって、そこに突然、未来の、約30年後のプロレスの試合の話が入ってくるんですね。そういう荒唐無稽な話なんですけども、西さんの独特の、活きのいい、コミカルな語り口でグイグイと読まされていくんです。で、あるところまでいくと、この二つの全然違うドラマが、「アントニオ猪木」というキーワードで結びつくっていうことがわかってくるんですね。なかなか不思議な展開になっているんです。最後まで読むと、ハッピーエンドとは言えないんですけども、ああ、こういう終わり方いいんだ、人生ってこういうもんだって思うんです。人生っていうリングの上で、みんな死にものぐるいで戦っている。それもいいじゃないかって、心が温かくなる、元気をもらえるという素敵な物語なんですね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.4.19)

2008年04月20日

「特集・小川糸『食堂かたつむり』」


<小説ランキング>  (4/3~4/9 丸善日本橋店調べ)
 1位 小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)
 2位 伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(新潮社)
 3位 山本一力『菜種晴れ』(中央公論新社)
 4位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 5位 東野圭吾『流星の絆』(講談社)
 6位 川上弘美『風花』(集英社)
 7位 和田竜『のぼうの城』(小学館)
 8位 海堂尊『ジーン・ワルツ』(新潮社)
 9位 緒川怜『霧のソレア』(光文社)
10位 江上剛『愛、弁解せず。』(PHP研究所)


<特集・小川糸『食堂かたつむり』>
◎小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)



<スタジオ>
英玲奈 今週のランキングでも堂々1位を飾り、ただいま、大ブレイク中です。『食堂かたつむり』の作者小川糸さんにお会いしてきました。


<VTR>
優香 久しぶりに号泣しました。もう、溢れて出てくるんですよ。(3月22日O.A.)
はしの 後半、涙をこらえるのが大変。閉じては上向いて(眼をパチパチ)、また開けて、閉じては上向いてというのを繰り返して……。(3月29日O.A.)
N そんな声が広がって、現在12万部突破の大ベストセラーになっているのが『食堂かたつむり』。ある日突然、何もかも失った主人公倫子は、故郷で食堂を始める。一日一組、その客だけに作られたメニューは、人びとを癒し、小さな奇跡を生んでいきます。>
英玲奈 あの方だと思います。
N とても気になる、この本の作者小川糸さんを訪ねました。>
英玲奈 英玲奈です。
小川 はじめまして、小川糸です。
N 新緑に映える黄色いワンピースがお似合いの小川糸さん。とても優しげ。>
英玲奈 小川さんと倫子ちゃんが一致してきました。
小川 いえー、どうなんでしょう。
英玲奈 ホンワカとした雰囲気で。すごく優しそうな方だなあという印象を受けました。
小川 ウフフフフ。わかんないです。
英玲奈 わかんないですか。
小川 わかんないです。……こちらになります。
英玲奈 こちらですか。
N そんな小川さんが案内してくれたのが……。>
小川 私にとっての「食堂かたつむり」なので……。
N 小川さんのお気に入りの場所、お友達の料理研究家が開いたというアトリエで、お話を伺うことにしました。>
英玲奈 『食堂かたつむり』を「王様のブランチ」で紹介した後、すごい反響があったという風に伺ったんですけども。
小川 はい。みなさんから、ああいうコメントいただいて、本当にうれしいと同時に、背筋が伸びるというか。物語を書こうと思ってから、10年経つので、その間に、辛いこととかもあって、それがお腹からにじみ出てくるというか、放送の後は、いろいろ思い出してボロボロ泣いてしまいました。
N これまで小川さんは、fairlifeという音楽集団で、作詞を担当。>
小川 浜田省吾さんがメロディを作って、私が詞を書いて、水谷(公生)がアレンジをして……。
英玲奈 水谷さんとおっしゃる方は?
小川 私のパートナーというか夫です。
英玲奈 旦那さんで。じゃあ、ご結婚もされて……。
小川 はい。
N これまでに3枚のCDを発表して、その中には、ポルノグラフィティの岡野昭仁さんをはじめ、奥田民生さんやゴスペラーズら一流アーティストがゲストとして参加。しかし、小川さんの目標である作家にはなかなかたどり着けず、『食堂かたつむり』が世に出るまでには紆余曲折がありました。実は、この作品、2年前の「ポプラ社小説大賞」で、最終選考にも残らず落選。しかし、光る物を感じた編集者の目にとまり、2年の歳月をかけ、今年、出版がかなったのです。>
小川 私も、これがダメだったら、作家になるっていうことをあきらめようかなって思って出した作品なので……。
英玲奈 感謝ですね。
小川 本当に感謝です。
N そんな10年分の思いが詰まった『食堂かたつむり』では……。「リンゴちゃん、こんなカレー、はじめて食ったよ」……近所のオジサンへのお礼のザクロカレー。高校生カップルの恋をかなえるジュテームスープ。倫子の料理が人びとに幸せを運び、物語はファンタジックに進んでいくのですが、突然、倫子の前に重い現実が立ちふさがります。しかし、その現実の中にこそ、生きることの尊さが隠されているのです。>
小川 生きていると、きれいなこととか、いいこととか、楽しいことばっかりじゃなくて、時に、残酷なこともやらなければならなかったり、苦しかったり、辛いこともあるんですけども、そういうのから目をそらさないで、向き合った上で、でも、振り返ってみれば、いいことがたくさんあって、生きていることが愛おしく思えるような、そういう作品を書きたいなあと思って書きました。
N 声も、なにもかも失った倫子は、自分に残された唯一のもの、料理と向き合います。料理をしながら自分を見つめ、料理を通して人とふれあっていくうちに、倫子は生きる喜びを見つけていくのです。>
英玲奈 本当に、この中に出てくる料理が、どれをとっても美味しそうで、食材もいろんなものが出てきましたけれども、実際に小川さんは料理が得意なんですか。
小川 私も好きでよく料理はしてるんですけども。この本を出してから、「全部作ったんですか」って……。
英玲奈 気になりますよね。
N 物語で重要な役割を果たしている料理のメニューは、実際に小川さんが食べて感動したものや、自分でもふだんから作っているものだとか。その中でも英玲奈ちゃんのお気に入りは……。>
英玲奈 この中に出てくる「ジュテームスープ」というスープがありましたが、それは恋がかなうんですよね。
小川 はい。
英玲奈 ちょっ今、力が入ったんですけども。
小川 実際に作っているもので、よく知っているものを入れたいなというのがあって……。
英玲奈 じゃあ、ジュテームスープ、小川さんは作られたことがあるんですか。
小川 ジュテームスープという名前では作ってはいないんですけども……。
英玲奈 お野菜のスープ。
小川 はい。ポタージュはよく作りますね。
N もしかしたら、あなたの恋もかなうかも。春のジュテームスープの作り方を大公開。材料は旬にあわせて、クレソンや空豆など春野菜がいっぱい。まず、スープの味を決める煮汁を用意。豆をグツグツと1時間煮込みます。その間に、具材を下ごしらえ。>
英玲奈 糸さんは、料理するときに、その時の旬というものを大切にするんですか。
小川 そうですね。その時期時期で、八百屋さんに一番安く並んでいるものが旬なので、そういうのをよく使ってます。……(鍋で野菜を炒めながら)火の通りにくい野菜から入れるようにしています。
英玲奈 葉物は入っていませんものね。
小川 葉物はすぐ火が通るので、ギリギリにいれて。
N 野菜に火が通ったところで、煮豆、先ほどの豆の煮汁、ローリエ、タイムを加え、弱火でコトコト1時間。最後に葉物。クレソンとキャベツの葉を入れたら火を消して粗熱をとります。ここで、ローリエとタイムを取り除き、水を加えたら、塩とバターで味を調えます。ハンディミキサーで実を細かくして火が通れば、春をたっぷり詰め込んだ「食堂かたつむりジュテームスープ」のできあがり。>
英玲奈 (ひと匙口に入れて)あっ、美味しい! 辛みのあるクレソンがどうなっているかと思ったら、香りに変化して。
小川 まろやかになって。
英玲奈 これは、いろんな栄養があって、身体に良さそうですね。
小川 お豆のだしが出てて、それで本当に野菜だけなので、バターは入っていますけども、そういうのを入れるだけで、身体にスッとなじむ、美味しいものができると思います。
英玲奈 今後は、どういう作品を書きたいんですか。
小川 1作1作、心を込めて。『食堂かたつむり』もそうなんですけども、広い意味でも実用書のような物語、読んだ人が、読んでよかったなあって思えたり、何か、その人が生きていく上でプラスになれるような、そういう作品を書いていけたらいいなあって思っています。


<スタジオ>
優香 うーん。ジュテームスープ、美味しそうでしたね。私も、この本、大好きなんですけども。なんか、そのままだなっていうか、ホンワカした雰囲気が、とてもピッタリだなって思ったんですが、えみちゃんどうでした。
はしの 私も、イメージ通りの感じで、本当に食堂とか作ってもらいたいですよね。
優香 ねえ、食べたいですよね。
はしの 優しいお料理を作ってくれそうな雰囲気の方ですよね。
優香 松田さん、いかがでしたか。
松田 ロケにおつきあいしたんですけども、本当に素敵な人で。あと、創作ノートを見せていただいたんですね。すると、想像力を刺激するような単語やフレーズが並んでて、あ、こういう言葉を繋げていって、ああいう物語ができるんだなあっていうことが面白かったですけどね。それと、「小川糸」ってペンネームですけども、糸って、それだけだと柔らかいですよね。でも、それを針に通して縫っていく、そうすると柔らかい縫い物ができる。だから、針があるんだ、要するに、堅いもの、鋭いものが優しさの中にあるんだというメッセージ、まさに『食堂かたつむり』のテーマだなあって思ったんですけどね。
谷原 ぼくも、実は、昨日の夜読んだんですけども。女性に受けているということで、読んでみたら、文体がとても簡潔で、男性にも決して読みづらい本ではなくて。光と影とか、喜びと悲しみとか、対照的なものがギュッと入って、さっきのジュテームスープみたいにグシャグシャグシャってなってる感じで……。ぼく、読み終わったのが1時ぐらいだったんですけども、一人でビールを飲みたくなって。何か、食べたり飲んだりしたくなるような……。
松田 ジュテームスープがあればよかったですね。美味しかったですよ、すごく。
谷原 次回作も期待したいと思います。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.4.12)

2008年04月12日

『流星の絆』と「特集・大宮エリー『生きるコント』」


<BOOKニュース*「本屋大賞2008」発表!>
◎伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(新潮社)



4月8日、全国の書店員1000人が、「いま、一番売りたい本」を選ぶ「本屋大賞2008」の発表がありました。その表彰式の模様をお送りしました。受賞者の伊坂さんの挨拶から、以下の言葉が紹介されました。
伊坂 後になって、あんな奴選ばなきゃよかったなあとか言われないように、とりあえず、もう少し頑張りたいと思います。>
谷原 今年、伊坂さんが本屋大賞を受賞した一番の理由といえば。
松田 本屋大賞は今回で5回なんですが、5回ともノミネートされたのは伊坂さんだけなんですね。毎回、ベスト5に入っていて、今回初めて受賞ということになったんですね。書店員さんからも「伊坂作品の中では最高傑作だ」という熱いメッセージを贈られていますし、これまでの受賞作よりも部数をどれだけ伸ばしていくか期待したいですね。
谷原 ぼくは映画は観たことあるんですが、本はまだなので、是非読んでみたいですね。
松田 はい。面白いですよ。


<特集・大宮エリー『生きるコント』>
◎大宮エリー『生きるコント』(文藝春秋)



大宮エリーさん。1975年大阪生まれ。映画監督・脚本家・放送作家。東京大学薬学部卒業後、電通に入社。06年、退社してフリーに。NHK「サラリーマンNEO」「エル・ポポラッチがゆく!!」、映画「海でのはなし。」など、話題作を次々と手がけ、多数のヒットCMを生み出す傍ら、スピッツ、山崎まさよしのMVも手がける。5月には「GOD DOCTOR」で舞台初演出に挑戦。幅広い分野にわたる活躍で、いま注目されている彼女の「週刊文春」連載エッセイが刊行されました。毎日、真面目に生きているつもりなのに、なぜか、すべてがコントになってしまう人生。吉本芸人もびっくり、天然系笑いの女王エリーさんにインタビューしました。彼女には、芸能人のお友達もいっぱい。お友達を代表してオスギさんと小泉今日子さんにもコメントをいただきました。


<今週の松田チョイス>
◎東野圭吾『流星の絆』(講談社)



松田 東野圭吾さんの最新ミステリー『流星の絆』です。
N 東野圭吾の感動のミステリー『流星の絆』。幼くして、両親を惨殺された功一、泰輔、静奈の三兄妹。14年後、偶然出会ったある人物を真犯人と確信。緻密な復讐計画を着実に実行に移していく。しかし、そこに起こった大きな誤算。妹の静奈が仇の息子に恋をしてしまったのだ。しだいに崩れていく、彼らの計画の行方とは。>
松田 東野さんのミステリー作品というのは、謎解きの面白さもあるんですが、人間心理のきめ細かく描いていて、それがキリキリと読者の胸に迫ってくるんですね。家族だったり、夫婦だったり、恋人だったり、相手を思いやる気持ちが、すごく切々と迫ってくるという作品なんです。この作品でも、親を惨殺された三兄妹が復讐の計画を立てて、着実に進めていくんですけども、妹が仇と思われる男の息子に恋してしまう。その二つの葛藤が、ものすごいサスペンスになっていく。しかし、ラストのクライマックスは、さすがに東野さんだなという見事な終わり方なんですね。それともう一つ、おまけに面白いのは、ハヤシライスが、すごくおいしそうに出てくるので。ハヤシライスがキーになっているんですけども、読んでいると、やたらハヤシライスが食べたくなるという、そういうミステリーでもあります。
谷原 食べたいですよね。ぼくも読んだんですけども、ぼくにとってミステリーの面白さって、道具立てだったり、伏線を読んでいって、どういうオチにもっていくのかっていうのを自分の中で想像しながら読んでいくんですが、それが、この本は、すべてぼくの想像を超えていて、やられたなあという思いが、読み終わった後ありましたね。そして、いっぱいの優しさが詰まった本で、お兄ちゃんの妹への愛とか、いろんな優しさが詰まっています。この中に、ぼく、すっごくやりたい役があります。この役やりたいという。
松田 あの役ですね。
谷原 あの役です。
松田 谷原さんがピッタリだと思います。
谷原 皆さん、是非読んで確かめてみて下さい。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.4.5)

2008年04月06日

「特集・阿川佐和子『婚約のあとで』」


 <総合ランキング>  (3/24~3/31 有隣堂書店アトレ恵比寿店調べ)
 1位 小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)
 2位 小栗左多里、トニー・ラズロ『ダーリンは外国人 with BABY』(メディアファクトリー)
 3位 小宮一慶『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
 4位 福田健『女性は「話し方」で9割変わる』(経済界)
 5位 Jamais Jamis『B型自分の説明書』(文芸社)
 6位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 7位 大庭史榔『1分骨盤ダイエット』(三笠書房)
 8位 勝間和代『勝間和代のインディペンデントな生き方 実践編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
 9位 『はたらきたい ほぼ日の就職論』(東京糸井重事務所)
10位 中野明海『大人の赤ちゃん肌メイク Make-up book』(扶桑社)
優香 哲夫さん、『食堂かたつむり』1位ですね。
松田 やりましたね。小川糸さんに登場していただいて、特集を組むことになっていますので、是非楽しみにしてください。
優香 楽しみです。


<特集・阿川佐和子『婚約のあとで』>
◎阿川佐和子『婚約のあとで』(新潮社)



<VTR>
金田美香 今回、私が阿川さんにお会いするためにやってきたのは軽井沢です。こちらに阿川さんの別荘があるということなので、うかがってみまーす。
N 冬の名残をとどめる軽井沢。明治大正の頃から作家・文豪に愛され、多くの名作がここから生まれました。>
金田 こんにちわー。
阿川 まあ、ようこそ。はるばるいらっしゃいました。
金田 はじめまして。
N 鮮やかな春の装いで阿川佐和子さんのご登場。>
金田 目の前に浅間山が見えるんですね。
阿川 いいでしょう。借景でね。
金田 いい景色です。
阿川 ちょうど正面に見えるというのが気に入ったみたいで、父が、この土地を買って小屋を建てたのが40年前ぐらいなんですけどね。
N 作家である阿川弘之さんが愛した、この別荘は、佐和子さんも子どもの頃、よく訪れていたのだとか。今では、お父様から引き継ぎ、大事に使っているこの場は、大切な執筆場所でもあります。>
金田 こちらで執筆されたりもするんですか。
阿川 そうですね。いまや、私の持ち物でございますから。東京だと、いろんな雑事なんかで気が散ると、「よし、この1週間は山に籠もる」なんていうときには、こっちに来て……。小説を書く時って、2~3日かかるんですよね。「よし書ける」っていう風に思うまで。
N そんな阿川さんの新作が『婚約のあとで』。主人公の波は、29歳にして、心に決めた人との婚約を発表。ところが、飛行機で偶然隣に居合わせた老人から思いがけない言葉を告げられる。「もったいないよ、急いで結婚するのは」。そこから、決めたはずの波の心に波紋が広がっていく。本当にこの人でいいのか、どこがよくて婚約したのか。周りを見れば、許されぬ恋に走る妹、男を踏み台にのし上がる「都合のいい女」、7年前の夫の浮気を心に刻み続ける主婦。この作品は、性格も、生きる世界も違う7人の女性達が入れ替わり登場し、それぞれに違う恋愛のかたちが描かれる。>
金田 私も読ませていただいたんですけども、私には、共感というよりは、信じたくないようなという部分もあり。まだ夢を見ていることが大きいので。
阿川 どうなりたいの?
金田 常にラブラブで……。
阿川 ラブラブのままで結婚して、結婚後もラブラブのまま生きていきたい。
金田 という夢はあります。
阿川 わたしも若い頃は、そう思っていましたね。
N 「堂々と公表できない関係なんて、今幸せだったとしても、いずれつらくなるだけ」「好きな男のそばにいたいなら、その人に合わせて生きていく」。この物語では、人によって違う恋愛との向き合い方が描かれます。>
金田 「恋愛感情のない結婚はしたくない」というのは、うんうんと思いました。
阿川 それはそうだったのよ。それが失敗で結婚できなかったから、そこそこ妥協した方がいいかもしれないわね。
金田 これだけ、いろいろな、7人もの恋愛のパターンというか、全部違うじゃないですか。やっぱり、恋多き女性しか、こんなことは書けないのかなあと。
阿川 やっぱ、そう思う。だれもそう思ってくれないんですよ。かつて渡辺淳一さんはね、「恋愛小説はすべて経験しなければ書けないものなんだ」って。「へえー」って言ったことがあるけど、そうはいきませんよ。だから、いろんな友だちとのお喋りなんかの場面で、ちょっと印象に残る話や、つらい悩み事の告白も、頭の中に残っている、ちょっとひっかかったエピソードを集合させて、「全部出てこい」っていって、これをこの話にいれてみようかなとか、そういう風にかき集めて作ったんですね。
N 登場する女性達が、自分の人生を歩もうとする反面、男性達は、どこか頼りないタイプばかり。>
阿川 意外に、ダメ男好きなのね、わたくし。ちょっと欠陥商品みたいな男だけども、憎めないっていう人は傾向としては好きですね。
金田 阿川さんが思う、いい男の見分け方というか……。
阿川 そんなものできたら、この歳まで一人でいませんよ。でもね、いま「この人素敵な人だなあ」って思う人に、もし20代の頃に会ってたら、素敵と思っただろうかというと、全然思わなかっただろうっていう人なのね。私にとっては、人間関係を大事に思う人、それから、相手が誰であろうと、地位とかで人を見ない人は大事だなあって思ったり、後は、つらかったり、くらーい空気になったときに、ちょこっとユーモラスな部分をもって余裕が持てる人って偉いなあって。すると、顔じゃないわよ。
金田 そうですかね。お父様の阿川弘之さんも、ユーモアは大事だと。
阿川 ねえ、父は口ばっかりなんですよ。
金田 佐和子さんの本も読まれているとおっしゃっていたんですが。
阿川 なんか、読んだらしいですよ。
金田 なんておっしゃっていたんですか。
阿川 言いたくないですよ。やっぱりね、父親が娘の恋愛小説を読むっていうのは、相当照れがあると思うんですよ。第一声が「まあ、よくこんな長いものを書いたもんだ」と言って、「どこまで経験した話か知らないが」って。だって、小説家なんだから、そんなこと……。「これはお前の経験か」という質問自体がおかしいと思うのに、どっか疑ってんのね。
N 「女性ってのはね、今が大事だから。(中略)未来の夢を語るより、現在を満足させればその方が安定する」……思わず、なるほどと肯いてしまう一節が小説の随所に。その背景には、数々のインタビューをこなしてきた阿川さんならではの出会いに秘密がありました。>
阿川 例えば、1章で波のお父さんに「人生は、二者択一の繰り返しだ」と言わせたんですが、あれはね、中国のチャン・イーモウ監督、「初恋の来た道」という映画を作った監督にインタビューに行った時に、監督がおっしゃった言葉なんですね。チャン・イーモウ監督は中国で貧しい、すごく限られた社会に閉じこめられてて、大学を卒業していれば、なにかの職にありつけるだろう、という動機で、映画大学に入り、たまたま映画監督になり、世界的な映画監督として認められるようになったっていうんです。で、監督は「人生ってそんなものじゃないかと思うんです」、つまり、自分の目の前に突きつけられた二股の道のどっちを行くか、ということを一つずつ、例えば、右に行くと怖いイヌがいそうだからやめておこうとか、左に行けば可愛い女の子がいるから行ってみようとか、そういう不純な動機も含めて、一所懸命に考えて、どっちかの道を選ぶことを繰り返し繰り返し積み重ねていって、最終的に、自分の思ってもないところにたどり着いたとしても、それもまた自分が選んできた人生だと思うんです、って。私自身も、本当はお嫁さんに行くはずだったのに、なんだかちっとも決められないまま、何になりたいか決められない人間はダメな人間か、というコンプレックスをもってたんです。でも、目の前のことをちゃんと誠意を持って選んでいれば、いつか道は開けるという考え方で、なんか救われた気がして。あっ、高邁な目標とか夢とかをもたなくっても、いいんじゃないかなって思った、その時の気持ちを、波のお父さんに託してみたんですけどね。
N 最新作『婚約のあとで』が話題になっている阿川佐和子さん。この作品に託したのは、今を懸命に生きる女性へのエールでした。>
阿川 私は、どの道を選んだ女性が偉くて、どの道を選んだ人がちょっとマイナスだなんていうことはないと思うんですよ。専業主婦だろうとバリバリと仕事をやろうと、年取って新しい恋人が出来ようと、全部それぞれの不満も抱え、悩みも抱え、幸せももってると思うから、みんなそれぞれなんだっていうことを最終的には思ってはいますね。なんか、ささやかな喜びで明日も元気に生きていけるって、みんなちょこちょこっと思ってるっていうこと。かろうじて伝えたかったと言えば、そういうことかしらね。


<スタジオ>
谷原 松田さん、この阿川さんの新作『婚約のあとで』の感想を一言で言うと?
松田 面白くて奥が深い、最高の恋愛小説だと思いますね。まずね、構成が面白いんですよ。オムニバスなんですけども、主人公の視点で書かれているかと思うと、次には、ほんの脇役の視点だったりして、いろんな角度から恋愛に光を当てていくんで、恋愛をめぐる人間関係とか心理がきめ細かく、複雑に描かれているという面白い構成になっているんですね。
優香 奥が深いんですね。
松田 単に恋のときめきとか喜びだけじゃなくて、嫉妬とか裏切りとかも描いているんですけども、そういうビターテイストも含めて、すごく美味しい味わいになっているという、本当に最高の恋愛小説なんだと思いましたね。
谷原 阿川さんのような素敵な大人を目指したいですね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.3.29)

2008年03月29日

『新世界より』と「特集・海堂尊『ジーン・ワルツ』」


<小説ランキング>(3/17~3/23 紀伊國屋書店新宿本店調べ)
 1位 東野圭吾『流星の絆』(講談社)
 2位 海堂尊『ジーン・ワルツ』(新潮社)
 3位 小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)
 4位 川上未映子『乳と卵』(文藝春秋)
 5位 桜庭一樹『私の男』(文藝春秋)
 6位 万城目学『鹿男あをによし』(幻冬舎)
 7位 和田竜『のぼうの城』(小学館)
 8位 貴志祐介『狐火の家』(角川書店)
 9位 永井路子『岩倉具視』(文藝春秋)
10位 司城志朗『相棒』(小学館)
谷原 松田さん、「松チョイ」で特集しました2冊がいきなり7位と3位。ぼくが紹介した『のぼうの城』が7位で、優香ちゃんが紹介した『食堂かたつむり』が3位。
松田 本当に嬉しいですね。どっちも素晴らしい作品なので、是非読んでほしいですよね。
優香 えみちゃんも読んだんですよね。
はしの そうなんですよ。私も、先週の優香ちゃんの話を聞いて、すごい読みたくなって読んだんです。
優香 どうでした。
はしの 飛行機の中で読んだんで、後半、涙をこらえるのが大変。閉じては上向いて(上を向いて目をパチパチさせる)、また(本を)開けて、閉じては上を向いてと繰り返して。
松田 涙がこぼれてこないように。
はしの でも、作者の方が作詞家さんということがすごくわかる、スルーッと入ってくる文章で面白かったです。
優香 また後で語り合いましょう。
谷原 『のぼうの城』も面白いですよ。
はしの わかりました。


<特集・海堂尊『ジーン・ワルツ』>
◎海堂尊『ジーン・ワルツ』(新潮社)



あの『チーム・バチスタの栄光』シリーズの作者で現役医師でもある海堂尊さんが新作を発表しました。それが産婦人科を舞台にした『ジーン・ワルツ』。主人公は、美貌の産婦人科医・曾根崎理恵、人呼んで「冷徹な魔女(クール・ウイッチ)」。人工授精のエキスパートである彼女のもとに、それぞれの事情を抱える五人の女が集まった。神の領域を脅かす生殖医療と、人の手の及ばぬ遺伝子の悪戯がせめぎ合う。彼女は人のいのちをどこまで操ることができるのか? 『チーム・バチスタの栄光』を超えるドラマティックな衝撃があなたを襲う! 現役医師作家が日本最大の医療問題に挑んだ衝撃作! 作者の海堂さんを訪ね、この作品を書いた意図などを伺い、病理医としての素顔にも迫りました。
谷原 松田さん、海堂さんの新作『ジーン・ワルツ』はいかがですか?
松田 お医者さんなので、最先端の医療知識とか生命科学、遺伝子の世界の話とかがすごく面白く書かれているんですね。それだけじゃなくて、キャラクターも強烈で、『チーム・バチスタ』もそうでしたが、キャラクターが面白く動いてくれるので、ミステリーとしても楽しむことができる作品だと思います。


<今週の松田チョイス>
◎貴志祐介『新世界より(上・下)』(講談社)



松田 壮大なスケールの未来物語、貴志祐介さんの『新世界より』です。
 『黒い家』、『硝子のハンマー』など発表する作品が常に話題になる作家貴志祐介。彼が3年半の歳月をかけたSFエンタテインメントが『新世界より』。科学技術の衰退した1000年後の日本。そこは、「呪力」と呼ばれる超能力が支配する徹底した管理社会だった。何も知らされずに育った子供達に、想像を絶する悪夢が襲いかかる。博学な作者が、生物学、動物行動学などを駆使し、想像力の限りを尽くして描いた壮大な未来絵巻。>
松田 これは、千年後の世界でですね、ある女性が、それから千年後の人類に向けてある手紙を書いているという、めちゃくちゃスケールの大きい話なんです。
谷原 二千年後のことを見越して書いているという。
松田 そうなんですね。その女性が子どもの時代に、友だちと一緒に夏休みに冒険旅行をして、町の外に出てはいけないと言われているのに出て行って、すごい世界に、衝撃的な出来事に出会うんです。それから、ほんとうに血生臭い、巨大なスペクタクルが次々と起こっていって、最後には、なぜ、そういう世界ができていったのかということがわかるんですけども。また、未来生物、不思議な生物がいろいろ出てくるんですが、その奇妙な生態も面白いんですね。戦いのシーンもすごく迫力があります。で、千年後の未来物語というと、いかにも絵空事のように思われがちですが、今の社会にある生命観とか悪とか、そういうものを突き詰めていくと、こういう社会になっても、こういう世界になっても不思議ではないなと思わせて、リアルに迫ってくる、すごい迫力のある作品ですね。
谷原 松田さん、かなり分厚いですよね、この本。
松田 はい、1000ページ以上あります。いやあもう、ハラハラドキドキするんで、ページが減っていくのがもったいないぐらいで、「もう終わっちゃうのか」という感じで、迫力ありますね。
谷原 ぼくも、是非読んでみたくなりました。
松田 谷原さんは大好きだと思いますよ。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.3.22)

2008年03月22日

『食堂かたつむり』と「特集・向田邦子」


<特集・向田邦子>
◎向田和子『向田邦子の青春』(文春文庫)
◎向田和子『かけがえのない贈り物』(文春文庫)
◎向田和子『向田邦子の遺言』(文春文庫)
◎向田和子『向田邦子暮らしの愉しみ』(新潮社・トンボの本)
古き良き町並みを残しつつも、新しく生まれ変わろうとしている街・赤坂。この街には、作家・向田邦子さんが似合っていました。今から約40年前、若き日の向田邦子さんは、赤坂にあるTBSの旧社屋でテレビドラマの脚本作りに奮闘していました。そして、「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」など、数々の名作を生み出し、高視聴率を獲得して「ゴールデンアワーのゴッドマザー」と呼ばれていました。その後、1980年に『思い出トランプ』に収録された短編三作で直木賞を受賞し、小説・エッセイともに髙い評価を受ける人気作家となりましたが、その翌年、飛行機事故で帰らぬ人となりました。そんな向田さんの仕事を支えていた妹の和子さんと共に、向田さんの仕事の数々を振り返り、とりわけTBSとの関わり、そしてその素顔などについて伺いました。
谷原 向田さんのホームドラマは、本当に血の通った人間と人間とのぶつかりあいとかやりとりとかがあったと思うのですが、今も愛される向田さんの作品の魅力といいいますと。
松田 作家としても、エッセイや小説は読み継がれていますが、いま読んでもみずみずしいんですね。書かれたばっかりみたいな感じで。ささやかな描写とか会話とか、一つ一つないがしろにしてなくて、それがぼくたちの胸に迫ってくるんだと思うんです。たぶんそれは、一つには、赤坂という街を媒介にして、才能豊かな放送人たちと交流して、美味しいものを食べて、仕事をしたということが、この世界をつくってきたんだと思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)



松田 最近、こんなに心を揺さぶられた本はありません! 小川糸さんの小説『食堂かたつむり』です。
N 作詞家として音楽制作に関わってきた小川糸さんのデビュー作『食堂かたつむり』。倫子が、勤めていた料理店から帰ると、恋人ごと部屋が空っぽ。あまりのショックに声を失った倫子は、ふるさとに帰って、小さな食堂を始める。お客は一日に一組だけ。いつしか、ここで食事をすると、願いが叶うという噂が広まり、店は軌道にのるのだが、倫子はある事実を知ることになる。>
松田 こういう風にお話を要約すると、料理をめぐる心温まるお話という感じなんです。本当に、主人公が心を込めてつくる料理が美味しそうなんですね。それだけでも、読んでいてとっても豊かな気持ちになれるんですけども、この物語はそれだけでは終わらないで、あることをきっかけにして、本当に衝撃的な出来事に直面するんですね。まあ、比喩的に言うと、メリーゴーラウンドか観覧車に乗っていたつもりが、突然、ジェットコースターに変わっているということになるんです。ただ、最後まで読むと、本当に深い感動があるし、生きてることとか、食べることの本質みたいなものをわからせてくれる、素晴らしい小説だっていうことがわかるんですね。まだ、3月で早いと思われるかもしれませんけども、今年の「ブランチBOOK大賞」の「新人賞」に決めちゃおうかと思っています。
谷原 はやっ。早いですよ。
優香 早いですよね。でも、それぐらい良かったですよ。
谷原 優香ちゃんも読んだんだよね。
優香 はい。先週、谷原さんも号泣したって言ってたじゃないですか、本(『のぼうの城』)を読んで。私も久しぶりに号泣しました。もう、溢れ出てくるんですよ。重松清さん(『その日のまえに』)も大好きで、家族ものってすごく好きで、いつも泣いてたんですけども、それ以来の感動でした。松田さんに、「この本、甘く見てると痛い目にあうよ」と紹介されたんですよ。で、どんなことがあるんだろうって読んでいて、表紙も可愛らしいし、名前も『食堂かたつむり』って可愛らしいし、でも、ほのぼのしてるから、えっ何なんだろう、松田さん、何だったんだろうって思いながら、それも忘れるぐらい入り込んで、どんどん見てったら、バアーって(涙を流すしぐさをして)。母と娘のお話なんで、私にはジーンとドンピシャにはまって……。
松田 読んだ人と話したいんですよ。さっきもね、優香ちゃんと話してて、もっともっと話したいって感じで……。
優香 はい。
松田 みんな読んで話したいなあって思いますね。
優香 えみちゃんにも是非読んでもらいたい。
はしの いま、すっごく読みたくなりました。読みますよ。
優香 谷原さんも、慶太くんも祥太くんも。
谷原 みんなで読んで、語り合いましょう。みなさんも一緒に語り合いましょう。号泣してください。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.3.15)

2008年03月16日

『のぼうの城』と「特集・水野敬也『夢をかなえるゾウ』」


 <総合ランキング>  (3/2~3/8 有隣堂書店全店調べ)
 1位 Jamais Jamis『B型自分の説明書』(文芸社)
 2位 坂東真理子『女性の品格』(PHP研究所)
 3位 東野圭吾『流星の絆』(講談社)
 4位 堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波書店)
 5位 茂木健一郎『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)
 6位 西尾維新『零崎曲織の人間人間』(講談社)
 7位 大庭史榔『1分骨盤ダイエット』(三笠書房)
 8位 トルーマン・カポーティ、村上春樹訳『ティファニーで朝食を』(新潮社)
 9位 坂東真理子『親の品格』(PHP研究所)
10位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)



<BOOKニュース>
◎ルーシー&スティーブン・ホーキング『宇宙への秘密の鍵』(岩崎書店)
あのホーキング博士と娘さんが、子どもたちのために書いたスペース・アドベンチャー。


<特集・水野敬也『夢をかなえるゾウ』>
◎水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)



ベストセラー『ウケる技術』の著者がおくる、愛と感動の自己改革「笑」説。主人公は、「人生を変えよう」と何かを始めるけれど、全部三日坊主に終わってしまうサラリーマン。そういう彼の前に、ある日突然、ゾウの姿をした「ガネーシャ」という神様が現れ、こう言います。自分が出す簡単な課題さえこなしていけば、お前は成功すると……。作者の水野さんは、モテないことを原動力に恋愛マニュアル200冊を読破、さらには就職活動に役立てようと自己啓発本200冊を読破したのですが、どちらでも失敗するというイタい過去がありました。本書では、そんな水野さんが、実際に実践して良かった教えを厳選して、おもしろおかしく紹介しています。100万部に届く勢いで売れているこの本の作者・水野さんの仕事場を直撃、インタビューしました。
谷原 松田さん。この本が一気にブレイクした理由は?
松田 「こうすれば成功する」という本は山ほどあるんですけども、こんなに笑える自己啓発本って初めてだと思うんですね。「ガネーシャ」というゆるーいキャラなんですが、それがいろいろ喋るんですが、すごくインチキくさいんですね。でも、逆に、いろいろ聞いていると面白いから覚えちゃうし、実は、古今東西のいろんな人たちの知恵が詰まっているんですね。それを笑いをまぶして伝えてくれるんですね。タイトルからして、「夢をかなえるゾウ」とダジャレですから、それぐらい気楽な気分でいると、いろんなものが吸収できるということ、ちょっと変わったタイプの面白い本ですね。
谷原 構えずに読めるというわけですね。


<今週の松田チョイス>
◎和田竜『のぼうの城』(小学館)



松田 、血湧き肉躍る戦国絵巻、和田竜さんの『のぼうの城』です。
N まったく新しい時代小説『のぼうの城』。時は乱世。天下統一を目指す秀吉の軍勢が、唯一落とせない城があった。武州・忍城。城主・成田長親は、領民からも「でくの坊」扱いされ、智も仁も勇もないと見られていた。この頼りない城主率いる二千数百の兵は二万の軍勢といかに戦ったのか。実際の史実に大胆な解釈を加えた戦国エンタテインメント小説。>
松田 この城主の長親というキャラクターがものすごく面白いキャラクターなんですね。「のぼう様」、「でくの坊」と呼ばれていて、部下や領民から親しまれている。というよりは、あまりにも頼りないので、支えてあげなきゃしょうがないという気分にさせる、不思議な城主なんです。そこに、豊臣の大軍勢が押し寄せてきて、関東の城はみんな落ちていく。で、弱小な城なんですけども、このお殿様は、なにをとち狂ったのか、「戦おう」って言い出しちゃうわけですよね。そこからが、部下たちの活躍も面白いし、攻める側も攻める側で知恵を使って攻めてくるし、それにスペクタクル・シーンがすごい迫力です。これは、なかなか映画にするのは難しいと思いますが、是非、黒澤明監督が蘇ってきて撮ってほしいと切に思いましたね。
谷原 ぼくも読んだんですけども、のぼうというのが親しまれつつも、バカにされたりしてるじゃないですか。なかに、かぞうという農民が出てくるんですが、忍城が取り囲まれてピンチに陥っているときに、敵方に寝返ってしまって、敵の仕事を手伝っているんですね。でも、ある時、「のぼう」が身を挺して出てきて撃たれるんです。すると、過去にいろんなことがあって侍が嫌いだった、普段は「のぼう」のことを「でくの坊」とバカにしていたかぞうが、実は「のぼう」のことが好きだったんだと気がついて、「よくものぼうを撃ちやがった」と、今度は、また逆に裏切って、それがきっかけで、忍城が唯一落ちない城になるというクライマックスのシーンで、ぼくはボロボロ泣いてしまいました。今年一番の痛快な本でした。皆さん、これは是非、是非読んで下さい。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.3.8)

2008年03月08日

「特集・益田ミリ『すーちゃん』」


 <総合ランキング>  (2/25~3/2 三省堂書店全店調べ)
 1位 坂東真理子『女性の品格』(PHP研究所)
 2位 Jamais Jamis『B型自分の説明書』(文芸社)
 3位 ドアラ『ドアラのひみつ』(PHP研究所)
 4位 茂木健一郎『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)
 5位 坂東真理子『親の品格』(PHP研究所)
 6位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 7位 山田真哉『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大違い』(光文社)
 8位 勝間和代『お金は銀行に預けるな』(光文社)
 9位 川上未映子『乳と卵』(文藝春秋)
10位 つつみみか『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波書店)
谷原 松田さん、『女性の品格』がいまだにランキングで1位ということは、どういう層が買っているんですか。
松田 そうですね。今や300万部を超えて『バカの壁』の410万部に追いつくんじゃないかって言われていますけれど。面白いんですけども、新書っていうのは『バカの壁』もそうなんですが、最初は中高年のオジサンが買いだすんですね。それで売れだすと若い人と女性が買いだすんです。ところが『女性の品格』だけは、はじめっから男女比が75対25で変わらないですし、20代、30代、40代、50代、60代、だいたい同じパーセントで、売れ始めたときも今も売れ続けている。だから、まんべんなくいろんな層にズーッと売れ続けているんですね。たぶん、最近テレビなんかに露出なさっていますが、テレビの影響力が効きやすいかたちなんでしょうね。
優香 「ブランチ」にも出ていただきましたしね。
松田 そうですね。


<BOOKニュース>
◎「GLAMOROUS」4月号(講談社)蜷川実花×10人のヌード


<特集・益田ミリ「すーちゃん」>
◎益田ミリ『すーちゃん』(幻冬舎)
◎益田ミリ『結婚しなくていいですか。 すーちゃんの明日』(幻冬舎)



60万部突破の上野千鶴子『おひとりさまの老後』(法研)をはじめ、いま本屋さんで平積みコーナーができているのが女性の生き方を考える本。そんな『おひとりさま……』と並んで、いま、じわじわと独身OLの間で人気上昇中なのが異色の4コマ漫画『結婚しなくていいですか。』。主人公は、お金も美貌も男もいない三十路半ばの「すーちゃん」。「このままおばあさんになって、仕事もお金もなくて、寝たきりになって、頼る人もなかったら」……。ネギが安いと思って買い物をしながら、すーちゃんは考え続ける。「そしたら、あたしの人生は、歩いてきた人生全部が台無しになってしまうの?って考えたら震えてしまうんだ」。漠然とした将来への不安、大逆転のない「ふつう」な日々。やたらポジティブに走らず、悲劇のヒロインにもならず、「これが私だよな」と淡々と思うすーちゃんに共感が集まっています。そんな「すーちゃん」を描く著者益田ミリさんの仕事場にお邪魔して、この本が生まれたきっかけ、日々のネタ集め、この作品を通して伝えたかったことなどを伺いました。
谷原 ほのぼのとした絵と対照的に、主人公のすーちゃんはとても考えているキャラクターなんですね。えみちゃんも読んだんですよね。
はしの 読みました。30代の独身女性の独り言が、悩みとか思いとかが淡々と飄々と描かれていて、「あ、そういうことを思うことっておかしくないんだな。みんな、ポソッと思っているんだなあ」って思える本ですね。
優香 私も読みました。私もホロッとした一人なんですけれども。ほんとに、絵はほのぼのとして可愛いらしい感じなんですけども、言ってることの一つ一つが重みがあって、ジーンと胸に響くんですよね。本当に鈍感になってしまってはいけないことっていうこともいっぱいあるし、そういうことをわからせてもらえたという本で、なんか面白かったです。
はしの 30代の独身女性にも共感してもらえるし、30代の独身男性も同じようなことを思っているのかなあって……。
松田 そうですね、益田さんという人は、そもそも「つぶやき川柳」というものでデビューした人なので、川柳みたいに短い言葉で気持ちなりをピシッと言う感じがよく出ているんですね。だから、一人の時にポツリとつぶやくことに真実があって、みなさん、自分を鏡に映しているような感じで読んでいるんじゃないかなあって思いますね。
優香 共感できるんですね。
谷原 独身じゃありませんが、ぼくも読んでみます。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.3.1)

2008年03月01日

『5年3組リョウタ組』と「特集・山口隆」


 <月間コミックランキング>(2008.2/1~2/25 文教堂書店全店調べ)
 1位 岸本斉史『NARUTO―ナルト―』41巻(集英社)
 2位 久保帯人『BLEACH―ブリーチ―』32巻(集英社)
 3位 天野明『家庭教師ヒットマン reborn!』18巻(集英社)
 4位 空知英秋『銀魂』22巻(集英社)
 5位 村田雄介『アイシールド21』28巻(集英社)
 6位 大暮維人『天上天下』18巻(集英社)
 7位 北条司『エンジェル・ハート』25巻(新潮社)
 8位 石川雅之『もやしもん』6巻(講談社)
 9位 羽海野チカ『3月のライオン』1巻(白泉社)
10位 ハロルド作石『BECK』32巻(講談社)
谷原 松田さん、羽海野チカさんの9位にランクインした新しい作品ですが。
松田 『ハチクロ』でデビューして、いきなりブレイクしたという人ですけども、今度は青年コミックなんですね。本当に意欲的な人だなあと思います。読み始めると、孤独な青年と、それを包み込むように見守る三姉妹というお話で、本当に目が離せない。これからどうなるんだろうって、楽しみな作品ですね。


<特集・山口隆『叱り叱られ』>
◎山口隆『叱り叱られ』(幻冬舎)



ニューアルバム「音楽の子供はみな歌う」で、日本語ロックに新しいページを開いたサンボマスター。そのボーカル&ギター、作詞作曲を担当する山口隆。彼の初の本格的対談集『叱り叱られ』が、ついに発売。世代、文化、コミュニティの断絶を音楽は越えていけるのか? ゼロ年代にデビューした山口が山下達郎、大瀧詠一、岡林信康、ムッシュかまやつ、佐野元春、奥田民生という、彼が敬愛する6人の巨星たちに、問い、語り、思考した革命的な音楽論。ツアー真っ最中の山口さんを直撃。全身全霊を注いだライブパフォーマンスの原点となった中学生時代のロック体験、今回の対談で印象に残った言葉などをお聞きしました。


<今週の松田チョイス>
◎石田衣良『5年3組リョウタ組』(角川書店)



松田 テレビ番組のコメンテーターとしても活躍していますし、最近は小説を3作続けて発表しました石田衣良さんの『5年3組リョウタ組』という作品です。
N あの石田衣良さんが、学校社会を鮮やかに切り取った作品、『5年3組リョウタ組』。主人公は熱血でもなく内気でもない、ごく普通の小学校教師、リョウタ先生。問題児童にドキドキ、上司のパワハラには無力感。ペーパーワークに押しつぶされそうになりながら、それでも前向きにぶつかっていく姿が爽やかな感動を誘う学園小説です。>
松田 石田さんは、これまで『4TEEN』とか『池袋ウエストゲートパーク』とか、若者たち、少年たちの群像を鮮やかに描いてきたんですが、今度は、教師の目線で子供たちを描くという、初めての試みなんですね。主役のリョウタ先生というのは、教師ものにありがちな「熱血教師」ではなくて、普通の青年なんですね。茶髪でおしゃれなネックレスをして、教頭先生に注意されたり、合コンを楽しみにしていたりするという先生なんです。そういう先生の前に、いろいろな難問が次々と押し寄せてくるんですけども、迷ったり、つまずいたりしながら、前向きに一生懸命にやっている姿が、すごく感動的なんですね。教育問題というと、すごく大げさに構えちゃうんですが、結局、子どもと普通の目線でつきあうことが大事だということを教えてくれる。そういう作品でもあるんですね。
谷原 なるほど、実は翔太君も読んだとか。
翔太 はい。本当に泣けましたね。熱血ではないんですけども、逆にそれが感情移入とかしやすくて。ほんと、ぼくは本とかあんまり読まないんですが、スラッと読めて、本当に楽しかったなと思いました。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.2.23)

2008年02月23日

「川上未映子」大特集


<大特集・芥川賞作家・川上未映子>
◎川上未映子『乳と卵』(文藝春秋)



<スタジオ>
谷原 こんなに話題になる新人作家さんの登場はないんじゃないかと思うんですが。美香ちゃん、よろしくお願いします。
金田 はい。実は昨日、その川上さんが注目を浴びた第138回芥川賞の贈呈式がありました。30社以上の報道陣が集まり、ここ数年では飛び抜けて多数の出席者でにぎわっていました。きょうは、その芥川賞作家川上未映子さんを「ブランチ」が独占インタビューします。お仕事場にもお邪魔してたくさんお話を伺ってきました。


<VTR>
金田 どうも、はじめまして。
川上 はじめまして。こんにちわ。
金田 「王様のブランチ」です。遅ればせながら、芥川賞受賞おめでとうございます。(と花束を渡す)
川上 おおきに、ありがとうございます。
N 川上さんと言えばミニスカ、この日は全身シックに統一。>
金田 かっこいいですね。足も細いし。靴は何ですか。
川上 これはプラダ……なんて言うと……。
金田 指輪もテントウムシが……。すごい、ファッション誌から出てきたような。
川上 それは言い過ぎですよ。恥ずかしいですね。
N 自ら「文筆歌手」と名乗る川上未映子さんは、1976年大阪生まれの31歳。実は、小説家としてデビューしてから1年足らず。初小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』がいきなり前回の芥川賞候補に。そして、このたび、第2作の『乳と卵』で見事芥川賞を受賞したシンデレラガール。>
金田 きょうは、川上さんがお好きな場所に。
川上 そうですね、来てみたかった場所というか。
N それは、川上さんが尊敬する明治の作家樋口一葉の記念館。わずか24年という激しくも短い一生を送った一葉。その名作の数々は、晩年の1年あまりの間に書かれ、「奇蹟の14ヵ月」と呼ばれています。ここには、そんな一葉の貴重な直筆原稿や遺品が展示されています。>
川上 「奇蹟の14ヵ月」……。
金田 1年ちょっとで、これだけの作品を……。川上さんも短い間に。
川上 まだ2作しかね、書いてないから。まだ14ヵ月もいってないみたいな感じなんですけども。
金田 まだ1年。
川上 9ヵ月。小説書き始めてからね。
金田 前作もノミネートされて。
川上 あれは、一番ビックリしましたね。
金田 今回、2作目で受賞されたということで。興奮しちゃいましたよ。それを見ていて。
川上 わたしも興奮しました。ありがとうございます。
N 若い一葉が家計を支えた逸話は有名ですが、川上さんは若くして歯科助手や書店員をして家計を助けていました。中には、こんなバイトも……。>
金田 ホステスなんかも経験がおありとか……。
川上 そうでございます。あれも壮絶な職場でしたね。
金田 でも、資料を読んだんですけども、No.1になれたという……。
川上 いやいや、そんなこと言ってない。
金田 でも、そう書いてありましたよ。
川上 こうやってね、話があれ……。でも、一所懸命頑張っていたんですよ。人と人とのつきあいのお仕事だから、どの現場でも基本は同じですよね。
N そんな川上さんが文学に目覚めたきっかけは、誰もが読んでいたあの本。>
金田 もともと文学少女だったんですか。
川上 全然。だって、家族で本を読む人、誰もいないんですよ。あたしの姉なんか、1冊読破したことがないんです。そう、教科書が始まりだったんですよ。国語の教科書、みんなつまらないって言うけど、あれはバリエーション豊かで、絶対読まないという本も入っているでしょう。だからね、結構、重宝してましたね。
N 作家デビューのきっかけは、自らのアルバム宣伝のために始めたブログでした。これが関係者の目にとまり、エッセイを依頼されたのです。>
金田 やっぱり、書くことが好きだったとか。
川上 書くのはね、自分がね、うまく書けるとか、ちゃんと書けるとかの自信はあったかといえば、なかったですね。むしろ、歌の方が「ちょっとうまいんじゃないか」みたいな気持ちでやったのが、あまりパッとしなかったから、もう、あまりそうこうことはどうでもいいんだということで、好きなものを一生懸命やってみようと思って。
N そして、このたび、2作目の『乳と卵』で見事芥川賞を受賞。
池澤夏樹(芥川賞選考委員) 声のある文体であるということ。つまり、目で読んでいて音が響いてくる、そういう仕掛けをちゃんと作り込んでいるという意味では、やはり歌手なのかなと思います。
N 樋口一葉にも似た、息の長いリズム感のある文体。それを生み出す、畳みかけるような大阪弁が特徴的な『乳と卵』。物語は、大阪から姉の巻子とその娘の緑子が東京のわたしのアパートへ訪ねてくるところから始まる。姉の上京の目的は豊胸手術を受けること。そんな母に反発して、小学校6年生の緑子は一切口をきかない。しかし、娘のノートには、思春期ならではの悩み、そして母への思いが書かれていた。母と娘、そしてわたし。女性3人の体と生理を巡り揺れる心。だれもがもつ体を題材に、女性の存在意味を問いかけます。>
川上 人間に興味があるんですよ。そして、たまたま人間について書こうと思ったら、わたしが女の属性をもっていて、で女の側からのアプローチになってしまった。人間の体と心みたいなもの、これも簡単に二つ分けれないんですけども、そのものを一個の角度から書いてみたいなという気持ちでスタートしているんですね。
金田 それが豊胸手術というものに繋がっていったんですか。
川上 そう。どういうわけか。
金田 川上さん自身も興味があって。
川上 ありましたね。
金田 すごく詳しく書かれていたから。
川上 わたしね、町を歩いていても、男には本当に興味がないんですよ。「好きな男性のタイプは」と言われても、ないです、タイプが。でもね、女の人は見てしまいますよね。だから、化粧品売り場なんて大好きなんですよ。女の人がキラキラしてるでしょう。ああいうのいいですよね。女の人……美しさの基準てどこにあるんでしょうね。


N 壁一面が本で埋め尽くされた部屋。ここが芥川賞作家川上未映子さんの仕事場。デスクの前にはメモがびっしり。>
金田 すごい貼ってある。これは歌詞ですか。ちょっと見ただけでは、どんな内容なのか……。<N 「署名添加」「未知と表面」「柔軟性の幸運」……果たしてこれは……。>
川上 全然意味はないんです。気に入ったフレーズみたいなのがパッと出てくるんですよ。それを書く時期があって、書いたのを前に貼っておくと、いい雰囲気になって、なんか作品書くときに、いい感じに出てくる。目にはいるようにしてると落ち着くんですよ。模様みたいな感じですね。好きな模様とか、柄とか。柄みたいな感じで書きます。
金田 言葉が柄。
N 小説を書き始めるまで、少なくとも数ヶ月の助走期間が必要だという川上さん。>
川上 別に、小説を書くから、これを考えようじゃなくて、たとえば、「好き」という気持ちはどういうことなんやろか。いいとか悪いとかね。善悪とかね。なんとなく、そういうことをご飯を食べながらとか考えるんですよ。そういうものが常にふわふわふわっと漂ってて、小説を書くときに、なんか、全部が同時にあるのが、なんとなくうまくまとまってくれる瞬間というのがあって、キターッと思った時にバーッと書く。
金田 降りてきたというか。
川上 そんな神々しいもんじゃなくて、なんとなくペロンと来てダッていう感じ。ペロリンと来て……。
金田 芥川賞受賞ですか。
川上 結果的にはね。
N そんな川上作品の特徴が、『わたくし率 イン 歯ー、または世界』など、一風変わった長いタイトル。>
川上 やっぱり、書き上がった内容を、タイトルは1行やわと、1行で表そうと思って欲張っちゃうんですよ。だから、よしんば中身を読んでくれなくても、タイトルで読んだ気持ちになって欲しいぐらいな気持ちがあるんですよ。
N 実は、今回も長いタイトルを考えていたそうです。>
川上 悪い癖が出て、長ったらしいタイトルを考えていたんですよ。
金田 ちなみに、どういう風に長いタイトルになってしまったんですか。
川上 それ言うんですか。「胸と卵と毛の会議」みたいなね。
金田 「毛」も入っていたんですか。
川上 「毛」も入っていたんですよね。まあ、「乳と卵」にしてよかったですよ。
N そんな『乳と卵』で、今回、高く評価されたリズム感のある大阪弁。>
川上 大阪生まれで大阪育ちで、自分で大阪弁をしゃべろうというのは、日本語と同じで選べなかったんですよね。なんとなく、自然にこのイントネーション。だから、今回、人間の体っていうのは、生まれたときから、もとからあって選べないことじゃないですか。そこで、選ばないものを同じ要素として、登場人物たちには大阪弁をしゃべらしてみた。もう、勝手な自己満足なんですけども。
N 大阪弁のリズムで、この文章を味わってみたい。そこで……。>
金田 大阪弁で読んでもらっていいですか。
川上 そうね。
N 芥川賞作家川上未映子さん自らが、受賞作の一節を大阪弁で朗読。>
川上 「あたしの手は動く、足も動く、動かしかたなんかわかってないのに、色々なところが動かせることは不思議。……(以下略)」。
金田 すごーい。なんだか日記を読んでもらっているような。
川上 心地よかったですか。
金田 はい。
川上 じゃあ、ズーッと読みましょうか。
金田 (笑)。
川上 それは迷惑で。
金田 これからも、たくさんの作品を書かれていくと思うんですけども……。
川上 (しょげて見せて)もうテンション低い。締め切りがパーンと浮かんで。
金田 これから、どんな作品を……。
川上 まったくわからないですね。
金田 まったくわからない。
川上 ちょっとはわかるけども。
金田 まだ、今は助走中ですか。
川上 うん。メモをいっぱい取ってる最中。
金田 あの、歌手としては……。
川上 ライブ。執筆とは全然違うので、ライブはこれまでと同じで、1年に4~5回やってるんですけども、それはやろうと思っています。3月にもやろうかなって思っていて。
金田 お子さんも。
川上 えっ。
金田 ご結婚されているということで。
川上 結婚とお子さんは別じゃないですか。三食ご飯を作り、部屋を掃除し、素敵な環境を整えて、1日6時間執筆みたいなのが、本当に憧れですね。
金田 それはできそうですか。
川上 たぶん無理。


<スタジオ>
谷原 とっても感覚的な方なんですけども、それをコントロールする理路整然とした部分をもってらっしゃって、独特ですね。
優香 素敵ですね。もう、座り方がずっと色っぽいですね。女性としても素敵だし、お話ししたくなる、一緒に相談して、いろんな話を聞いて、アドバイスをもらいたいなって。すごく面白い方だなあって思いましたし。やっぱり、感性が、バッと降りてくるとか、文章を書く人って素晴らしいなって思いますね。
谷原 そう、無から何かを生み出すんですからね。美香ちゃん、独特の雰囲気がある方で。
金田 VTRをご覧の通り、本当に気さくでさばさばしていて、会った瞬間からお友だちになったような気分にさせてくれる方で。また、本を読むと、これまた独特で、読んでいて会話しているかのようなリズム感があって。最初は慣れないんですけども、読み終わると、アッという間だったんですよね。やっぱり、文字が柄に見えるとか、鋭い感性をお持ちになっていて、終始、取材の間中、驚きの連続でした。
谷原 松田さんもこのロケの現場に行かれたそうですね。
松田 はい、とっても楽しかったですね。昨日、贈呈式でもお目にかかったんですが。会う度に魅力に圧倒されます。すごく哲学書もたくさん読んでまして、それがああいう風に、知的な会話に生きてくるんですね。本当に知的でチャーミングで素敵な女性だなって思いましたね。
谷原 作品についてはいかがですか。
松田 『乳と卵』という作品は、関西弁の、大阪弁の語りが気持ちいいんですけども、そして、ユニークなキャラクターがたくさん出てきて、そこに哲学的な、「人間の体ってなんだろう」というテーマを、面白く、笑いを絡めながら読ませてくれるという、非常に楽しい作品ですね。
谷原 なんか、優しく包み込んでくれる不思議な女性でしたね。「胸と卵と毛の会議」、ぼくも読んでみたいと思います。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.2.16)

2008年02月17日

『セ・シ・ボン』と「勝間和代」


 <総合ランキング> (2/4~10 ブックファースト渋谷文化通り店調べ)
 1位 勝間和代『効率が10倍アップする新・知的生産術』(ダイヤモンド社)
 2位 小宮一慶『「1秒」で財務諸表を読む方法』(東洋経済新報社)
 3位 大谷和利『iPodをつくった男』(アスキー)
 4位 勝間和代『お金は銀行に預けるな』(光文社)
 5位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)


<BOOKニュース>
◎今井広美『友輝へ お願い、ママにキスして』(竹書房)


<特集・勝間和代>
◎勝間和代『効率が10倍アップする新・知的生産術』(ダイヤモンド社)



◎勝間和代『お金は銀行に預けるな』(光文社)

本業は公認会計士。書く本はことごとくベストセラーになる勝間和代さん。最新刊の『効率が10倍アップする新・知的生産術』は現在、20万部を突破しています。子育てと仕事との両立のために編み出したという、徹底的に無駄を省いた勝間流の知的生産術とは? 情報をいかに取り入れ、どうアウトプットするか。仕事上の通信、ネットの利用法、読書の仕方、人とのつき合い方まで、勝間さんに密着取材し、その極意を教えていただきました。


<今週の松田チョイス>
◎平安寿子『セ・シ・ボン』(筑摩書房)



松田 いま、笑える小説を書かせたら、この人の右に出る人はいないと思います。平安寿子さんの最新作『セ・シ・ボン』です。
N 「その時の私は生き迷っていた。これは、およそ30年目、著者である平さんが一念発起してパリ留学したときのことを綴った私小説的エッセイ。期待に胸ふくらませる、26歳女子。しかし、花の都パリで待っていたのは、風変わりな人々、おかしな出来事の数々だった。笑って、あきれて、やがてしみじみとする、調子っぱずれの留学物語。>
松田 これは、小説のように面白いエッセイなんですけども、特別に大きな事件が起こるわけでも、大恋愛に遭遇するわけでもないんです。でも、本当に個性豊かな人物が次々に出てきて、含蓄のある名言を吐いてくれるんです。主人公のタイコというのは、そういう人たちの間でうろうろしているんですが、時間がたってみると、ものすごく貴重ないい人生経験をしたなということがわかるんです。だから、読んでいると、笑えて、しみじみとして、最後はちょっとホロリとするという、いいお話なんですね。一言で読感を言うと、「セ・シ・ボン」(そりゃもう素敵!)という感じ、まさにそういう本です。
谷原 マヤリンも読んだんだよね。
小林 本の冒頭で、「女の黄金時代は、なんといっても三十代ね」という言葉が出てくるんですけども、そこで心を鷲掴みにされてしまって、いかに30代が素晴らしいか、パワフルかということが書かれていて、自分自身も30代がすごく楽しみになりました。あと、わたし、あんまりお酒は飲めないんですけども、平さんと一緒にお酒を飲みながら語ってほしいなあって思えるような……。
松田 人生経験をね……。
小林 そうなんですよ。
松田 そういう意味では、いろんなことを楽しく教えてくれる本だと思いますね。
谷原 男のパワフルな黄金期はいつなんでしょうか。読んでみたいと思います。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.2.9)

2008年02月10日

『いのちのパレード』と「大野智『FREESTYLE』」


<総合ランキング>  (1/28~2/3 三省堂書店全店調べ)
 1位 坂東真理子『女性の品格』(PHP研究所)
 2位 坂東真理子『親の品格』(PHP研究所)
 3位 阿川弘之『大人の見識』(新潮社)
 4位 勝間和代『お金は銀行に預けるな』(光文社)
 5位 平岩弓枝『新・御宿かわせみ』(文藝春秋)
 6位 桜庭一樹『私の男』(文藝春秋)
 7位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 8位 茂木健一郎『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)
 9位 城山三郎『そうか、もう君はいないのか』(新潮社)
10位 Jamais Jamis『B型自分の説明書』(文芸社)


<特集・大野智『FREESTYLE』>
◎大野智『FREESTYLE』(角川書店)



「嵐」の大野智さんが10年にわたって制作してきた、オリジナル・フィギュア100点、ペインティング20点、オブジェ2点など、アート作品を1冊にまとめました。この作品集には、アーティスト大野智の独創的なポートレート、制作への思いをじっくり語ったロング・インタビュー、10年間、制作過程を見つめてきた「嵐」メンバーからの一言なども収録されています。作品の現物を見せていただきながら、大野さんに、制作意図などについてインタビューしました。


<今週の松田チョイス>
◎恩田陸『いのちのパレード』(実業之日本社)



松田 いま、物語を書く人はたくさんいますけども、その中で飛び抜けた力をもっている、面白さ、うまさで言えば恩田陸さんだと思います。その、恩田さんの最新作『いのちのパレード』です。
N 本屋大賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞、山本周五郎賞。幅広いジャンルで評価を得てきた恩田陸さん。その集大成ともいえる短編集が『いのちのパレード』。ホラー、SF、ミステリー、ファンタジー。15の短い物語に込められた壮大な想像力が、読者を圧倒します。>
松田 この本には奇妙な味の短編小説が十五編収録されています。一つ一つが20ページぐらいの短いお話なんです。だけども、それぞれが壮大なスケールの物語だったり、果てしない永い永い歴史の一部を一部を切り取ってきたみたいな、桁外れの大きさを感じさせられる物語ばかりで、それで、最後には意外なラストが待っているという、それぞれが楽しめるお話ばっかりですね。谷原さん、読んでどうでしたか。
谷原 あ、松田さんにふられた。ぼくも読ませていただいたんですが、恩田さんという人はとっても文章が上手じゃないですか。で、読んでいく内に、日常生活で、普通の人だったら見過ごさすようなところを、恩田さんが注目してみると、どっか隙間というかほころびのようなところを見つけて、それを想像力でどんどんふくらましていったっていう感じがしたんですね。日常なんだけども、ちょっと位相がずれた世界。どの短編も、最後のオチはゾクッとするようなものが多いんですが、中には可愛いお話で、「夕飯は七時」というのがありまして、子どもって想像力が凄くあるじゃないですか。で、大人が訳のわからない単語を言うと、それは何だろうと、勝手に生き物だとかを想像して、それが実際に出てきちゃうというお話。それが微笑ましくて好きでしたね。松田さんはいかがでした。
松田 ぼくはね、「かたつむり注意報」という作品が面白くて。ある作家の生涯を追っている人が、その最期の地に行くんですけども、そこで、巨大なかたつむりが夜、町中を歩いているという幻想的なんだけどリアルな光景に遭遇するというお話です。その映像が鮮明に焼き付いているという感じで、本当に繰り返し読みたくなる素晴らしい短編集ですね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.2.2)

2008年02月03日

『ラジオ・キラー』と「荒木飛呂彦&乙一『The Book』」


<コミックランキング>  (12/29~1/27 日販オープンネットワークWIN調べ)
 1位 青山剛昌『名探偵コナン』60巻(小学館)
 2位 高橋ヒロシ『WORST』19巻(秋田書店)
 3位 畑健二郎『ハヤテのごとく!』(小学館)
 4位 田辺イエロウ『結界師』19巻(小学館)
 5位 赤松健『魔法先生ネギま!』(講談社)
 6位 CLAMP『ツバサ』22巻(講談社)
 7位 真島ヒロ『FAIRY TAIL』8巻(講談社)
 8位 矢吹健太朗『To LOVE -とらぶる-』7巻(集英社)
 9位 河原和音『高校デビュー』10巻(集英社)
10位 うすた京介『ピューと吹く!ジャガー』14巻(集英社)


<特集・乙一&荒木飛呂彦『The Book』>
◎乙一&荒木飛呂彦『The Book』(集英社)



荒木飛呂彦の代表作でありシリーズ累計7000万部を超える大ヒット・コミック『ジョジョの奇妙な冒険』。このたび、このシリーズ第四部を奇才・乙一が渾身の小説化。「コミック版ジョジョ」の魅力の一つが【スタンド】という特殊能力を持った少年たちの、頭脳的な駆け引き、そして、極限状態でもあきらめない心。小説は、この要素を引き継ぎつつ、乙一らしい絶望と悲しみ、切なさを加えることに成功している。なぜ、執筆開始から5年、ボツ原稿が2000枚にものぼることなったのか、乙一オリジナル【スタンド】はどのように生み出されたのか、この小説を執筆することで得たものは、などを乙一さんに伺いました。また、VTR冒頭、荒木飛呂彦さんに「ジョジョ」の目指すもの、『The Book』の出来映えなどについてお聞きしました。
松田 原作コミックは息詰まるサスペンス・アクションなんですが、乙一さんは、そこに圧倒的な絶望と悪を持ち込んでいます。それによって、人間の悲しみ、切なさ、優しさを見事に表現しています。こうして、『ジョジョ』でありながら乙一ワールドでもある、コミックと小説が理想的な形で響きあった作品が誕生したんですね。


<今週の松田チョイス>
◎セバスチャン・フィツェック『ラジオ・キラー』(柏書房)



松田 ドイツの異色サスペンス・ミステリー、セバスチャン・フィツェックの『ラジオ・キラー』です。
N ラジオ局の乗っ取り事件発生! 人質をとって立てこもった知能犯が、ラジオを使った冷酷な殺人ゲームを始める。交渉人に指名されたのは、長女の自殺に深く傷ついていた犯罪心理学者イーラ。犯人との息詰まるようなやりとりをはさんで、事件は思いも寄らぬ展開へとなだれ込んでいく。ノンストップ・サイコミステリー。>
松田 この小説は、終始、心臓がドキドキしっぱなしです。思いがけない出来事が次々と起こり、アッと驚くラストシーンまで、一気に突っ走っていくんです。だから、読み始めると止まらなくなります。この犯罪は、マスコミや大衆を巻き込む「劇場型犯罪」なんですが、ラジオ局に立てこもった犯人の要求が、ドイツ中のどこかの電話番号に電話して、決まった答をしないと人質を一人殺すという、シンプルなもの。それだけに怖いのです。そして、犯人との交渉にあたる女性は、高名な犯罪心理学者なんですが、実は、娘の自殺で神経がボロボロになっている。こういう崖っぷちに立っているような絶望的な状況に置かれている主人公からも目が離せません。まさに、スリルとサスペンス満載のミステリーです。
優香 私も、読んだんですが、私は翻訳ものというのは苦手だったんですよ。でも、これはとっても読みやすかったですね。犯人との交渉人も正義のヒーローというのではないのでハラハラするし、その上、びっくりするようなラストシーンなんですね。
松田 壮大な仕掛けのマジックを目の前で見ているような感じでしたね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.1.26)

2008年01月26日

『戦後腹ぺこ時代のシャッター音』と「阿川弘之」


<総合ランキング>  (1/13~19 有隣堂書店全店調べ)
 1位 坂東真理子『女性の品格』(PHP研究所)
 2位 坂東真理子『親の品格』(PHP研究所)
 3位 大庭史榔『1分間骨盤ダイエット』(三笠書房)
 4位 勝間和代『お金は銀行に預けるな』(光文社)
 5位 田村裕『ホームレス中学生』(ワニブックス)
 6位 『広辞苑 第六版』(岩波書店)
 7位 阿川弘之『大人の見識』(新潮社)
 8位 森博嗣『タカイ×タカイ』(講談社)
 9位 勝間和代『効率が10倍アップする新・知的生産術』(ダイヤモンド社)
10位 ロンダ・バーン『ザ・シークレット』(角川書店)


<特集・阿川弘之『大人の見識』>
◎阿川弘之『大人の見識』(新潮社)



文壇の最長老、現在87歳の阿川弘之さんが「ブランチ」に初登場します。阿川さんは、「古き善き日本人」を取り戻すべく、旧制高等学校時代・海軍時代などの経験や見聞、読書や思索、人との交流などからえた叡智を満載した『大人の見識』を書きました。この本は昨年11月に発売されて以来、30万部突破の大ヒットになっています。今回は、阿川さんの横浜のお宅を訪問し、インタビューとともに、その暮らしぶりも拝見しました。また、娘の阿川佐和子さんにも、お父さんの横顔を「娘の見識」をもって語っていただきました。
松田 「見識」なんてついていると、上からお説教されるんじゃないかという風に思うかも知れませんが、(VTRの中で阿川さんが)おっしゃったように、長い人生の中で、いろんな人と出会って、たくさんの本を読んで、その中から得た豊かな知恵を、ユーモアも交えて、穏やかに語りかけてくれているんですね。だから、若い人たちにも、生きる上での大切なヒントみないなものを教えてくれる素晴らしい本になっていると思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎赤瀬川原平『戦後腹ぺこ時代のシャッター音』(岩波書店)



松田 「路上観察」や「老人力」でおなじみの赤瀬川原平さんの『戦後腹ぺこ時代のシャッター音』という本です。
N 1950年代にヒットしたフォトドキュメント『岩波写真文庫』。「東京案内」「スポーツ」「芸術」など、時代の空気をとらえた1冊1テーマの写真百科です。これは、写真好きで名高い赤瀬川原平さんが、そんな『岩波写真文庫』を厳選してまとめた1冊。貧しくも夢を忘れなかったあの時代を振り返ると、懐かしさを味わえるとともに、楽しい発見が一杯です。>
松田 この『岩波写真文庫』が出されていた1950年代というのは、ちょうど「三丁目の夕日」の時代なんですね。みんな物もなくて、貧しくて腹ぺこで、だけど、未来に向かっていろんなものが光り輝いていた。そういう時代なんですね。そして、おなかも減っていたんだけども、知識や文化とか、写真とか映像とかへの飢えもすごくあったんですね。そういう人たちのニーズに応えたのが、「写真文庫」というシリーズなんです。もう一つ、写真というものが、今より大事なものだったんで、1カット1カット、シャッターチャンスを狙って撮っている写真が、すごく力があるんですね。だから、時代を超えて、いま、じっくり見ていくと……赤瀬川さんの絶妙な解説を読みながら見ていくと、いろんな発見がある楽しい本ですね。
優香 本当に活気があるというか、なんかしゃべりかけてくる感じですよね。この時代をまったく知らないんですけど、なんか懐かしいというような気持ちになれるってすごいですね。
松田 ぼくらは、さっき出てきた小学生ぐらいだったんですね。自分が行っていた教室という感じで懐かしいんですけども。
谷原 たしかに、古い写真を見ていると、自分たちの親たちの世界をかいま見られて、ちょっと温かい気持ちになったりしますよね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.1.19)

2008年01月20日

『みなさん、さようなら』と「桜庭一樹」


<総合ランキング>  (1/7~13 三省堂書店全店調べ) 
 1位 坂東真理子『女性の品格』(PHP研究所)
 2位 坂東真理子『親の品格』(PHP研究所)
 3位 阿川弘之『大人の見識』(新潮社)
 4位 田村裕『ホームレス中学生』(ワニブックス)
 5位 勝間和代『お金は銀行に預けるな』(光文社)
 6位 島田裕巳『日本の10大新宗教』(幻冬舎)
 7位 勝間和代『効率が10倍アップする新・知的生産術』(ダイヤモンド社)
 8位 上野千鶴子『おひとりさまの老後』(法研)
 9位 茂木健一郎『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)
10位 ロンダ・バーン『ザ・シークレット』(角川書店)


<特集・桜庭一樹>
◎桜庭一樹『私の男』(文藝春秋)



谷原 今週は、芥川賞・直木賞が発表されましたが。さて松田さん、見事当てましたね。
松田 はい。配当はないんですね(笑)。
谷原 配当は個人的に……(笑)。
<16日に第138回芥川賞・直木賞の選考会が行われ、芥川賞には川上未映子さん「乳と卵」、直木賞には桜庭一樹さん『私の男』が選ばれ、二人のシンデレラが誕生しました。「ブランチ」では、さっそく発表の翌日、金田美香ちゃんとぼくの二人で桜庭一樹さんをお訪ねしてインタビューしました。>
金田 桜庭さん、このたびはおめでとうございます。
松田 おめでとうございます。
桜庭 ありがとうございます。
金田 一夜明けて、改めて受賞の感想は。
桜庭 まだ実感が湧かない感じで。二回目の候補で受賞なんですけども、前回の落ちたときの方が「落ちたんだあ」ってきたんですけども……(笑)。
N 過酷な現実と闘う少女たちの物語を得意とするライトノベル作家として活躍してきた桜庭さん。ここ数年は、一般小説の世界に飛び出し、『赤朽葉家の伝説』では、前回の直木賞候補になるなど、いままさに注目の若手作家。>
金田 それでは、突然ですが、「桜庭一樹さんへの5の質問」(拍手)。まず、『私の男』を書くきっかけを教えてください。
桜庭 最初のきっかけの一つになったのが、男の子の友達の失恋話というのがあって。3、4年前に聞いたんですが、そん時はあまり深く考えなかったんですけど、その子は、女の子に振られた、そしたら、「もう、女性は信じられなくなった。他人の女性は、いま自分のことを好きでも、心変わりしたら離れていっちゃうと思ったら、怖くなっちゃった」と言っていて。「でも、お母さんとか妹とか、血の繋がりがある女性は、何か変化しても離れていくことはないから、血の繋がっている異性しか、もう信じられない」って言っていたことがあって。「どうしてしまったんだろう」って思って(笑)。後から考えてみて、それは極端な例だけど、他人では得られない一体感とか血の繋がりを大事に思う気持ちというのは、誰にでもあって、そういう意味では、血の繋がりって、家族の絆の美しさと怖さって、みんなが持っているもんだなあって思った時に、私はすごく普遍的なテーマだと思ったので……。
金田 続いて、第二問。
桜庭 クイズみたい(笑)。
金田 ヒロインの名前を「腐野花」というインパクトのある名前にした理由を教えてください。
桜庭 若いときは素敵だけども、うまく歳をとって成熟していけない人間というのが現代的なんじゃないかなと思ったので、腐っていく花束のイメージで「腐野花」って、そのままつけたんですね。
N そんな花の父が、荒んだ雰囲気を醸し出すキザな男・腐野淳悟。物語は、こんな1行から始まる。「私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた。」>
松田 1行目から、ある種キザな男ですよね、淳悟というのは。ああいうのを書くときの気持ちというのは、どんなものでした。
桜庭 例えば、映画だったら、出てきた瞬間、どういう人かわかるから感情移入できるというのがあるので、ある種、映像的に、パッと見た瞬間、この人がどんな人かわかって、そのまま物語にもっていけるという風にしたかったので……。
N そこで、桜庭さんが考えたのが、傘を躊躇なく盗むという行為。>
桜庭 善悪の判断基準がゆるい人は怖いと思うんですね。私はよく自転車に乗っていて、駅から家まで自転車で通っていて、時々、盗まれるんですよ。「なんだよ」と思っていたら、もう10年来の友達の男の子が、みんなで飲んでいたときに、「飲んで遅くなったら、よく駅前で自転車を盗む」って言ったんですよ。「お前かっ!」って。傘も、盗んじゃうではなくて、スッと取っちゃう人って怖いと思ったんで。そういう善悪の判断基準を突きつけられる話だよということが最初のシーンでわかるということで、このシーンを思いついて、ようやく『私の男』が書けると思って、書き始めました。
松田 すごい「つかみ」だなあって思いました。
金田 第四問、趣味を教えてください。
桜庭 格闘技で、空手を少し習っているぐらいです。
金田 また、すごい真逆なものを……。
松田 試合とか出たことはあるんですか。
桜庭 私ね、全日本女子というのに2回出て、2回とも1回戦で負けて、それっきりです。
松田 でも、出たんですか。
金田 それでは、最後の質問です。いま、興味のあるテーマは。
桜庭 すごく暗くて怖いんだけども、誰にでもあるものとか、そういう人の暗い面とか悪意とかを、怖い話とかで終わるのではなくて、人の共感を得る話として書いていきたいというのがあります。


谷原 美香ちゃん、実際にお会いして、桜庭さん、どうでした。
金田 小説のイメージとは、また違って、ファッションもすごく可愛らしいものがお好きで、本当に女性らしい一面もお持ちで、すごく魅力的な方だなあって思いました。
谷原 それでも、空手とかやったりしてるとか。
金田 そうなんです。いろんな面をお持ちですよね。
谷原 松田さん、桜庭さんの、どういうところに才能を感じますか。
松田 受賞作『私の男』というのは、選考委員のなかでも「反道徳的」だという声もあったぐらいで、なかなか強烈なストーリーなんですけども、ただ、時間をさかのぼっていくに従って、ある種の浄化がされていって、最後には光り輝くラストシーンに読者を連れて行くという。すごい筆力だと思いますね。選考委員もそれに圧倒されたんだと思いますけども。これだけ書ける人が、次にどういう作品を書いてくれるのか、楽しみだなあと思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎久保寺健彦『みなさん、さようなら』(幻冬舎)



松田 新進気鋭の作家・久保寺健彦さんの長編小説『みなさん、さようなら』という作品です。
N 昨年、文芸誌の新人賞を受賞した久保寺健彦さんのデビュー作『みなさん、さようなら』。小学校の卒業式に起こったある事件がきっかけで、生まれ育った団地から外の世界に出ることができなくなった主人公・悟。しかし、団地の中には何でもあった。彼はここで友達をつくり、働き、恋愛をし、婚約にもこぎ着ける。時代とともに減っていく友人たち。果たして悟は団地から出て行くことはできるのか? 団地の中で生き続ける男のサバイバル・ストーリー。>
松田 小学校を卒業してから30歳まで、団地から一歩も出られなくなった男の話っていう、非常に奇抜なシチュエーションの物語なんです。団地に住んでいるからといって、引きこもっているわけではなくて、いつも体を鍛えているし、独学で勉強もするし、恋もするし、自分が憧れだった菓子職人にもなれるし。本当に、人の数倍も努力して、充実した人生を送っている。だけども、時代とともに団地がだんだん荒廃してくるんですね。その中で、生き抜いていかなければいけないというので、過酷な人生をたどるんです。団地という地味な場所を舞台にして、冒険小説というかサバイバルストーリーをつくっているという、非常に面白い小説でしたね。
優香 私も読みました。タイトルも暗い感じだし、最初から団地に籠もっているということもわかっているので、暗いお話なのかなと思ったら、そうではなくて、団地の中にいるみんなを心配している男の人で、とても前向きな方なんです。生きてるということがすごく伝わる、そういう18年間の人生を目撃しているような気持ちで読める、濃厚な人生だなという感じで読めるものでした。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.1.12)

2008年01月12日

『警官の血』と「山崎ナオコーラ」


<第138回芥川龍之介賞・候補作品>
☆川上未映子「乳と卵」(「文學界」12月号)
☆田中慎也「切れた鎖」(「新潮」12月号)
☆津村記久子「カウソウスキの行方」(「群像」9月号)
☆中山智幸「空で歌う」(群像」8月号)
☆西村賢太「小銭をかぞえる」(「文學界」11月号)
☆山崎ナオコーラ「カツラ美容室別室」(「文藝」秋号)
☆楊逸「ワンちゃん」(「文學界」12月号)
松田 女性作家が候補者の過半数を占めています。なかなか華やかな顔ぶれですね。中でも、本業が歌手だという川上未映子さんですね。饒舌な関西弁で独特の色気がある文体なんですけども、ちょっと注目したいなあと思っていますね。


<特集・山崎ナオコーラ>
◎山崎ナオコーラ『カツラ美容室別室』(河出書房新社)



コーラ好きなので、自分の名前にもコーラを入れてしまったという山崎ナオコーラさん。2004年、『人のセックスを笑うな』で第41回文藝賞を受賞してデビュー。同作品が、第132回芥川賞の候補作になり、さらに、この1月には永作博美、松山ケンイチ主演で映画化されるなど、大注目されている若手実力派。そういう山崎さんの最新作が『カツラ美容室別室』。美容室とそのお客たちとの、恋愛とも友情ともつかない微妙な関係を描いた作品。小説の舞台になっている高円寺を散策しながら、作品について語ってもらいました。
谷原 松田さん、ナオコーラさんの候補作はいかがでした?
松田 随所に出てくる、キャッチフレーズのような言葉がとてもリズムがいいんですね。ちょっと短歌みたいな感じでポーンと入ってきたりして。ドラマにならないような日常を描きながら、そこに、人と人との微妙な距離を感じさせる作品なんですけどもね。なんか、「地上10センチのリアル」といった感じがして、とっても不思議なテイストの作品ですね。面白かったです。


<第138回直木三十五賞・候補作品>
☆井上荒野『ベーコン』(集英社) 
☆黒川博行『悪果』(角川書店)
☆古処誠二『敵影』(新潮社)
☆桜庭一樹『私の男』(文藝春秋)
☆佐々木譲『警官の血』(新潮社)
☆馳星周『約束の地で』(集英社)

谷原 今年の直木賞は重量級のミステリーが揃っているという印象なんですけども、さあ松田さん、本命に選んだ作品は?
松田 力作揃いで、いろいろ悩んで、「ダブル本命」ということで2作あげたいと思います。1作目は桜庭一樹さんの『私の男』ですね。
◎桜庭一樹『私の男』(文藝春秋)



松田 「松田チョイス」でも取り上げましたけども、男と女の強烈で濃厚な物語を、臆することなくグイグイ書ききった筆力は並大抵のものじゃないなと思いましたね。
谷原 たしか、これは優香ちゃんが読んでショックを受けたという。
優香 衝撃的、かなりの衝撃作です。
谷原 ぼくも衝撃を受けてみたいのですが、さあ、もう1本の本命作品は?
松田 もう1本はですね、佐々木譲さんの『警官の血』という上下二巻の作品ですね。
◎佐々木譲『警官の血(上・下)』(新潮社)



松田 『このミステリーがすごい!』の国内部門でも1位に輝いています。実直な警官として生きようとした3代の男たちの物語なんですけども、戦後の闇市から全共闘、そして現代の経済犯罪まで、その時々の事件を織り込みながら、この男たちの人生が描かれていくんですよ。本当に大河小説といっていいと思うんです。そして、第3部の和也という男の話あたりになると、サスペンスがすごくて、最後に本当に衝撃的な「真実」が明らかにされるという、ミステリーとしての醍醐味もあるんですけども、警察とは何かという、警察の姿を赤裸々に描いている問題作でもあるんですね。非常に迫力のある力作だと思います。
谷原 ぼくも是非読んでみたいですね。はい、芥川賞、直木賞の決定は来週の16日になります。松田さんの予想当たるのでしょうか。皆さん、注目しましょう。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.1.5)

2008年01月05日

『ウォッチメイカー』と「三浦しをんと文楽の世界」


<特集・三浦しをんと文楽の世界>
三浦しをん『あやつられ文楽鑑賞』(ポプラ社)



三浦しをん『仏果を得ず』(双葉社)



直木賞作家・三浦しをんさんが、いまはまっているのが日本の伝統芸能「文楽」の世界です。どこか敷居が高く、難しそうというイメージがある「文楽」ですが、三浦さんは、この世界に魅せられて、昨年、2冊の本を刊行しました。ちょっととっつきにくいけど、じっくりつきあってみると楽しい「文楽」の世界を三浦さんの案内で覗いてきました。
谷原 松田さん、本の方もかなり面白いですか。
松田 小説の『仏果を得ず』というのがとても面白いんです。伝統芸能の話っていうと、面倒くさそうな気がするんですが、これは物語を楽しみながら、文楽の魅力を知ることができるんです。出てくる登場人物が、ものすごく個性的で愛すべきキャラクターばかりで、その人達が、しをんさんの絶妙な語りにのって物語が展開されるあたりは素晴らしいですね。文楽の世界に出会って、しをんさんの語りが、また一段と冴え渡っているという気がしますね。


<今週の松田チョイス>
◎ジェフリ・ディーヴァー『ウォッチメイカー』(文藝春秋)



松田 『このミステリーがすごい!』と「週刊文春」という二つの権威あるミステリー・ランキング海外部門で1位に輝いたジェフリ・ディーヴァーの『ウォッチメイカー』という作品です。
VTR 世界中で愛されるジェフリ・ディーヴァーの「リンカーン・ライム・シリーズ」。第1作『ボーンコレクター』は映画化もされ、大ヒットに。主人公は、事故によって体の自由がきかなくなった一流の科学捜査官リンカーン・ライムと彼の手足となって現場に赴く新任の鑑識捜査官アメリアのコンビ。現場に残されたわずかな手がかりを頼りに、冷酷な殺人鬼と息詰まる頭脳戦を繰り広げます。そのシリーズ最新作となるのが『ウォッチメイカー』。犯人は、ウォッチメイカーを名乗り、残忍な殺人現場に必ず名刺代わりのアンティーク時計を遺していく。時計のように緻密な連続殺人計画をライムたちは食い止めることができるのか? 『このミステリーがすごい!』海外部門で1位、「週刊文春」ミステリー・ランキングでも1位に輝いた、いま必読の1冊です。>
松田 さすがに、軒並みNO.1に輝いた作品だけあって、読み出すと、超高速のジェットコースターに乗せられたみたいに、グイグイグイグイ、ハラハラしながら読み進むんですね。で、このリンカーンとアメリアのコンビというのは、『ボーンコレクター』から7作目になるんですが、サスペンスも意外性も飛び抜けて優れた作品です。色濃いキャラクターがたくさん出てくるんですけども、特に、冷酷な事件を計画して実行していくウォッチメイカーという犯人像が強烈で、圧倒的で、本当に魅力を感じてしまうほど悪い奴なんです。それで、物語を読んでいくと、ほかの事件がからんできたり、途中で意外とあっさりと犯人が捕まってしまうんですね。これで終わりかと思っていると、それから、とんでもないどんでん返しが次々にやってくるという、もう、ミステリーファンにはたまらない1冊ですね。
谷原 ぼくも読ませてもらったんですが、ウォッチメイカーというキャラクターが、とても緻密な犯罪計画を立てていくんですね。で、そのウォッチメイカーのキャラクターに引きずられるように、ぼくは、かれこれ4日間ぐらいで読んだんですけども。おかげで、大掃除がどんどん遅くなりましたけどもね(笑)。ウォッチメイカーという人物を作り上げたジェフリ・ディーヴァーさんというのはすごい方だなあと思いますね。松田さんもおっしゃったように、これで終わったと思ったら、さらに別の展開が待っているという、もう、ずーっとジェフリ・ディーヴァーの手の上で転がされ続けた506ページでした。ミステリーファンの方、必読です。是非読んでください。

「王様のブランチ」本のコーナー(2007.12.29)

2007年12月30日

「第6回 輝く!ブランチBOOK大賞」


<2007年BOOK界 様々なムーブメントが!>
①「自己改革本」の大ブーム ②ケータイ小説の大ヒット ③「カラ兄」などの古典名作復活


<第6回 輝く!ブランチBOOK大賞>


小林 今年で6回目を迎えました「ブランチBOOK大賞」、審査委員長は今年もたくさんの面白い本を紹介してくださいましたブックマスター、筑摩書房の松田哲夫さんです。
松田 はい。今年も、たくさんの本に楽しませてもらったのですが、その中からより抜きの作品や作家を表彰させていただきます。


<新人賞>
☆梅佳代『うめめ』『男子』(リトルモア)他



つい見過ごしがちな日常の中のハッとする瞬間を切り取った写真集。「笑える写真集」として大評判になりました。浅草仲見世で賞状を授与し、インタビューしました。
「あなたの写真集『うめめ』『男子』『うめ版』は人間のおかしさ、愛らしさを見事にとらえ、私たちを超笑わせてくれました。絶好のシャッターチャンスを決して逃さないあなたに敬意を表し、王様のブランチはBOOK大賞新人賞を贈りここに表彰します」(表彰状)
谷原 松田さん、新人賞に梅佳代さんを選ばれた理由というのは。
松田 こんなに笑えた写真集というのは滅多にないと思うんです。何度見ても笑っちゃうんですよね。それに、それぞれの人が、「この人、どんな人生を送っているんだろう」っていろいろ考えさせられたりして、そういう意味ではストーリー性もあるし、本当に楽しい写真集でしたね。


<優香賞>
☆松浦寿輝『川の光』(中央公論新社)



都市に流れる川に住むネズミの一家の冒険物語。いのちといのちが繋がっていく姿が活き活きと描かれていて、優香ちゃんは感動したそうです。
「いつもおきれいな優香さんの賞をいただいて、本当に嬉しく思います。優香さんはじめ、ネズミ一家の必死の大冒険の物語を楽しんでくださった読者の皆さんみんなに、この機会をかりて改めて心からお礼申し上げます。 松浦寿輝」(松浦さんからのメッセージ)
優香 松浦さん、どうもありがとうございます。この本は、読み終わりたくないというぐらい、読み続けていたい、その続きがもっと見たいと思えるような本でした。だいたい、動物がメインのお話って、人間が悪く描かれがちです。最初のきっかけも、人間が、ネズミたちの住む場所を追いやってしまうということだったんですけども、でも、この子たちがおうちを探して冒険していくなかで、人間の子供に助けてもらうところがあって、そこが、すごくいいなあ、温かくなるなあと思いました。ぜひ、子供から大人まで、みんなに読んで欲しいと思います。


<谷原章介賞>
☆荒俣宏『アラマタ大事典』(講談社)



学校では教えてくれないけれど、知れば知るほど面白い303のヘンな話。この本は谷原さんの好奇心と知識欲をいたく刺激したようです。賞状を渡し、インタビューしました。
「あなたはその計り知れない豊富な知識を「アラマタ大事典」に惜しげもなく注ぎこみ谷原審査員を驚愕せしめました。よって王様のブランチは谷原章介賞を贈りここに表彰します」(表彰状)
谷原 荒俣さん、ありがとうございました。今回は、小説ではなくて雑学事典のような特殊な本なんですけども、僕自身も読んで楽しかったし、ためになった。子供に与えても、子供が興味を持って読めると思うんですよ。このなかで大好きな話が「おやつの話」で、なんで「おやつ」って言うんだろうと思ったら、昔の日本では朝晩しかご飯を食べなかったんですって。ちょうどおなかがすくのが、昔の時間でいう「八つ時」にそれを食べるんで、「おやつ」ということになったという。ふだん何気なく言っている言葉とか見ているものとかで、知らないことっていっぱいあるんですね。これからも、いろんなことに興味を持って見たいきたいと思わせてくれる本だと思い、今回これを選ばせていただきました。


<大賞>
☆角田光代『八日目の蝉』(中央公論新社)



今年、5冊の傑作小説集を刊行した角田さん、中でも『八日目の蝉』は、「母親」とは何か、「家族」とは何かを切なく問いかけてくる、緊迫の長編サスペンスでした。角田さんの仕事場を訪れ、ぼくが賞状を授与し、インタビューしました。
「あなたは今年人間心理の機微を捉えた優れた小説集五冊を刊行されました。中でも『八日目の蝉』は極めつきのサスペンス小説であると同時に、親子のあり方を改めて私たちに問いかけてくれました。よっって王様のブランチはBOOK大賞新人賞を贈りここに表彰致します」(表彰状)
松田 『八日目の蝉』は今年一番圧倒された素晴らしい小説でした。ちょうど電車の中で読んでいて、涙があふれ出してきて、すごく気まずい思いをしながら読んでいました。
N この『八日目の蝉』は角田さんがあまり手がけなかった犯罪小説であると同時に、出産、育児というテーマにも独自の視点で取り組んでいます。そこには、角田さんのどんな思いが込められていたんでしょうか。)
角田 出産については、自分も年齢を経てきて、周囲の人が、出産した人はしているし、していない人はしていないし、でも出産について悩んでいる人もいる。自分も世代的に出産に近いところにいたんですよね。なので、同世代の女性を書くときに、出産を扱わないと不自然である……産むにしろ産まないにしろ、その問題を書かないのは不自然かなあと思って、わりとそのテーマは重点的に書いたなあっていう気がします。犯罪に関しては、わりといままで、日常の非常に小さいことを書くのが、私は得意だったんですけど、ずーっと日常の小さいところを書いていても、何か自分の枠組みのようなものが出来てしまうんじゃないかっていうのがあって、単純に日常の対極にあるものという意味で犯罪というものを考えて……。
N 今回、テーマを決め込まずに、夢中で書き進めていた角田さんは、ある時、自分が一番書きたかったものに気づいたといいます。)
角田 書き終わってしばらくしてから、自分が一番書きたかったものって何なのかなっていうと、人間の強さとかたくましさみたいなことをを書きたかったんだと、ある時気づいて、たぶん、人はこうあるんじゃないかっていうことなのかなあと思って……。


松田 『八日目の蝉』というのは、サスペンスも凄い、グイグイ引き込まれますし、犯罪みたいに、本当に深いものを問いかけてくるんですけども、最後にはすごく感動的なあったかい物語になっていくという理想的な作品なんじゃないかなって思いますね。本当に何度でも読み返したいっていう気がします。
優香 私もこの作品を読みまして、本当に衝撃的だし面白かったです。

「王様のブランチ」本のコーナー(2007.12.22)

2007年12月24日

『秋の牢獄』と「古谷千佳子」


「王様のブランチ」は、この日で第600回を迎えました。それを記念して、この日の放送は沖縄県那覇市の首里城から生中継でお送りすることになりました。
前日、昼前に那覇に到着し、先行ロケで沖縄に来ているディレクターのオススメの沖縄そばを食べて、首里城の中継ポイントを確認に行きました。すると、にわかに雨が降り出してきました。夜の19時からは、ホテル・ハーバービューで600回のお祝いのパーティが開かれました。その後、二次会、三次会とあったようですが、ぼくは22時でリタイア、部屋で本を読んでいました。若いスタッフの中には、3時過ぎまで飲んでいて、睡眠1時間で本番にのぞんだ強者もいたようです。
その晩は激しい雨で、翌日の天気予報も「曇り時々雨」というものでした。ところが、朝になると青空が広がり、まぶしいばかりの天気でした。気温も25度と高く、汗ばむような気候でした。ぼくは、自分のコーナーを無事終えて、ここで取り上げた『秋の牢獄』の作者恒川光太郎さんと一緒に沖縄そばを食べました。この「てぃしらじそば」という店は、新しい店だそうですが、恒川さんが一押しというだけあって、ジューシー(かやく飯)ともども絶品でした。
その後、みんなのオススメで「沖縄美ら海水族館」に行って、ジンベイザメが悠然と泳いでる姿を観賞しました。帰りに、今度はタクシーの運転手さんオススメのお店でまたまた沖縄そばを賞味しました。帰路は、20時半発の飛行機の予定だったのですが、整備が遅れて30分後に搭乗。すると、電気が切れ、エアコンが止まってしまいました。サブの電源が動かないとのこと。メイン電源で問題なく飛行できるということで1時間半遅れで出発しました。羽田に到着するまでは心配だったのですが、無事着くことができました。
なかなか、波乱に富んだ、面白い沖縄旅行でした。(写真は本番直前の様子です。)



<クリスマス絵本ランキング>  (11/1~30 青山ブックセンター本店調べ)
 1位 荒井良二『ぼくのおとぎ話からの手紙』(フレーベル館)
 2位 酒井駒子『よるくまクリスマスのまえのよる』(白泉社)
 3位 及川健二『ねこのセーター』(学習研究社)
 4位 アン・グッドマン『メリークリスマス、ペネロペ!』(岩崎書店)
 5位 パトリック・マクドネル『おくりものはナンニモナイ』(あすなろ書房)


<特集・海人写真家古谷千佳子>
沖縄在住の海人写真家古谷千佳子さん。東京に生まれ、家族旅行で訪れた沖縄の海に惹かれ、いつか沖縄に、と決意しました。そして、知り合ったウミンチュ(漁師)を通して、漁業の世界や海辺の暮らしに興味をもちました。自ら潜水漁法を経験後、東京でカメラマンの修業をかさね、再び沖縄にやってきて、本島、離島を飛び回り、海人の暮らしをカメラにおさめてきました。東京や沖縄で写真展を開催したり、雑誌などに作品を発表しています。古谷さんの撮影に同行して、その仕事ぶりと沖縄のおじいたちに寄せる熱い想いを語ってもらいました。


<今週の松田チョイス>
◎恒川光太郎『秋の牢獄』(角川書店)



松田 沖縄在住の新進気鋭の作家・恒川光太郎さんの最新作『秋の牢獄』です。
VTR デビュー作『夜市』で日本ホラー小説大賞を受賞し、直木賞候補にもなった恒川光太郎さんの珠玉の作品集『秋の牢獄』。11月7日、水曜日。女子大生の藍は、秋のその1日を、何度も繰り返している。毎日同じ講義、毎日同じ会話をする友人。朝になれば全てがリセットされ、再び11月7日が始まる……。>
松田 この本には三つのお話が収められています。ある1日が永遠に繰り返される話や、日本の各地を移動していく家に住むことになった男の話、幻を操れる超能力をもった少女の話です。どれも「閉じこめられる話」なんですね。主人公たちは、時間や場所などに閉じこめられてしまいます。そして、そういう自分が置かれた状況がわかってくると、彼らは深い絶望に陥ります。でも、その絶望の底から、いい知れない幸福感のようなものもわき上がってくるんです。ちょっとしたはずみに、フッと迷い込んでしまいそうな怪しいまでに美しい別世界を垣間見せてくれる、リアリティをもった現代の民話といった感じで、味わい深い物語ばかりです。
谷原 恒川さんは沖縄在住ということですが……。
松田 この本のお話は沖縄が舞台になっているわけではありませんが、日常生活の延長線上にスピリチュアルな世界が広がっている沖縄という土地からインスパイアされているということです。

「王様のブランチ」本のコーナー(2007.12.15)

2007年12月15日

『わたしってどんなヒトですか』と「万城目学」


<総合ランキング>  (12/3~9 リブロ池袋本店調べ)
 1位 『このミステリーがすごい!2008年版』(宝島社)
 2位 坂東真理子『女性の品格』(PHP研究所)
 3位 田村裕『ホームレス中学生』(ワニブックス)
 4位 伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(新潮社)
 5位 西尾維新『刀語 第12話』(講談社)
 6位 ロンダ・バーン『ザ・シークレット』(角川書店)
 7位 茂木健一郎『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)
 8位 中村江里子『中村江里子の毎日のパリ』(KKベストセラーズ)
 9位 阿川弘之『大人の見識』(新潮社)
10位 佐藤優『国家の謀略』(小学館)
松田 (1位の 『このミステリーがすごい!2008年版』の)海外編の1位に輝いたジェフリー・ディーヴァーの『ウォッチメイカー』ですが、映画化された『ボーンコレクター』の探偵リンカーン・ライム・シリーズの最新刊ですね。ぼくは、まだ読んでいないので、正月休みの楽しみにとってあります。


<BOOK NEWS>
◎TBS「イブニングファイブ」『一ヶ月の花嫁』(マガジンハウス)


<特集・万城目学>
英玲奈 「ブランチ」でも(万城目さんには)たびたび注目してきたんですよね、松田さん。
松田 ぼくの「松田チョイス」で次々に取り上げてきましたし、昨年、ブランチBOOK大賞新人賞も差し上げましたね。
優香 私も『鴨川ホルモー』と『鹿男……』読んだんですけども、とにかく発想が面白いですよね。誰も考えつかないようなところを……。
松田 でも、ありそうな……。
◎万城目学『鴨川ホルモー』(産業編集センター)



◎万城目学『ホルモー六景』(角川書店)



京都を舞台に、オニたちを操って戦わせる奇妙な競技「ホルモー」にかかわってしまった大学生たちの姿をコミカルに、そして感動的に描いた快作『鴨川ホルモー』で華々しくデビューを飾った万城目学さん。第二作『鹿男あをによし』も直木賞候補になり、この1月から玉木宏、綾瀬はるか主演でドラマ化も決定しています。そして、このたび第三作『ホルモー六景』が刊行されました。まさに大注目の大型新人作家である万城目さんの仕事場を訪ね、会社を辞めて3年間無職だったこと、どういうきっかけで「ホルモー」などという奇妙なものを思いついたのか、執筆へのこだわりなどをうかがいました。
優香 万城目さん、本がすごく変わっているので、ちょっと変わった方かなあと思ったんですが、意外と柔らかく優しい雰囲気の方でしたね。
谷原 松田さん、新作の『ホルモー六景』の方はいかがでした。
松田 短編集なんですけども、「ホルモー」にまつわるいろんな話が出てくるんですが、時代も安土桃山時代にいったり、大正時代にいったり、場所も東京が出てきたりするんですね。それで、全部、恋愛ドラマなんですよ。いろんなタイプの恋愛が、ホルモーがらみで……(笑)。
優香 ホルモーがらみで……(笑)。
松田 読んでいない人にはわからないと思いますが……。
優香 叫びたくなりますもんね、「ホルモー!」って。


<今週の松田チョイス>
◎大田垣晴子『わたしってどんなヒトですか?』(メディアファクトリー)



松田 エッセイコミックの第一人者、大田垣晴子さんの『わたしってどんなヒトですか?』です。
VTR 自分のことって、実はわからないことだらけ。人気画文家の大田垣晴子さんの最新コミックエッセイ『わたしってどんなヒトですか?』はひと味違う自分探し。作者自ら、美容、健康、恋愛、性格、運勢、体力など様々な方面のプロに「わたし」を判定してもらって歩き、それをイラストと文章で実況中継。思いもかけない自分がそこに。きっと参考になるはず。>
優香 私も読みました。すごい面白いです。自分を知る方法ってこんなにたくさんあるんだって。たとえば「色」もそうだし「脳」もそうだし、いろんなことがあるんです。「骨格」からなにから。それで全部知れちゃうっていうのは、すごく面白くて。私は、特に「ロルフィング」と「アーユルヴェーダ」が面白かった。
谷原 ロルフィング?
松田 整体みたいなね。整体よりも、もっと複雑なところまでわかる……。
優香 姿勢がよくなるというか……。いろんな情報がありました。
松田 大田垣さんという人は、すごく好奇心旺盛で、観察眼があって……。ここに、占いなんかもたくさん出てくるんですが、初めっから疑ってかかる人か、はまっちゃう人かが多いじゃないですか。大田垣さんは、素直に受けてみて、それで、驚いたり、「エーッ、こんな結果が出た」って焦ったりして、結構笑えるんですけども。だから、こんなにいろんな自分というものの知り方があるんだということを教えてくれる、すごく役に立つ本でもありますよね。

「王様のブランチ」本のコーナー(2007.12.8)

2007年12月09日

『冠・婚・葬・祭』と『神の雫』


<コミックランキングTOP5>
 (11/27~12/3 日販オープンネットワークWIN調べ)
 1位 井上雄彦『バガボンド』27巻(講談社)
 2位 井上雄彦『リアル』7巻(集英社)
 3位 浦沢直樹『PLUTO』5巻(小学館)
 4位 三浦健太郎『ベルセルク』32巻(白泉社)
 5位 若杉公徳『デトロイト・メタル・シティ』4巻(白泉社)


<こんな本どうでしょう!>
 ◎ほしよりこ『僕とポーク』(マガジンハウス)


<特集・『神の雫』>
◎亜樹直・作、オキモト・シュウ・画『神の雫』(講談社)



2004年から「週刊モーニング」で連載が始まり、現在も人気連載中の漫画「神の雫」。これまでのワイン漫画と違い、その深い造詣と、素人技とは思えないワインの表現描写がうけ、日本だけではなく、韓国ではビジネスマンの必読書として大ヒットし、ワインブームに火をつけたといわれています。原作者は亜樹直さん。実は、姉妹のユニット作家。弟はあの「HERO」の原作者でもあり、これまでも多くのアニメやドラマの原作を手がけている。今回は、亜樹さんの仕事場を訪問し、その独特な表現が生み出される現場をリポートしました。


<今週の松田チョイス>
◎中島京子『冠・婚・葬・祭』(筑摩書房)



松田 面白い小説を次々に発表しています作家・中島京子さんの最新作『冠・婚・葬・祭』という作品です。
VTR 成人、結婚、葬儀、お盆。これはそれぞれの人生の節目に立ち会った主人公たちが奇妙な体験をする連作短編集。成人式を取材した地方紙の新米記者。時代の波に押され引退した天才お見合いおばさん。当り前に行われるはずだった儀式が思わぬ方向に行ったとき、そこに人生の意味が鮮やかに浮かび上がった。>
松田 この小説集を読んでいると、本当にうまいなあ、とうならされる、本当に面白い小説集なんです。でも、小説を読んでいるというよりは、その人の人生を一緒に生きているような感じなんですね。人生って、物語みたいには思ったように動いていかないものんですね。とんでもないところに転がっていったりする。で、とんでもないところに転がっていって、最後に思いがけないハッピーエンドがあったりする。それが一緒に体験できるみたいな感じですね。たとえば、天才お見合いおばさんというのが出てくるんですけども、それまでもさんざんうまくカップルを結びつけてきたんだけど、昔取った杵柄で、あの手この手やるんですが、みんな外れちゃうんですよね。それで、どうしようもないなあと思っていると、最後に、実は見事な幸せなシーンが出てくるという。本当に、調子っぱずれの人生も、なかなかいいもんじゃないかと思わせてくれる、楽しい本でした。
小林 私も読ませていただいたんですが、新米記者が出てくるんですけども、まあ、とんでもない大きな事件に巻き込まれてしまって、私も、そこまで大きな事件には巻き込まれた事はないんですけども、仕事でちょっとミスするとすごく落ち込んじゃって、次に行くのにすごく時間がかかっちゃうんですが、そうじゃなくて、なんか落ち込んだ後に、見えてくる幸せだったりとか、ちょっとした嬉しいことが、本当は大切なのかなあっていうことを、本で学ばせていただいたなあって思いました。

「王様のブランチ」本のコーナー(2007.12.1)

2007年12月01日

『しずかな日々』と「カレンダー特集」


<特集・カレンダー>
 *丸善・丸の内本店・売れ筋ランキング*
 1位 A WORLD OF BEAUTY(JAL)
 2位 歳時記カレンダー(シーガル社)
 3位 猫めくり(カミン)
 4位 世界の文化遺産 日本編(山と渓谷社)
 5位 6万円貯まるカレンダー シャッフル型(アルタ)
*今年一年を賑わせた人物・事柄をカレンダーで振り返る*
 ◎ビーチバレー 浅尾美和選手 (コメントあり)
 ◎北海道日本ハムファイターズ ダルビッシュ有投手
 ◎大衆演劇・劇団朱雀2代目 早乙女太一
 ◎東京六大学野球 早稲田大学斎藤祐樹投手
 ◎エビちゃんカレンダー 蛯原友里 (コメントあり)
*アイドルカレンダー・ランキング*
 1位 新垣結衣
 2位 皆藤愛子
 3位 小林麻央 (コメントあり)
 4位 杉崎美香
 5位 AKB48 (コメントあり)


<今週の松田チョイス>
◎椰月美智子『しずかな日々』(講談社)



松田 今年の野間児童文芸賞を受賞した椰月美智子さんの『しずかな日々』です。
VTR 椰月美智子さんの野間児童文芸賞受賞作『しずかな日々』。誰ともなじめなかった小学5年生の「えだいち」は、ひょうきんで思いやりのある押野くんと友達になり、少しずつ自分の殻を破っていく。ところが、お母さんの都合で転校の危機。周りの人の手助けで、近所のおじいさんと暮らすことに。それは、キラキラと輝く、幸せな日々の始まりでした。>
松田 本当に心が温かくなる素晴らしい小説なんです。町の中にあるんですけれど、田舎の家みたいなところで、無愛想だけど優しいおじいさんと一緒に暮らすんですね、この少年は。そして、すごく気の許せる友達もできて、キラキラと輝くような少年時代の日々を送る。本当に理想的な少年時代という感じなんです。だけど、なんで、こういう理想的な少年時代が送れたのか、ということが最後になるとわかる。実は、そのまわりではそれなりの嵐というようなものがあったんだけど、そこから守られていたから、よけいに輝きが素晴らしかったんだなということがわかるんですね。本当に静かだけど温かい、素晴らしい小説でしたね。
谷原 ぼくも読ませていただいたんですけども、最初、友達もあまりいなくて、母親と二人だけの生活だったんですよね。自分の世界の中心は母親だし、すべてが母親だったんですが、親友ができ、外で遊べるようになり、そして、おじいさんの家にいって生活するようになって、だんだん世界が色づいてきて、自分と母親の違いというものを意識していく。母からの自立の物語という側面もあるんですよ。幼いときの自分と、一つ一つ大人になっていくステップが重なっているところもありまして、とても共感して読むことができました。

「王様のブランチ」本のコーナー(2007.11.24)

2007年11月24日

『私の男』と『ホームレス中学生』


<総合ランキング>  (11/12~18 三省堂書店全店調べ) 
 1位 田中裕『ホームレス中学生』(ワニブックス)
 2位 ロンダ・バーン『ザ・シークレット』(角川書店)
 3位 加島祥造『求めない』(小学館)
 4位 「ユリイカ臨時増刊号・総特集荒木飛呂彦」(青土社)
 5位 渡辺健介『世界一やさしい問題解決の授業』(ダイヤモンド社)
 6位 美嘉『君空』(スターツ出版)
 7位 村上春樹『走ることについて語るときに僕の語ること』(文藝春秋)
 8位 吉本佳生『スタバではグランデを買え!』(ダイヤモンド社)
 9位 古市幸雄『「1日30分」を続けなさい!』(マガジンハウス)
10位 上野千鶴子『おひとりさまの老後』(法研)
<BOOK NEWS>
 ◎中山和義『大切なことに気づく24の物語』(フォレスト出版)


<特集・田村裕『ホームレス中学生』>
◎田村裕『ホームレス中学生』(ワニブックス)


 
発売から二ヶ月半で140万部突破を達成。麒麟・田村の切なくも面白い貧乏生活を綴った笑えて泣ける貧乏自叙伝。中学生の時に、父親が「家族解散宣言」したためにホームレスに。ハトのえさであるパンくずを拾い集めた日々。そして、いつでも遠くで見守ってくれていた母親への思い。今回は、どうしてこの本がこんなに売れているのか、田村さん本人へのインタビューを軸に、相方の川島さん、担当編集者などからもお話を伺いました。


<今週の松田チョイス>
◎桜庭一樹『私の男』(文藝春秋)



松田 人気も評価もうなぎ登りの作家桜庭一樹さんの最新作『私の男』です。
VTR 桜庭一樹の最新作『私の男』。うらぶれた養父淳悟と、彼を愛するしかなかった娘の花。二人の禁断の愛の物語はアルバムをめくるように時をさかのぼっていく。著者は『赤朽葉家の伝説』で直木賞候補にも選ばれた注目の作家。北国の海辺の町で、逃げるように移り住んだ東京で、何があったのか。かいま見える殺人事件の影。そして、衝撃の過去が蘇ってくる。>
松田 この小説は、読み始めると、あまりに強烈な登場人物のキャラクターと、重苦しいまでの暗さに圧倒されてしまいます。孤独な男女の愛が、読者をたじろがせてしまうほどの迫力があるんです。ただ、桜庭さんの筆の力でグイグイと引き込まれてどんどん読んでいくと、過去をズーッとさかのぼっていくと、なぜこういう愛が生まれたのかということがわかってくる。そうすると、ギリシャ悲劇を観ているような、禁断の愛の美しさみたいなものが、最後には輝いて見えてくるんです。これだけ力がある作品なので、たぶん、次の直木賞候補になるんじゃないかと思いますし、大きな賞を取る作品になると思いますね。
優香 私も読みまして。こういう感じのは初めて読んだんですけども、表紙も結構衝撃的じゃないですか。で、読み始めても、刺激的なことがすごくあって、うーんちょっと難しいなあって思いながら読んでいったんですが、途中から、サスペンスなんだということに気がついて、そこからはグーンと引き込まれていったんです。とにかく、刺激が欲しい方にはいいですよね。
松田 過去にさかのぼっていくというところがミソですよね。いろんなことが見えてくる、そこが面白いです。
谷原 みなさんも禁断の愛に溺れてみてはいかがですか。

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